シュリ

小説書き。 健気な愛、献身、歪な関係、そういう世界が好きです。人外×人間、極端な歳の差…

シュリ

小説書き。 健気な愛、献身、歪な関係、そういう世界が好きです。人外×人間、極端な歳の差も愛しています。 廃墟、ロリィタ、スチームパンク、メカメカしい(電車の連結部分とかバイクのごちゃごちゃしたところとか)ものも大好物です。 描いた絵をAIに食べさせて吐き戻してもらうことも。

マガジン

  • 天使の脳みそ

    短編・掌編小説集です。 耽美、退廃、その他趣味が詰まってます。

  • 透明な紳士と、透明になりたかった私

    春風若菜はただ、ゴスロリを着て、夜の廃墟にたたずみたかっただけなのに。 そこに棲みつく透明な〝彼〟に手を取られ、 気づけば私は、泥にまみれて甲斐甲斐しくかしずかれていた―― ゴスロリ×廃墟と人外×少女の織り成す、 冷たくてあたたかなホラーラブ。

  • さよなら、アリス

    ――中学生の僕、お向かいのお姉さんにゴスロリを着せられる。 僕の住む家の向かいには、古い廃墟の館がある。ある日そこに不思議な女の人が引っ越してきて、ひょんなことから家に招かれてしまった。ロリィタファッション、アンティーク、美しい絵画や音楽……そこには僕の知らない「美」であふれていた。近世にタイムスリップしたような館の空気と妖しく微笑む彼女の雰囲気に呑まれていく。「あなたはアリスよ」――彼女に言われるがままロリィタを着せられ、僕は次第に、幻想世界へ頭からどっぷりと浸ってしまっていたのだった……

最近の記事

タバコ嫌いの女の子がタバコ休憩についていっちゃった話

薄月  タバコはきらいだった。  駅前の横断歩道へ急ぐ途中、煙の先端が鼻先に届くだけでもう嫌だったし、道端でひらたく千切れた破片を見るだけで嫌悪した。  喫煙席が隣りあってる居酒屋なんて絶滅すればいい。タバコ休憩は重罪になってほしい。あれを指先に挟んでいるひとは大抵うすよごれて、歯が黄色くて、笑いかたの下品なひとだ。 「騒がしいの、苦手?」  カラオケ店の出口まであと一歩のところで軽やかな声がした。黒い革ジャンに細いジーンズ。くしゃくしゃの無造作な髪の男のひと。さっ

    • 透明な紳士と、透明になりたかった私

      第十二話 燕尾服の使用人 *  県境に広がる別荘地のなかを一台の軽自動車が走っていた。車はうろうろと迷うように別荘地内を一周した後、奥まった箇所に建てられた白塗りの別荘の前で停車した。  車の中から、二十代と思しき男女が降りてくる。男のほうはなんの変哲もない、ごく普通のサラリーマン風の見た目をしているが、女のほうは全身真っ黒なドレス姿で、緑に囲まれた別荘地のなかでひどく目立っていた。  何しろ男に比べて頭一つほど背が高く、長い黒髪を縦に幾重にも巻いて、頭から垂れた黒い

      • 透明な紳士と、透明になりたかった私

        第十一話 あなたの気持ち *  綾斗は見ていた。慌てて逃げ込んだ二階の端、バルコニーへ続く壊れた扉の前の柵から、階下で起こった惨劇を。  初めに甲高い悲鳴がほとばしった。暗闇のはずの階下に血だまりがじわじわと広がっていくのがはっきりと見える。それは南雲の連れて来た取り巻きのひとりのものだった。血だまりのなかにべしゃりと倒れ込み、四方に赤いしぶきが飛び散った。  血だまりのなかのそれは、あるはずの両手と両足が見えなかった。  あまりに一瞬で、何が起こったのかだれも理解で

        • 透明な紳士と、透明になりたかった私

          第十話 愛した報い 「春風さん、何やってるの、逃げなきゃ――」  綾斗のささやきにも、若菜は耳を貸さなかった。 「逃げたきゃ逃げて。わたし、これ以上ここを壊されるのが我慢ならないの」 「何言ってるの、バカじゃないの⁉」  バカなことを言っていると、自分でも思う。  自分は目の前の奴らより土地勘があるのだから、わざわざこうして姿を現さなければうまく逃げられたかもしれない。だが、奴らが自分を探して屋敷じゅうを荒らしまくるのがどうしても許せなかった。  ここは、彼とわたし

        タバコ嫌いの女の子がタバコ休憩についていっちゃった話

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        • 天使の脳みそ
          8本
        • 透明な紳士と、透明になりたかった私
          12本
        • さよなら、アリス
          24本

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          透明な紳士と、透明になりたかった私

          第九話 鼓動を止めたいだけなのに *  洗ったばかりの体に、やわらかな部屋着をまとって。  洗ったばかりの髪を、やわらかなタオルに押し包まれて。  彼に髪をくしけずってもらえる時間がとても好き。  見上げた先に、ガラスの抜け落ちた窓がある。ここは寝室。この部屋は以前、闇につつまれていた気がするけれど、そんなことはもう忘れてしまった。  かわいらしいサーモンピンクの壁と、部屋をぐるりと取り囲むドールたち。  髪を梳かれたあとは、ふかふかのベッドで足を伸ばす。 「来て。

          透明な紳士と、透明になりたかった私

          透明な紳士と、透明になりたかった私

          第八話 すべての報い  昔から人形遊びが好きだった。  といっても、女児が人形を使って安っぽいホームドラマを演じるようなごっこ遊びをしていたわけではなく、ただ、人形にドレスを着せて眺めるのが好きだったのだ。  人形のドレスは、この世にはびこる世俗的な安っぽい服と違い、レースが大胆に使われていて、ふわふわしていてかわいらしく、幻想的だった。現実ではだれもこんな服を着てくれない。でも、それでよかった。似合う人間が存在するとは思えなかったからだ。  人形遊びに興じる綾斗を仲間

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第七話 鎖と罰 *  三十八度。  若菜は体温計を覗き込み、がくりと腕を下ろした。朝から熱が出てしまい、ベッドで横になっていたのだが、いつの間にか昼の三時になっている。  ――今日は、あそこに行けそうにないな。  咳や鼻の異常はなく、かすかな悪寒があるだけだ。明日には治るだろうが、あの幽霊が心配しているんじゃないか、寂しがっているんじゃないかと思うと気が気でなかった。  彼にとって、自分は若菜じゃない。エマなのだ。その自覚をもっと持っておくべきだった……  やるせ

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第六話 尊い世界 *  この町に来た初日、夜道で見かけたゴスロリ少女が春風若菜という名だと知ってから、綾斗の心は浮足立っていた。  昼間の彼女は地味な顔と地味な空気を一生懸命取り繕っているが、繕えていない。無表情で黒板を見つめる彼女の横顔を見つめていると、黒と紫のアイシャドウや黒髪のツインテール姿がおのずと浮かんでくる。  ゴスロリなんて、どんな美少女が着てもひどく浮ついて見える幻想の服だと思っていた。だが、ちがった。春風若菜だけは本物だった。レースとフリルに包まれる

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第五話 こもりうた  次に目が覚めたとき、若菜は再び暗闇のなかにいた。  何か、あたたかなものに横抱きにされて、ゆらゆら揺れている。  ――これは、腕。あの燕尾服の、腕……  若菜は暗闇のなかで目をしばたたいた。闇に馴染んだ瞳が、ぼんやりと燕尾服の襟元の輪郭をとらえる。自分が彼の腕に横抱きにされていること、その腕にゆらゆら揺られている状況をじわじわと飲み込んでいく。  彼は鼻歌まで聞こえそうなほど軽やかに若菜を揺らしていた。まるで赤子をあやすかのように。  腕のなかで

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第四話 Emma  制服に着替え、鞄を手に家を出る。自転車に乗って学校へ向かう。だが校門前で茶髪の女生徒たちの集団を見た瞬間、反射的急ブレーキをかけてしまった。  暴力を振るわれ、服を脱がされ、胸に落書きされても、「どうでもいい」と言えたのに。「好きにしろ」と言えたのに。どうして逃げることがある?  逃げたらきっと、彼らはますます調子にのるだろう。撮った写真を本当にばらまくかもしれない。ネットで売りつけられたら二度と取り返せなくなる。それなのに、足が竦んで動けない。

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第三話 ひとりにしないで  燕尾服は、常に懐中時計を持っている。  燕尾服は、よく見ると裾がすり切れている。  燕尾服なのに、若菜という客人の扱いが雑だ。  燕尾服以外に、衣服はなさそうだ。  燕尾服しか見えないけれど、実際に触れると肩や腕、胸にがっしりとした厚みがある。  燕尾服ということは、誰かに仕えるひとだったのだろうか。  燕尾服を着るのは、現代ならばオーケストラのマエストロ、あるいは公の場に出る偉いひとくらいしか思い浮かばないが、偉いひとが誰かの食事を世話したり

          透明な紳士と、透明になりたかった私

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          第二話 汚してほしい *** 「■ね」と言われた回数、二〇〇回。 「ビッ■」と言われた回数、一二〇回。 「ク■女」と言われた回数、五一〇回。 「下品女」七〇回。 「エ■女」一五〇回。 「男好き」「泥棒」「サイテー女」「パパ活女」「穴」「ブス」……回数は実際に数えたわけじゃないので体感だが、これくらい言われていてもおかしくない人生を送ってきた。だがぜんぶ嘘っぱちだ。醜い嫉妬と勘違いと、日本人特有の「出る杭は打たねば」という集団心理のせいだ。  中学生の頃にはすで

          透明な紳士と、透明になりたかった私

          透明な紳士と、透明になりたかった私

          第一話 ゴスロリと廃墟  たぶんこれは、はじめて買ったゴシックロリィタ。お母さんがくれた五万円を握りしめてブティックに行って、前から目をつけていた新作のマネキン――の隣にセールで雑に並べられてたハンガーラックから一着取り出して、「これください」と勇気を振り絞った。  高校生の分際で、一着三万円もするお洋服を買ってしまった。お店で袖を通して、そのまま着て帰った。すでに八千円の厚底靴と黒いチュールレースのヘッドドレスをつけていた。全身フル装備になったあの瞬間の開放感とほんの少

          透明な紳士と、透明になりたかった私

          第二十五話 その名を呼んで

           その瞬間……おそらく一、二分ほどだっただろうが、賢嗣にとっては永遠にも思える時間だった。  ようやく、かちゃりと鍵の開く控えめな音がして、扉がほんのわずかに動いた。焦れったいような動きだったが、賢嗣は自分が開けたいのをぐっと我慢する。彼女自身に開けてもらわなければ意味がないのだ。彼女の本心を確かめたいのだから。  ぎぎ、と軋んだ音と共に隙間から暗闇が見える。ちょうど、賢嗣の背後、頭上高くに昇った月が光を伸ばして、その闇を淡く照らし出した。そして、小さく身体を丸めた彼女の

          第二十五話 その名を呼んで

          第二十四話 あなたに会いたい

           十 『僕、賢嗣です』  けんじ、と聞いたとき、わたしの頭の中には真っ先に「賢嗣」の文字が浮かんだ。そして初めて、スピーカーの向こうの声と、懐かしい顔がつながった。  引っ越し業者の中に、いたなんて。  あの日この家に荷物を運んできた三人の男性の姿が思い浮かぶ。人と接するのがすっかり怖くなっていたせいで誰の顔もまともに見ていなかった。代表らしき人は歳もそこそことっていそうなので、残りの二人のどちらかだろう。  一人は、黒髪だった気がする。もう一人は茶髪だっただろうか

          第二十四話 あなたに会いたい

          第二十三話 あなたを知らない

           週明け、この日の大学は午前で終わる。賢嗣は終了してすぐにT大を出ていた。いつもなら図書館で課題や勉強をしてから帰るのだが、今日は違う。 「横澤、午前で終わり?」  門前で同期の男子たちと鉢合わせる。彼らとつるんでいる女子たちも一緒にいた。 「うん、そうだけど」 「なら、どっかいかね? こいつらがおまえも呼びたいってうるさくて」 「あーっ、なんでそういうこと言うかなあ。違うんだよ横澤君、別に呼びたいっていうんじゃなくって……」  慌てふためく女子たちに、賢嗣は申し訳な

          第二十三話 あなたを知らない