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女と女の約束54 或いは嫉妬

石川角白
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https://twitter.com/tacklesun/status/1555853348850774016


 恵理(えり)はしばらくの間、ある感慨(かんがい)を持ってモニターに映っている一人の女事務員と相対していた。

 宮平美智子。
 事件当時、中臣(なかとみ)物産の事務員。村瀬殺しの数ヶ月後に辞めている。
――若いというだけで綺麗(きれい)な時期がある。私にもあった……
「宮平美智子は1998年末をもって寿(ことぶき)退社」
 とある。
 美智子の夫となったのは大城という実業家で、この大城、奇しくもつい数日前に毒殺されている。
 大城は元・暴力団員だったから警察には大城の分厚い調書が残っている。
 それによるとこの美智子、十年前の村瀬殺しの捜査線上に一旦(いったん)は有力容疑者として浮かんでいた。
 スカートを穿(は)いている者なら女子中学生からビルの清掃婦まで蒐集(しゅうしゅう)する村瀨がこの事務員・宮平美智子を例外にするわけもないから警察としては「美智子に惚(ほ)れてしまった大城が邪魔(じゃま)になった村瀬を轢殺(れきさつ)した可能性の否定」をするのが手順だ。
 勿論(もちろん)、
「三角関係を清算するために、美智子自身が邪魔になった村瀨を轢(ひ)いた、或(ある)いは、公序良俗(こうじょりょうぞく)違反の不倫(ふりん)男女がタッグを組んで村瀬を殺した可能性」
 も刑事たちは考えた。
 当然、刑事たちの尋問(じんもん)は、美智子や大城本人にまで及んでいたが、「証拠無し」と報告されている。
 結局、調書は「元・事務員であり退職後、大城の妻となった宮平美智子と元・パトロンだった轢殺(れきさつ)被害者・村瀨との不倫(ふりん)関係」に言及(げんきゅう)するだけで終わっている。
 だが晴子が嬰児(えいじ)・翼(つばさ)に母乳を与えている頃、夫の村瀨は大城との結婚を控えた美智子の乳房(ちぶさ)をしゃぶっていたという不倫の事実は容疑者となった晴子に不利な状況証拠として作用した――寝取られた恨(うら)み、或(ある)いは、嫉妬(しっと)。

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