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女と女の約束56 ノックス帽

石川角白
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第一節 偽造(ぎぞう)屋

 国際通り中程(なかほど)から南に下った平和通りに腕の良い偽造(ぎぞう)屋が居る。
 この男、とにかく電話を嫌がって曰(いわ)く、
「デジタルに変わったから盗聴難(むずか)しい、ゆうのは俗説ね。警察、狙(ねら)いを付けて片っ端から盗聴してるよ」
 よってこの偽造屋とは電話での商談ができない。そして平和通り近辺は混む。なんと時刻によってはバスと客を乗せた(実車)タクシー以外は乗り入れ禁止でしかも通り沿いの駐車料金は法外だ。

 押し入れの棚、最上段から楕円柱(だえんちゅう)の箱を下ろす――去年、仕舞(しま)い込んだきりのノックス帽(ぼう)に黴(かび)は生えてなかった。
 歳をとればとるほど身形(みなり)には気を付けるべきだ。年寄りは只(ただ)でさえ軽(かろ)んじられる。貧乏人に見られた場合は尚更(なおさら)だ。
「もしや名のあるお方では?」と相手が勝手に思い込むように装備を整えるのが理想だが、とにかく、貧相だと行く先々でサービス業の末端従事員にナメられっぱなしで惨(みじ)めな一生を終えることになる。

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