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短編『何も気にならなくなる薬』136

「システムが落ちた」
「どうなるんです?」
「AIによる対応ができなくなった」
「それって我が社の売りであるAIチャットによるカウンセリングアプリが機能しないってことですよね」
「そうだ。だから私は復旧作業に取り掛かる。君にはAIの代理をお願いしたい」
「AIの代理ですか」
「君の言いたいことも分かる。人間の代わりをAIにしていたはずが、その代わりを人間がやることになったわけだ。とにかく頼むよ」

「先輩、システムの復旧はまだですか?あれから一ヶ月も経ってますよ」
「もう少し頑張ってくれ。今、人為的に行われたものとAIの仕組みとで整合性を取るために調整中だ」
「そのままAIに切り替えてはいけないんですか?」
「こんな事を言うのも何だけどもね、君の対応が良すぎて、このままAIに戻すとサービス満足度が下がりかねない」
「そんなにひどいサービスだったんですか?我が社の製品は」
「いや、私達もわかってはいなかった。AIに適切な相槌を打たせるよりも、人間が悩んで返答するほうがよっぽど会話をしている気分になれるそうだ」
「それじゃあ、本末転倒じゃないですか」
「なるほど、そうか、わかったぞ。ではAIの方は整合性を無視してそのまま復旧しよう。そして、君には専属のアカウントを用意しよう。そうすれば君を指名する人が現れる。もちろんこれは別料金、インセンティブは君に入る。
それならいっそのこと、他の人にもぜひやってみてもらおう」

「なぁ、このアプリ知ってる」
「なにそれ」
「なんか、サイトウさんって人とつながるアプリなんだけど、暇なときにメッセージ送ると適当に返ってくるんだよね」
「そんなのAIチャットでいいじゃん」「いや、違うんだよAIチャットだとすぐに返事が来るけどさ、サイトウさんだと返信が遅いときがあるから、なんかやり取りをしてるなって感じがするんだよね。他にもさ、タナカさん、オカダさんってのもあるんだよ」

美味しいご飯を食べます。