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着信拒否予備軍

 現在、連絡手段というのは数多く存在している。手紙に始まり、メール、LINE、SNSなど本当にたくさんある。これらは全て送った時間に関係なく、受け取った側の都合のいいタイミングで返信することができる。

そのようなものに慣れてしまっているからか、リアルタイムでの対話しかできない「電話」が少し苦手だ。急な着信があるとちょっとだけ身構えてしまう。

そんな電話に関してここ数日悩まされていた。

 始まりは10日程前。

日課であるネットサーフィンをしていると、突然着信を知らせる振動が左手首に来た。私のスマホはなんらかの通知があると腕時計の振動で教えてくれるため、わざわざスマホを開く必要がない。

腕時計の画面を見ると登録していない知らない番号が表示されていた。この場合次にやることは決まっている。

電話番号検索だ。

とりあえず出てから考えようみたいな挑戦心は生憎持ち合わせていない。石橋を渡る際には叩けば叩くほどいいと思っている。

便利な時代なので電話番号を調べてしまえば、相手の素性などだいたい分かってしまう。これで全く知らない業者だと分かれば出なくて済むし、知っている相手だと分かれば安心して一旦無視できる。重要な用事ならまたかけてくるだろう。

 ネットサーフィンを中断し、表示された電話番号を高速で打ち込む。七桁ほど打ったところで検索サジェストが消えた。どうやら調べている人はそんなに多くないらしい。

エンターキーを押し画面が切り替わる。ばーっと表示された検索結果のうち一番上にあるやつを押す。開くとそこにはアクセス回数や検索回数、クチコミなどが書いてあった。

アクセス数2000 検索回数250 クチコミ1
めちゃくちゃ発信してるし、ほどほどに検索されてる。しかもご丁寧にクチコミを書いてる人までいらっしゃる。本当にいい時代だ。

「某就活サイトからの電話でした」

ありがとう。名も知らぬクチコミ主。きっと黒髪おかっぱの美少年で女の子が泣いてたらおにぎりをそっと手渡してくれるような優しい人なのだろう。

相手の素性は分かったが、電話をかけてくる理由がわからない。わからないってことはきっと何かしらの営業だろう。私はそのまま電話が切れるのを待つ選択をした。

この選択がのちに自分を悩ませることになるとは、このときの私は微塵も思っていなかった。

 次の日、友人と遊んでいるとまた左腕が震えた。

見れば昨日とは違う番号からの着信だった。急いでスマホをポケットから取り出し、表示された番号を調べる。

昨日はパソコンで調べられたためスムーズだったが、今回は着信が着ているその端末で調べなくてはならないため、うっかり電話に出てしまわぬよう細心の注意を払って調べた。繰り返すが石橋は叩けば叩くほどいい。

検索した結果、どうやら昨日と同じ某就活サイトからの電話だった。この書き方から分かるように今回も私は電話に出ていない。出ようとは思ったのだが、調べている間に切れてしまった。いやぁ残念。

ってかそもそも繰り返しかけてくるなら電話番号を変えないでほしい。いや、昨日と電話番号が違うということは要件も昨日とは違ったのだろうか。

まぁ大事なようならまたかけてくるだろう。たぶん。

 案の定、次の日もまたその次の日も電話はかかってきた。毎回違う電話番号だったが、ご丁寧に同じ時間にかけてくるため、こちらも3日目以降は検索すらしていない。

もはやここまでくると意地である。

そっちが根を上げてかけてくるのをやめるのが先か。

こっちが諦めて着信に応じるのが先か。

世紀の一戦が幕を開けた。


 5日目はかかってこなかった。

世紀の一戦が幕を開けたとか意気込んでいたのに、あっさりと終わってしまった。何事も終わりは突然やってくる。どうやら私はこの戦いに勝ったらしい。

毎日同じ時間にあった着信がいざなくなると、少し寂しいものである。一度くらいでてあげてもよかったかもな、という気持ちさえ湧いてくる。

「もう明日からはかけないからね。ごめんね。」某就活サイトより

みたいなメールを送ってくれてもよかったじゃないか。どうしてそんな何も言わずにどこか行っちゃうんだよ。寂しいよ、某就活サイト。話したこともないけど。

楽しい日々をありがとう。某就活サイト。

 2日後、いつも通りの時間に何もなかったかのようにかけてきた。

どうやらただシンプルに週休2日を守っていただけらしい。あの感傷に浸った時間を返してほしい。

もはやちゃんと2日間休んでいることに対して少し腹が立ってくる。そんなしつこくかけてくるなら土日も休まずかけて来んかい、と私の中に眠る昭和のおやじが言っている。

今回も例に洩れず無視をした。

 その1時間後、某就活サイトからメールが来ていた。

どうやらこの1週間ちゃんと大事な要件があって電話してきていたらしい。いや、メール送れたんなら初日に送って来んかい!と私の中に眠る昭和のおやじが言いそうになったのをなんとか抑えて、メールを開いた。

要約すると
「全然就活の結果教えてくれないけど、就活どんな感じ?」
という内容だった。

私は簡潔に
「また来年よろしく」
とだけ書いてメールを閉じた。

とりあえずナモシラヌクチコミヌシにおにぎりをもらいに行こうと思う。

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