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読書人間📚『銀の夜』角田光代




読書人間
📚『銀の夜』角田光代



2020年 光文社刊行
2023年  初版一刷




__伊都子は病院にいくのがこわかった。「今」にかろうじてひっかかっているような母と会話をするのは、足がすくむほどのおそろしさだった。__


__伊都子は訊いたが、芙巳子は何も答えない。薄くくちびるを開いたまま、眠ってしまったようだった。芙巳子の息は日ごとにくさくなる。内臓が腐っているのだと伊都子は思う。眠る芙巳子を伊都子はみおろす。痩せ衰えた母の顔が、すでに死んでしまっているように見えることに伊都子はひどく動揺する。__


__ママ、つらい?だいじょうぶ?そう訊く伊都子の声は、子どものように幼かった。海にいくの?海にいけるの?そう訊き返す芙巳子の声は、それよりさらに幼かった。__




自分が死ぬことは怖くありませんが、人間の死に向き合うことなく生きてきてしまっているところが私には多少あります。
母の死に向き合う事は恐ろしくてなりません。正直、正気でいられるのかわかりません。
伊都子のように疎ましく思っていた母にさえ動揺するものが、愛しくてならない母の死をどう受け入れられるのか検討もつきません。
本作では3人の女性が登場しあれやこれやと生き、悩みますが、伊都子の母の件に胸を突くものがありました。私にも銀の夜が訪れるのでしょうか。その時、どうか私が誰かと共に側に在れますようにと願うばかりです。人は死ぬ時は一人ですが、一人では生きられないものです。






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