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ロックノベル「もうひとりのミック物語」禁断の実

1975年 ロンドンにて

「ユリ、待ってくれ!」

「Roseさんの所に帰らなくていいの?」

「ユリ、Roseとは別れる事になったんだ。」

「小さな娘さんが居るのに? 結婚したばかり
でしょ?」

「娘の為に形式上結婚しただけで、
Roseと僕はもうとっくに冷め切っていてさ。」

「そんな感じはしてたけど、
私の事は遊びなのかなぁって思ってたの。」

「はっきり言えなくてごめんよ。
僕も意気地が無くてさ、結局別れを
切り出したのもRoseの方でさ。
ダメな男だね。」

「何でも決心するのはいつも女の方じゃない?
アダムとイヴの時代から。」

「ああ、神に背いて禁断の実を取って食べた
のも男じゃ無くて、女のイヴが先だもんなぁ」

「でしょ?ウーマンリブなんて可笑しいわよね。
元々女の方が決断が早くて強いんだもの。」

「だよなぁ〜。」

「じゃ、私あなたの所に移り住んでもいい?」

「勿論いいよ!」

「え?!ほんとに?冗談半分だったん
だけど!」

「いいよ、ほんとに‼️」

「随分決心が早いのね!」

「僕のイヴが他の実にかぶりつく前に、
もぎ取っておきたいから。」

「なるほどね、男って嫉妬深いものね、
手に入れた物は離したくないんだ。」

「君の言う通りかもね?男は弱いから
手に入れた物は失いたくないし、
手に入らなかったものは『あれは酸っぱい
🍇葡萄に違いない。』って遠くから
見るだけで諦めてしまうんだ。」

「男の変なプライド?
でも去年折角手に入れた名声を簡単に
手放したじゃない?ストーンズを
あんな形で辞めてしまったなんて!」

「あれは弾みって言うかさ、自分でも
説明出来ないんだけど、発作的に
辞めたまでで、今でも整理出来て
無くて、何にも感じられなくて、、、
でも加入した時からあのバンドには
長く居られない気がしてたんだよ。」

「ごめんなさいね、その事には
触れない様に用心してたんだけど、つい。」

「気遣ってくれてて、ありがとう。
助かったよ。さすが日本人女性だなぁって
思っていたよ。君の淹れてくれる紅茶も
いつも安らいだよ。」

「ヨーコ オノさんみたいな才能は私には
何もないけど、あなたのギターが好き
って気持ちは誰にも負けてないかもね。」

「ヨーコにも全然負けてないよ、ユリは。」

「そうなの?」

「ああ、僕たちが裸で抱き合ってる写真を
出したら、ジョンとヨーコに絶対勝てると思うな!」

「ハハハ〜 それこそ禁断の実を食べる前のアダムとイヴの姿よね。」

「ああ、タイトルは『楽園の二人』だ。
イチジクの葉っぱを着ける前の二人だ。
ゴーギャンの絵みたいに。」

「裸で堂々と歩いても恥ずかしくなかった
楽園時代に人間も戻れたら幸せなのにね。」

「あの写真はジョンとヨーコが戦争はやめて
愛し合おうって言うメッセージだったん
だろうけど、どうなんだろう?」

「人間がこの世にいる限り戦争はあり
続けると思うわ。」

「僕もミュージシャンの行動で世の中が変わるとは思えない。ストーンズで世界中ツアーしてて
もそう思うよ。あんな殺人が目の前で
起きたからさ。」

「サンフランシスコのフリーコンサート
で黒人青年が白人のヘルスエンジェルに刺されて殺された事件ね。」

「うん、もう6年も前の事だけど、
ミック ジャガーもあのコンサートの前に急に
観客に殴られてさ、僕も怖くなったよ、いつか頭のイカれたファンに撃たれるんじゃないかってね。」

「そうだったの、そんな事も重なって
あなたもあのバンドに居たくなくなった
のね?」

「ああ、幾つもの事が重なって、
もうダメだなって思ったんだろうね。
だから辞めた理由を言えって言われても
一言でコレですとは答えられないだよ。」

「ミック ジャガーもキースも
テイラーは何の理由も告げずに雲隠れしたって
インタビューで言ってたものね。」

「ああ、彼らに許してもらえないのは百も承知
だけど、説明が今でも出来なくてね。
子どもじみた辞め方で恥ずかしいけど。」

「時には逃げるが勝ちよ、ブライアン
ジョーンズにあなたもなってたかも?
じゃない?」

「うん、それもあるよ。あのまま薬物を
使い続けてたら、身体が持たなかった
かも知れない。」

「あなたはローリング ストーンズと言う
禁断の木の実を食べて、今は楽園を追われて、
これからイバラの道が待ってるかも知れないけど。その両手👐がまだがあるだけめっけものよね。」

「ああ、神が僕に与えてくれたこの🖐️と
ギター🎸で前を隠してさ、歩んで行くよ。
どんなに恥をかこうともね。これから裸一貫で勝負さ!」

「ええ、大丈夫よ。私がミック テイラー
のそばにいるから!」

「でもユリ、百合の花だけは💐部屋に置かないでくれよ。あれ、僕、香りが苦手でさ、
くしゃみが🤧止まらなくなるんだ。」

「ハハハ〜随分繊細なお鼻なのね?
あんなに大量の白い粉を吸ってた、鼻のはず
👃なのに?」

「ハハハ〜だね!このちょっと上を向いた
鼻をよく、キースやミックにも『BIG Nose野郎!」って揶揄されたよ。」

「ミック、それよ、それ!ミックテイラーが
ストーンズを脱退した真の訳!」

「?」

「『Big Nose』って呼ばれてミックとキースに
いじめられたから。」

「益々〜弱っちー男だね、僕、」

「あの人達こそ人の事言える面がまえ👺じゃないのにね!あのタラコ唇とあのお歯黒」

(大笑い🤣)

「でも女って醜男が好きなんだよなぁ。」

「天使の様なあなたは案外モテないものね!」

「天使より堕天使🪽達がが堕落したこの地上では闊歩してるのさ。」

「現代のイヴ達もみる目ないわね。」

The End

1975年ロンドン
ミック テイラー 26歳
小沼 ゆり    24歳

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