見出し画像

被写体の孤独に共感する、永遠のソール・ライター展(感想)

「Bunkamura ザ・ミュージアム」で開催中の「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展へ行く。金曜日は時間を延長して21:00まで開催しているので余裕を持って18:00過ぎに到着。
この「Bunkamura ザ・ミュージアム」の客層は、普段は妙齢のご婦人が多い印象なのだけど会社帰りに立ち寄る人が多いせいか30~50代と思われる男性の比率が多めに感じられた。また、この日の渋谷の気温は10度以下にも関わらず金曜の夜ということもあって駅からミュージアムへの道程は人で溢れていたのだが、幸いミュージアム内は混雑することなく落ち着いて観覧することが出来て良かった。

抑えられた美しい色調の写真

前回(2017年4/29~6/25)開催の『ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展』も観に来ていたのだが、約3年振りの展示となり同じ美術館で開催していることも含めて前回の展示会がよっぽど好評だったのかもしれない。

また、ソール・ライターの自宅には数万点ものアーカイブが残されていたとのことで、前回展示され無かった新しい作品を期待してやって来たのだが。展示内容の構成的には前回とほぼ似たような作品なのは残念だった。

写真はモノクロとカラーの写真が展示されており、構図と濃淡のみで勝負できるモノクロ写真の方が魅力的なこともあるが、このソール・ライターという人の場合、圧倒的にカラー作品の方が素晴らしい。
べったりとしたマットで濃い色で統一されており、抑え目の美しい色調と強い色の対比が大胆で写真としてのインパクトが強い。

画像6

ソール・ライター自身の孤独を被写体通して表現

手間にあるピントのブレた何かによってハッキリとしない部分と、ピントは合っているけど遠かったりガラス越しで良く見えない何かによって構成された写真が多い。構図としては画面の大半を暗い天蓋や、曇った窓などが画面の比率を多く占める大胆なものが多く安定感がある。

画像5

そうして輪郭のはっきりしない道行く人々のことをじっと見つめているうちに写真に写る人々へ感情移入しはじめるのだが、これはソール・ライター自身の孤独や切なさが表現されているせいではないかと思われる。

私には雪の街で傘をさして歩く人、ガラス越しに佇む人、ガラス越しに映るマネキンでさえも、ソール・ライター自身の孤独をが被写体に投影し寄り添っているように感じるのだ。
ほとんどの写真が隠し撮りのようなものだろうから、人々の表情はわからないし被写体との距離感は遠い。行き交う人は多くとも知り合いが一人もいないならば、殺風景な場所で一人でいるよりも集団の中の方がより孤独を感じる。人々とのコミュニケーションが希薄だと感じてしまう孤独を写真で表現しているように思うのだ。

画像3


個人的には、雪道を赤い傘をさして歩く人を俯瞰している「足跡」や、画面の大半を黒が占める「天蓋」が好きで、映画のワンシーンを切り取ったような絵のようで見ていて飽きない。

画像4

親密な距離感から愛しさの伝わるポートレート

後半に展示されているソームズという女性のポートレートもとても素敵で、この人はきっとソール・ライターに好意を寄せており信頼しているし、リスペクトしているからこそカメラの前で無防備な表情を見せてくれていることが想像出来る。

画像1

カメラマンはそんなソームズのことを愛おしいと思うし、そのときの自分の気持ちを残しておきたいと思うから記録として撮影する。現像して見ると撮影している時には気づかなかった被写体の新しい表情や美しさを見つけたりして、そんな発見や小さな気付きをもっとしたくてソームズのことをさらに撮影したくなる。そんなことが想像されてとても優しい気持ちになれるポートレートだと思う。
そのため、ソームムズのポートレート写真は街をゆく人たちの写真から孤独を感じさせるのとは対象的に、温かい気持ちになれる写真となっている。
展示会の構成としては、対照的な作品によってソール・ライターの二面性を感じられてとても良いと思った。

画像3


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?