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かすかな光と、日々の言葉



冬になると、すこし写真のトーンが変わる。
弱まる光にそっと抱かれたような感じになる。
冬の光は、とてもやさしい。


弱さ、というやさしさを思う。




変わろうと思った今年だった。
ちがう仕事をはじめ、新しい人たちと出逢い、いままで読まなかった本もたくさん読んだ。

何かに近づき、そのぶん何かから離れ、でもおだやかに、つつましく生活ができて、よかったと思う。


別れも、失ったものもたくさんあったけれど、距離や不在が培ってくれるものもたくさんあった。大切に愛しさを育んでいる気がする。
ぜんぶ大事な時間だった。





眠れない夜、ベランダに出て星を見ている。

南の空のオリオン。そばにいるシリウス。
プラネタリウムで習った、おうし座やおおいぬ座を見つける。木星らしい清かな星と。


ふるさとにいたころ、大晦日は鎮守の社で年を越した。お詣りがすむと田んぼのほうに行って星を見る。
0時をすぎた真夜中。冬の冷たく澄んだ空。ときどき聞こえる遠くの村の、かすかな除夜の鐘。それ以外、なんの音もしなかった。

夜は深くて、ほんとうに昏くて、そのぶん瞬く星も多かった。冴えわたる星空。煌めくオリオン。上空の風にゆれる光がただただ降ってくる。刈り入れのすんだ田の畦で、ずっと空を見上げていたいくつもの冬の時間が私のなかに降り積もっている。


日々の雑事にまぎれて歳月は過ぎていって、いま私の住む町の夜空はとても明るく、星も数えられるほどのわずかなものが、かすかに光るくらいになった。少なければ少ないで、ひとつひとつを大切に思えるから、この空は空で好きだ。

それでも冬の真夜中、空を見上げるとき、あのころ田んぼで、冷たいまつげで、ずっと星を見つめていた時間がすぐそばにあって、いまもつながっているような感じがする。
そこにある、降り注ぐ深い静けさを思い出すことができたら、これからどんなことがあっても、私はきっと大丈夫だと思う。忘れてしまっても、見えなくなっても、ずっと星はあって、綺麗で、静かだ。









今年もほんとうに、ありがとうございました。
お医者さんから「寛解状態です」と生まれてはじめて言われた2023年でした。
仕事はせわしないけれど、余白を持ってゆるやかに、日々を送れています。

どんなに生活が変わっても、いろんな気持ちのときがあっても、休みながらでも、書くことを続けてゆけたらいいなと思っています。
子どものころ、ベッドの上から夜空を眺めて、ものを書いていきたいな、と思った夜のことを、いまもときどき思い出すことがあって、あの頃思い描いていた未来をいま生きてるんだな、と感じることがあります。
そのときの自分を守りたいし、離れるときがあっても、なんどでもことばと出逢いなおして、関係性を結びなおして、生きてゆけたらいいな、と思います。


よいお年をお迎えください。そこに降り注ぐものが、どうかやさしいものでありますように。




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