かつて私から友人を奪ったものが今はネットに場所を移している

フリーランスを名乗っているせいか、ツイッターのTLによくオンラインサロンの話題が上がってくる。

仕事でスキルアップするのに役立つなら私も……と思ったこともある。しかし結果的にはどのサロンにも入らず今に至る。その類の自己啓発セミナーにのめりこんだ長年の友人を思い出したからだ。ちなみにその人とは10年前に絶縁している。

今ネット上に乱立している「年収〇円を目指す」といった類のサロンもそれと同じにおいがプンプンする。あまりににおいが強すぎてめまいさえ覚え、10年前の思い出したくない記憶が鮮明に蘇る。

友人として参加した彼女の結婚式では、セミナーの主宰者が主賓だった。

スピーチではセミナーの沿革や活動内容をとうとうと語るばかりで、主役であるはずの友人夫婦の話など最後の10秒ほどで終わってしまった。

私たち友人は、目の前の光景をひどく異様に感じた。しかしそれはほんの序章にすぎなかった。

彼女は結婚後ますますそのセミナーにのめりこみ、どの友人知人にも勉強会や講演会への参加をしつこく勧めていた。だから次第に彼女の周りからは友人が離れていった。

しかし私は愚かにも、彼女が目を覚ましてくれるのを待っていた。それが甘い見通しだということも知らずに……

以後、5年あまり彼女を避けていた私だが、絶縁まではしていなかった。夫さんの姿勢によってはセミナーから抜ける可能性もあるだろうと、淡い希望を抱いていたのだ。

そんなある日、偶然外出先で彼女と出会った。その様子が普通だったので、うっかりお茶などしてしまったのが間違いだった。

彼女はカフェに入るなり表情が一変、セミナーのパンフレットを出して私を熱心に勧誘し始めた。こちらがどれほど否定してもひるまず、しまいには憐れみの表情でこう言ったのだ。

「楓、幸せじゃないんだね。だから私の話をまともに聞けないんだよ」

その瞬間、彼女と私をかろうじてつないでいた最後の糸がプツンと切れる音が聞こえた。

彼女の目は明らかに彼岸の彼方にイっており、私を凝視しながら全く私を見ていなかった。同じく、私の声を聴きながら何も耳に入っていなかったのだ。

彼女の中でもはや私は友人ではなくカモ。セミナーに多額のお金をつぎ込んでくれるかもしれない格好のターゲットでしかないことがはっきりと分かった。

その現実を改めて突き付けられた私は、ついに彼女に決別を宣言した。

彼女はきょとんとした顔でなにもわかっていない様子だったが、私はさよならと一言言って彼女と決別した。たぶん彼女は死ぬまで私に決別されたことすらわからないかもしれないが、もうたくさんだと思った。

もちろん、彼女からの連絡は全てブロックした。

冒頭でも話したが、一部のオンラインサロン関係のつぶやきは私の元友人と全く同じ匂いがする。もはや周囲の言葉などまったく耳に入らず、その目は主宰者しか見えていない。

ネット上でそんな書き込みを見る度に別世界に行ってしまった彼女を思い出してならない。そして、なんともやりきれない気持ちになるのだ。

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