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[ショートショート] 見つかったのは私… [スズムラさんの歌詞から:創作タイム]

応募された歌詞からいろいろ創作する企画。

スズムラさんの歌詞から物語を考えてみました。

公園で偶然に見つけたよ運命の人

貴方だと気づいたよ。
やっと貴方と会えた。

奇跡の出会いに感謝して
ありがとうって言いたい。

2人だけの世界に
閉じこめて、もう離さない

一緒にいようねずっと。
側で愛してるって言うよ

愛してるって言って。
貴方の声で聞きたいの。

大人になれば思い出すよ

作詞:スズムラさん

※注:少々グロです

『見つかったのは私…』

 私の名は清美。清く美しいと書いて “きよみ”。

 私は私の欲望を満たしてくれる誰かを探していた。

 そうして見つけたのがアキラだった。

 明はみすぼらしい格好をした子供で、ひとり公園で遊んでいたが、私は彼を一目見て確信した。

 この子こそが私の追い求めていた運命の人。

 この美しさを見なさい。美の象徴。光の原石とは彼のことではないのか。

 私はいてもたってもいられずに、明に声をかけた。
 最初は警戒していた明だったが、私と共に来れば裕福な暮らしを約束しようと話しをすると、彼は大人しくついて来た。

 よっぽど貧しい暮らしをしてきたのだろう。私が菓子を与えると、明は目を輝かせてそれらを頬張った。

「清美さま。僕はあなたの側にいれられるのなら、何だってします」

 明はそう言って私に菓子をせがんだ。

「僕はこれまで酷い仕打ちを受けて育ちました。両親は言うことを聞かないと僕を殴りました。そして食事を与えてもらえない僕は、毎日残飯を漁ったり、家じゅうを走り回るネズミどもを捕まえて食べていたのです」

 私は明の身の上話を聞いて胸が痛んだ。こんなにも美しい明にそんな酷い仕打ちをするとは…親であっても許されるものではない。
 いや…誰であっても許されない。

 この子を連れ出したのは善行である。

 私はそう思い、悦に浸った。私は私の欲望を正当化し、この子供を匿い閉じ込めていることを正義と思い込むようになった。

 菓子を与えると明は喜び、本当に何でもしてくれた。私は明の弱さに付け込んで自分の欲望を満たすことに熱中していた。

 だから気が付かなかったのだ。その絹のように美しい肌に舌を這わせている間も、滑らかな首筋に歯を立てている時も、彼の体にアザ一つないことに。

 快楽に溺れた私は、簡単な嘘も見抜けないほどに盲目となっていた。

 彼は何でも私の言うことを聞いてはくれていたが、私の欲望には底がなかった。
 求めれば求めるほどに、私の心は満たされなくなった。

 ある日私は思いあまって彼の首を絞めすぎてしまった。
 ぐったりした彼の体をベッドに横たえたまま、私は途方に暮れた。

 せっかく手に入れたおもちゃを壊してしまった子供のように私は慌てた。

 どうしよう…なおさなくちゃ。

 私は動かない明に心臓マッサージをしたが、彼が息を吹き返すことはなかった。

 まる一日動かない彼の体を眺めて過ごしていた。彼の体は冷たく、そして固くなっていった。

 そうしてようやく私は彼が死んでしまったのだと理解した。

 私は彼の遺体を庭に埋めた。

 そうしてまた別のおもちゃをみつければいいのだと自分に言い聞かせて私は眠りについた。

 翌朝、私は不快な臭いで目を覚ました。

 体を起こすと、泥にまみれた明がベッドの上に座っていた。
 私が悲鳴をあげて退くと、明は悲しそうな表情をしてこう言った。

「清美さま。どうして僕を捨てるんです? あなたは決して僕を捨てたりしないと思ったのに。何がいけなかったんです? 贈り物が足りませんでしたか?」

 ドサッと音とをたてて、明がベッドの上に何かを放り投げた。
 それは何匹もの死んだネズミだった。

 私はベッドから飛び降りて寝室から出ようとしたが、何故だかドアが開かなかった。
 明が泥だらけの顔で微笑みながらゆっくりとこちらに歩いて来た。

「来ないで!」

 私は無駄と解っていながら、お決まりのセリフを吐いてしまった。
 こんなことで足を止める相手ではないことは明白だった。

 明は声を上げて笑っていた。その顔はもはや人のものとは思えなかった。

「お前は誰だ? 明の体を返しなさい」

 私は明の屍を何か邪悪な者が乗っ取り動かしていると解釈した。
 麗しい明の体を不快なものが支配していると思うと鳥肌が立った。

 これに対し、明はさも愉快そうに笑うのであった。

「僕は最初から僕ですよ。気が付きませんでした? あなたの戯れに付き合っていたのに、もう飽きちゃいましたか?」

 明の泥だらけの手が私の体に触れ、まるで恋人がするかのように愛撫を始めた。
 それは何匹もの多足類の虫どもが体を這うような感覚でおぞましかった。

 あまりの嫌悪感に私は声を出すことすらできなかった。

「僕はまだぜんぜん飽きてませんよ」

 耳元で囁くその声に腐敗したような臭いが混ざって私の鼻をついた。
 やっとのことで顔をそらせて私は息を止めた。

「また遊びに来ますね」

 明はそう言うと、私の頬に唇を押し当てた。焼けるような痛みが走った。
 やっとのことで私が彼の顔を見ると、明は優しく微笑んで眩く光り、そして消えてしまった。

 うかつにも、私はやはり明が美しいと思ってしまった。
 彼が去り際に放った光は、まるで明けの明星のように、見る者を惹きつけるものだった。

 でも…二度と会いたくない…。

 私は心からそう思った。

 だけれども彼はまた来るだろう。何しろおもちゃにされていたのは私なのだから。
 運命の人に出会ったと勘違いをして、私はとんでもないものに拾われてしまったのだ…。

 鏡を見ると、彼の接吻を受けた場所に、火傷のような跡が残っていた。

(おしまい)


ちょっと文字数オーバーしてしまった。。

歪な愛を想わせる歌詞から、こんな物語が出てきました。
スズムラさんがいつも作成されているイラストにも触発されて…。

こういうお話は書くのが楽しいです。
苦手な人はごめんなさいでした。

『創作タイム』はPJさんの企画です☆

よろしくお願いします。

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