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「霜」の話

(1 放射冷却)


今回の俳句ポスト365の兼題は「霜」。

晴れた寒夜、空気中の水蒸気が放射冷却により冷え、地面や物に触れて、その表面についた氷(角川俳句大歳時記 冬「霜」より)。

何か、分かるような分からないような表記です。
「放射冷却」、これの説明ができないと霜の成り立ちは説明できないでしょう。

何年か前、ごはんを食べつつ見ていた天気予報で「放射冷却」という言葉がでてきました。で、子どもに聞かれたことがあるんです。
「天気予報で放射冷却が強まり、冷え込むとか良くいうけど、何かが冷たい空気を放っているの?」と。

我が子には、何か(物体A)が冷気を放ち、周囲の空気を冷たくしているのか、と思えたらしいのですね。ちなみに、当時、娘は小4か小5位でした。

さて、どう答えましょう?

知を広げたい我が子。
しかし、「いきなり電磁波が……」云々と言っても理解できない年頃の人に、物事を教える時って自分自身が知識を噛み砕かないといけない。
いや、ここでは電磁波云々は触れなくてもいいかも?と考えたのです(結構覚えているものです)。

ですから、こう言い切りました。
「ものが熱を放って冷めるってことだよ」

「炊き立てのごはんが冷めていくのは、周りに熱をあげているから」
「炊き立てのごはん、茶碗に盛るよね。少し時間を置くと、ごはんは冷めちゃうけど、ごはん君、何かに自分の熱をあげちゃって、自分が冷めちゃう。じゃあ、何に熱をあげちゃうんでしょう?」
(茶碗が温かくなるのと、ごはんに手をかざしたと温かいと感じた我が子がいました)
「そう。ごはんを盛った後の茶碗が温かいのは、ごはんと触れ合って茶碗が熱を貰ったからだよ。触れあったもの同士での熱のやりとりは、伝導と言います」
「ごはんからの手をかざして温かい空気を感じる。ごはんから放たれた熱が、空気を温めてるんだけど、これが放射」
子どもはここで納得したのです。

こんな具合に食卓で起こっているありきたりな現象を出しました。
この上で、ここで言いたいのは、物体Aが熱を放射することで、周りを冷やすわけでなく、自分が冷えることが「放射冷却」だということを知らせたのでした。

もしもここで
(目に見えない空気も存在はして、ごはん触れあってる訳だから、伝導ではないのか?)
とでも聞かれたら
「放射は空気が無いとこでも起きるんだ。空気の無いとこ。宇宙には空気無いよね?そんな中でも、太陽から地球まで熱届くよね」、といよいよ電磁波のことに触れなければいけなかったでしょう。

てなわけで、親子のやりとり編はここまで。

天気予報で出てくる放射冷却、そして霜についてのあれこれは、また明日以降に。

(2 え?熱帯夜の話?)


この文章を書いている11月9日。この前日に岩手等で初霜が観測されました。
つい先日まで地方によっては夏日を観測する地点があった中、北国から冬の訪れが報じられているこの頃です。

さて、先に放射冷却について触れましたが、良く天気予報で出て来る「放射冷却が強まり」という言い回し。「何の放射冷却か」という部分が良く端折られている気がします。

答えは地面……だけでなく、地物。読みは「じもの(その土地で生産されたもの)」でなく、「ちぶつ」。樹木、岩石などの自然物、建物や車など人工であっても、「地上にあるすべての物」を地物と呼びます。

日中、地面や地物は太陽によって温められます。

その温まり方であり、熱くなることについては、夏の方が体感できやすいかもしれません。

例えば夏の海の砂浜。「熱砂」という季語がある通り、気温よりも熱くなります。

あるいは、夏場のアスファルトに裸足で踏み出したことはありませんか?
これって、すごく熱いのですが、夏場にはアスファルトの表面は60℃にも及ぶそうです。この60℃にも及ぶアスファルト、周囲の気温そのものは真夏日(30℃)だとして、「なんだ、周りの方が気温低いじゃん」と熱を放射してやがります。結果、周りの空気もなお温められて、ますます暑さが厳しくなります。いわゆるヒートアイランド現象、そいつの一因となっています。

季節は夏。
砂。その辺の大きめの石や岩。公園の鉄棒などの遊具。アスファルト。車のボンネット。ポスト。プールサイドのコンクリート、その辺に生えている爺さんなどなど‥‥‥太陽が出ている間は色んなものが温められますが、日が暮れると、熱源であり電磁波をくれていた太陽がいなくなります。

昼は
太陽のくれる温め効果(電磁波)がアスファルトを温める。さらに、アスファルトが熱を放射を常に行っている→猛暑日

夜は
太陽のくれる温め効果が無くなるので、アスファルトは自分の持つ熱を放射するだけになる→この放射によって気温が上がる→熱帯夜につながる

夏場、放射冷却という言葉はほとんど聞きません。
でも、放射冷却と呼ばれる現象が、夏にも起きていて、そのせいで夏ならではのことが起きていること。これは知っておくべきだと考えます。

(3 やっと霜の話)


さて、夏場の方が放射冷却について体感しやすい現象があるのだと示したつもりですが、今回のお話はあくまで「霜」です。

ここまでで、地面や地物が太陽のせいで温められる、夜には冷える、その上で何らかの自然現象を起こすということは示せているかと思います。

改めて、角川大歳時記の「霜」の記述を引用すれば、霜とは「晴れた寒夜、空気中の水蒸気が放射冷却により冷え、地面や物に触れて、その表面についた氷」のこととなります。

ここまで、放射冷却について、特に2では夏場について述べました。キモと思えたかられす。
ここでは、霜のできやすい状況=霜を作る放射冷却が起きやすい状況を三つ述べます。

一つ目は、冬に日中晴れていること
この時に太陽からの電磁波によって地面は温められる。放射はこの時も起きていますが、夏場の話をしたとき同様、アスファルトなんかは気温より温度が高くなったりもします。
逆に、夜は太陽からの温めがなくなります。しかし、地面からは相変わらず熱は放射されています。放射によって宇宙へ向かって熱が逃げていきます。
晴れていると、宇宙に熱が逃げるのを遮るものが無く、どんどん熱は宇宙へ向かっていきます。このために、どんどん地面の気温は低くなります。

一方曇っていると、雲が地面から放射された熱を一度飲み込み、吸収、今度は地面に返したりします。地面に熱が帰ってくるのであまり寒くならない。お布団と同じような効果らしく、webで放射冷却を調べるにあたって結構見たたとえでした。

二つ目は、冬場の空気の乾燥
これは、いわゆる西高東低の気圧配置のせいです。西=ロシア、東=日本だとして、ロシアの高気圧から日本の低気圧に風が吹きます。この風、日本海側で雪を降らせ、水分が抜けて太平洋側へと到達するときには、乾燥した空気となります。
乾燥とは、湿り気のない状態ですが、湿りとは水分によるものです。
そして、雲を思います。水蒸気であり氷の粒。そういったもので出来ているのが雲。
となると、
乾燥→雲ができにくい(熱を吸収する水分が少ない)→放射冷却が起きやすい
となります。

三つめは、風が無いとか、弱いこと。
天気予報で西高東低の気圧配置、と天気図が示されると、北海道の東側海上にある低気圧、その近辺の等圧線が密に並ぶのを見ることがあります。この時、低気圧近辺もさることながら、日本の地上でも風が強く吹くことがあります。
冬場に風が強く吹くと、落葉や砂……私が子どもの頃の仙台なら、スパイクタイヤに削られたものの砂塵……などが、地上から舞い上がり、巻き上がりもします。当然、その周囲の空気も上がっています。
地面付近の空気が空中に上がっていけば、お互いの空気まぜまぜ、混ざり合うことで気温が下がりにくくなります。熱いお風呂に水を差してまぜまぜすれば水温が下がるのと同じ。

ここまでのことを言うと、霜とは、晴天で乾燥していて、風が弱い~無い時にできやすい、と言えます。

ここまで書いて、
晴天、乾燥、無風とか微風といったキーワードが出てきました。
無論、冬の季語ですから、冷たさとか寒さも伴うはずですです。

さて、二十四節気には「霜降(そうこう)」というものがあります。今年だと10月24日から立冬前日11月7日までが該当していました。
この頃は、先に挙げた霜が降りる条件が揃って、霜が降りる日が出て来る、と考えられます。いや、もしかすると霜が降りる地方が出て来る、という意味もあるかもしれない。季語としては晩秋の季語です。
この頃には、気温が低くなり(資料やwebサイトによってまちまちですが、3℃から5℃としているところが多かったです)、霜が降りることが出て来ると捉えられます(七十二候では霜降の期間初めに「霜始降(霜始めて降る)」があります)。

気温が3~5℃なのに、地面では氷がつくのは、気温の観測の高さが150㎝であるから。150㎝の高さの空気よりも、より冷たい空気が地面付近に降りていき、地面を冷やします。
水の凝固点は0℃です。気温がプラスなのにも関わらず地面や地物に付着するのは、地面や地物周辺の空気が気温が冷たくて、地面や地物が冷やされ、0℃以下になり、その周辺の空気中の水分が触れて氷となって付着したからです。

普通の気温とは別に、接地気温という、地面すれすれの気温を計測したものがあります。どうも、霜が降りるかどうかは、ここの気温に左右されそうですし、地物のすぐ側で定点観測すれば面白そうな感じもしますね……車のフロントガラス側とか。

さて、ここまで書きましたが、ウィキペディアで霜を調べると、いくつかの画像に出会えます(霜 - Wikipedia)。
霜とは氷の結晶です。一律に何かをうっすら白く覆うわけではなく、氷の結晶ですので、フェンスに棘を生やしたような霜だったり、車のフロントガラスに雪の結晶を思わせるような紋様をつくることもあります。「色んな姿がある」のが霜。
このあたりは、あの窓に(どんな模様な)霜だった、というだけでも句に出来そうです。

霜。
視覚的には「美しい」ものです。特に、フロントガラスの霜は。
実生活では「厄介者」フロントガラスに霜が付いてる、車のエンジンかけてさっさと掻かないと!というのもしばしばありますけども。


(4 傍題について)

さて、俳句ポストの兼題発表時に載っていた傍題について考え、今回はおしまいにします。

霜の花(しものはな):霜が美しく白く見えることを花にたとえた。もとを辿ると源氏物語や白居易の長恨歌まで遡れる。

三の花(みつのはな):水(みず→みづ→みつ)の花だったり、雪を六つの花としたときの、半分しか凍ってないと判断し、「三つ」としたのかもしれない。だが、窓に花のような紋様で付着している霜にはあっているかも。

青女(せいじょ):霜や雪を降らす女神。中国の古典、「淮南子」の「第三天文訓」に記述がある。雷の回で、「神鳴り」とか「はたた神」を敢えて使ったのと同様、何か自然の持つ神秘的な意味を持つか。措辞とのバランスが難しそう。なお、「あおおんな」と読むと宮仕えをしたことのない、世に慣れていない貴族の女性・・・・・・この季語のせいで、いちいち読み方まで括弧書きすることとした迷惑な季語でもある。一生使わん。

はだれ霜(はだれじも):はだれとは「斑」のこと。うっすらと、まだらになっている霜。時期と地方によっては田圃とかで見られる。無論、周りに霜が降りていない箇所もあるので、消えやすいというイメージも伴うだろうか。

霜だたみ(しもだたみ):地面一面に広がる霜。これを畳に喩えた言い方。

霜夜(しもよ):気温がぐっと下がって霜が降りる夜。天候は晴れ。

霜の声(しものこえ):霜の降りる日は寒く、しんしんと寒さが身に染みる。これを聴覚的に表現したものだろうか。ただ、霜の声が聞こえるなら周囲は静寂な気がする。

霜晴(しもばれ):霜の降りた日の晴れた様子。
霜日和:霜が降りて快晴。「日和」とあるので、「霜晴」よりも何かをする好機の意味もあるだろう。

霜凪(しもなぎ):霜の降りた朝に、海が凪いでいる様子。霜のできる好条件として無風や風の弱いことが挙げられる。地上は霜に覆われ、海の凪いでいる様子も表現できる点、非常に広い風景を詠むのに良い季語かも。

霜雫(しもしずく):霜が溶けて雫になったもの。自分なら、日常的に簡単にみられるのは車に付いた霜が雫になって落ちる景だけど、ある程度の高さまで霜に覆われた植木とかから落ちたものを詠んだ方が絵にはなるだろうか。

大霜(おおしも):大量の霜。霜だたみが地面一面を覆っているなら、大霜は木々や車、「地物」をすべて霜が覆っているイメージ。
深霜(ふかじも):多く降りた霜。大霜と被る部分があるが、「深さ」を感じる点、視線は下を向くだろうし、足の感触との相性が良さそう。
強霜(つよしも):これも、多く降りた霜のことを指す。ただ、「強」の字面。「強」を「つよい」と読めばなかなか溶けなさそうだし、「こわい」と読めば堅い霜のイメージとなる。

濃霜(こしも):濃く降りた霜。降りた先のモノの色を分からなくするレベルもあり得る。霜を視覚的に捉えた季語。

朝霜(あさしも・あさじも):朝に降っている霜。寝る前になかった光景が広がる。
夜霜(よしも):夜になり降る・降った霜。日中には無かった光景が広がる感じがある。

傍題を使うのにお役立てれば幸いです。

今回はこれまで!

※俳句ポストの「霜」の句は、二句出しました。破調の句と定型句。没になることは無いと思います。

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