千代 之人

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最近の記事

季語「山笑う」

1 はじめに 今回の文章は、過去に書いた「山眠る」と内容が重複する箇所があります。そちらも併せて読んでいただくと、うれしい限りです→季語「山眠る」|千代 之人 (note.com)。 2 山の擬人化季語4きょうだい 時を遡り11世紀。 中国は北宋時代、郭煕 - Wikipedia(かくき)という山水画家がいました。中国の絵画史の中の重要人物で、日本の水墨画(有名どころでは美術や歴史の教科書にも出てくる雪舟 - Wikipediaの絵など)にも、直接的でなくとも影響を与え

    • 季語「囀」

      遡ること2年前。 俳句ポストでは「百千鳥」という季語が兼題になっていたことがありました。 今回「囀」の文を書くに当たり、当時の文章と再会しましたので、よろしければ、ご覧ください→百千鳥のスタンス|千代 之人 (note.com) 「囀(り)」。 (り)と括弧書きしたのは歳時記によっては「囀」として掲載されていたり(角川大歳時記)、「囀り」として掲載されている(新歳時記)ものもあります。 歳時記の記述だけ書くと「春になると小鳥たちが繁殖期を迎える。その頃の鳴き声」(角川大歳

      • 季語深耕「余寒」「春寒」

        季語深耕文を書こうかってところで、パソコンの電源入れようとしてOSが立ち上がってくれない事態がありました。復元にすったもんだ、どうにかこの文章を書こてころには、予定していた日程の大半が終わっているという事態でした。 てなわけで、余寒の話でございます。今回は短くいきます。 1 「寒」 「余寒」。歳時記を開くと「暦の上では<寒が明けて>、春は迎えているものの、まだ残る<寒さ>があるという意」(角川俳句大歳時記 春:2006年版、< >部分は筆者による)とあります。 「寒が

        • 季語深耕「蜜柑」

          1 五感の刺激角川大歳時記よれば、「蜜柑」とは温州蜜柑(ウンシュウミカン)を指すのが一般的らしいです。 我が家は3人家族ですが、毎年ミカンの頃となれば良く蜜柑を買います。何年前からかは、子どもの冬休みあたりに合わせて箱買いしております。そんな中から一つ持ってきました。なお、今回ご登場いただくのは長崎の「味まるみかん」です。 1-1 視覚  普通のものではなく、「訳アリ品」として売られていたもので、大体一箱300円くらい安売りされてました。 光の反射とは違い、明らかに

        季語「山笑う」

          季語深耕 セーターのこと

          1 角川大歳時記から 俳句ポスト、R5.12.19〆切の兼題は「セーター」。 角川大歳時記でこの季語を引くと、いきなり「正しくはスウェーター」と始まります。以下、引用です。 「防寒を主とした毛糸で編んだ上着(中略)前開きのものをカーディガンという。一般にセーターという時は、かぶる形のものをさす(中略)デザインや色、素材で様々に楽しめる」 何気なく読み進めれば「そんなものか」と終わるものですが、「正しくはスウェーター」などと始まっては、語源等調べたくなるところです。 2

          季語深耕 セーターのこと

          「霜」の話

          (1 放射冷却) 今回の俳句ポスト365の兼題は「霜」。 晴れた寒夜、空気中の水蒸気が放射冷却により冷え、地面や物に触れて、その表面についた氷(角川俳句大歳時記 冬「霜」より)。 何か、分かるような分からないような表記です。 「放射冷却」、これの説明ができないと霜の成り立ちは説明できないでしょう。 何年か前、ごはんを食べつつ見ていた天気予報で「放射冷却」という言葉がでてきました。で、子どもに聞かれたことがあるんです。 「天気予報で放射冷却が強まり、冷え込むとか良くいう

          「霜」の話

          季語「新酒」のこと

          1 酒にまつわる季語を見てみる  今回の俳句ポストの兼題は「新酒」です。  私が外出時に携行している俳句歳時記(角川ソフィア文庫)では、「新米で醸造した酒」と実に簡素に記述されています。    その後、「かつては収穫後の米をすぐ醸造ため、新酒は秋の季語とされた」とあります。  読み進めてページをめくると、新酒の次に記載されている季語が目に入りました。「濁酒」でした。「濁酒」の次は「猿酒」、その次は「古酒」と、四連続で酒の付く季語が出てきます。  「そういや、夏なら『冷酒』と

          季語「新酒」のこと

          季語深耕「夜長」

          1 唱歌「虫のこえ」  兼題「夜長」を目にしたとき、ふと思いました。「季語としての夜長という言葉は知らなくても、この単語そのものは知っていたな」と。  記憶を掘り下げていけば、五十路に近い自分にとっては遥か昔のこととなります。小学校の低学年の頃でしょう、40年以上前に「虫のこえ」なる歌に出会ったのは確かでした。 あれ松虫が 鳴いている ちんちろ ちんちろ ちんちろりん あれ鈴虫も 鳴き出し りんりんりんりん りいんりん 秋の 夜長 を 鳴き通す ああおもしろい 虫のこえ

          季語深耕「夜長」

          季語深耕「コスモス」

          1 植物季語の呪詛 通販生活®2023年5月の審査結果発表で夏井先生が「今月のアドバイス」としてこんな文を書いておられました。なお、この回は「栗の花」が兼題でした。  「独特の臭いを取り合わせの接点とするのであれば、『栗の花』ではなく『椎の花』でも成立するのではないか。切たる思いを重ねたいのであれば、むしろ『ヒヤシンス』あたりの方が奥行ができるのではないか。そんな句も多かった」  措辞の内容に対して季語が「栗の花」がベストでない句が多かった、季語が動く句が多かったというわ

          季語深耕「コスモス」

          リビングの隅にヒーター夏は来ぬ

          お陰さまでTwitterのフォロワー数が290名となりました。本来なら300フォロー等、もっと切れの良い数字はありますが、現段階でアンケートを取ると、どれくらい皆さんがリアクションを返してくれるか試してみたくなった次第です。 折しも、YouTubeの夏井いつき先生の動画では格助詞「に」を掘り下げるシリーズを行っています。 便乗というわけではないですが、この「に」が句に及ぼす効果、下手をすれば悪さについて書いてみたくなりました。 さて、自分の句のストックには今回の題名にもし

          リビングの隅にヒーター夏は来ぬ

          季語深耕 「雷」(最終版)

          1 雷とは雷の起き方 もし、発達する雷雲を眺める機会があれば、雲が高く高く伸びていくのを見られると思います。 この雲は積乱雲と言われ、そのてっぺん辺りを仏門に入った人の頭に見立て、入道雲とも言われます。この入道雲、雲の中では上昇気流が発生しており、成長します。 この文章を書いている本日、仙台では最高気温が30℃という予報。真夏日です。地表付近で暖められた空気は軽くなり、上へ上へと昇っていきます。これが上昇気流。この時に含まれている水蒸気が雲を作ります。さて、地表が30℃

          季語深耕 「雷」(最終版)

          季語「蜘蛛」についてのあれこれ

          1 初めに 俳句ポスト365 (haikutown.jp)、2023年6月19日〆切分の季語は「蜘蛛」です。 作句を進める中、5月末日時点で、自分の句は蠅虎の描写をしてる句が多かったのです。家の庭やら職場にあるグラウンドなど、地べたを見れば巣を作らない蜘蛛がなんぼでも見れました。この一方で、立派な蜘蛛の巣を作り、その真ん中に蜘蛛がドンといる光景になかなか出会えなかった……私の生活圏では、今年の5月半ばから末まで、立派な巣を構えている蜘蛛は意外といなかったのです。会ったのは田

          季語「蜘蛛」についてのあれこれ

          麦の秋(季語が連れていってくれた場所)

          1 俳句ポスト365に示された兼題、「麦の秋」。 「麦の秋」であり「麦秋」を調べると、歳時記では「五月下旬」、広辞苑なら「麦を取り入れる頃」で「陰暦四月」(今年だと5月20日から6月17日)、とあります。 元々は二十四節気「小満」の末候(七十二候)の「麦秋至」からでしょうか。今年でいえば小満の期間は5月21日から6月5日まで、「麦秋」についていえば、6月1日から5日くらい、でしょうか? 歳時記や辞書、暦から、機械的に期間を探っていくとこのような感じです。 一方、今回、

          麦の秋(季語が連れていってくれた場所)

          「野遊」

          今回の俳句ポストの兼題は「野遊」。 俳句ポスト365 (haikutown.jp)では、兼題の発表に合わせて季語の説明がされます。野遊については「春の日に野山で遊ぶこと。寒た冬から解放され、明るい日差しの中で草花を摘んだり弁当を食べたりして過ごす。春の愉しみの一つである」と書いてあります。なんとも楽しそうな季語です。 もしも、これで終わることができれば、「実際に春の野山に繰り出し、遊び、弁当の一つも食べて、実感したことを句にできれば良い」と締めくくれそうです。 ところで

          「野遊」

          花冷(3/8改訂版)

          今回は「花冷」(はなびえ)です。 まず、歳時記を引き、「花冷」を見てみます。晩春(清明・太陽暦ならば4月5日頃から、立夏・5月5日頃の前日)の時候の季語です。 1:歳時記から 角川大歳時記(2006年版):桜が咲き、もうすっかり春と思っていると、思いがけなく薄ら寒い日が戻ってきて驚くことがある。こんな寒さを花冷えとよぶ。 新歳時記:四月には寒さのぶりかえしはほとんどなくなるが、下旬まで、ときおり急に冷え込むことがある。桜の花が咲いている頃なので、花冷えという。(中略)花

          花冷(3/8改訂版)

          「鳥雲に入る」と「鳥帰る」

          俳句ポスト365の今回の兼題「鳥雲に入る」。 越冬のために日本に来ていた渡り鳥が、北へ帰る際に、雲の間に消えていくように見える様子を指す。 「鳥雲に入る」は七音。上・下に置きやすい五音の季語に比べれば使いづらい季語ですが、傍題に五音に略した「鳥雲に」があります。 なぁんだ、「鳥雲に」を使えばいいじゃないか、と思って句を作り、改めて歳時記を見ると、「鳥帰る」という季語がお隣に載っていたりします。こちらも五音の季語です。 角川大歳時記には、「鳥雲に入る」の項に「具体的な景という

          「鳥雲に入る」と「鳥帰る」