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苦手

雷が鳴る。ピカッと光った後、1、2、3と数える。数が少ない方が近い。近ければ近いほど、バリバリバリバシャーンと爆発音が轟く。

実は、この年になっても雷が怖い。こんな歳で「私、雷怖いんですぅ」と言っても、誰にも同情されないので黙っているが、本当に怖い。

「え、なんで来てくれたの?」
(イケメン登場)
「雷怖いって知ってたからさ」
(イケメン恥ずかしそうに笑う)

ピカッ
バリバリバリバシャーン

「キャー」
(頭を抱えうずくまる私)
「こっちにおいでよ」
(柔らかブランケットを広げるイケメン)
「俺がいるから大丈夫だよ」
(ブランケットごと私を抱きしめるイケメン)

・・・のようなことは絶対起こらないので、ぐっと歯を食いしばって耐えるのみ。おかん、可哀想。

幼少の頃、一人で留守番している時の雷は最悪だった。夏の夕方、ゴロゴロ言い出すと辺りが急に暗くなり出す。怖いからちゃぶ台の向こうのテレビに集中する。

ピカッ
バリバリバシャーン

昔はよく停電した。今なら秒で回復する電力だが、その頃は一旦停電すると二時間ぐらい真っ暗だった。雷の音と停電は、一人ぼっちには辛かった。頼りのテレビが消えてしまうので、家の中で1番明るい自分の部屋へ行き、ベッドでブランケットに包まる。まさにじっと我慢するより他になかった。

じっと我慢する時の感覚が、こんなおばさんになっても蘇るのだ。怖いと言う気持ちをギュッとする時の、何とも言えない嫌な感じ。言葉に出来ないあの感じに毎回襲われる。先に書いたなんちゃって劇場のような「キャー」という言葉は出ない。人間、声が出る時はまだましな怖さの時だと思う。気持ちに余裕がないとなかなか「キャー」と声はでないのだ。

雷と同様に、お化け屋敷も苦手だ。大勢の人が「キャー」と言って楽しむものであるが、ギュッと我慢することに慣れている私は、めちゃくちゃ怖いのに「キャー」とは言えず、変な汗をかきながら暗闇と雇われお化けに耐えるのみ。暗闇は圧迫感が酷く、余計にギュッとした感覚に拍車がかかる。こんな思いをするために、お金を払うなんて馬鹿らしすぎると思うようになってからは、お化け屋敷はパスしてきた。デートで遊園地に行ってお化け屋敷に誘われても「え、ちょっとごめんパス」と言って避けてきた。非常に可愛らしくない彼女だったと思う。「キャー」と言えたらどんなに良かっただろう。

息子は昔から大層怖がりで、雷や暗闇や地震などに怯えると「怖い」と言って私のところにやってくる。そんな時、私も怖いのだが、息子が恐怖を感じている時に息子の「怖い」と言う感情に即座に対応出来て嬉しい気持ちもするのだ。

「大丈夫、お母さんがいます」

この言葉と気持ちでいる為に、あらゆる恐怖をぐっと我慢して、「おかんは誰よりも強い」仮面を今日も被って生きてゆく。


※イラストお借りしました。 syuka_sakuraさん、ありがとうございます。

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