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なぜ財政赤字が増えるのか

赤字を抑えるには支出を抑えるか、増税するかしかない!
と考えておられる方は多いと思います。
でも実は違います。
順を追って説明したいと思います。


〇お金は使ってもなくならない

お金は使ったら無くなるものと思ってませんか?
手元から無くなるだけでお金は無くなりません。
他の人のものになるだけです。
こういうとそんなこと当たり前じゃないかとお叱りを受けそうです。
ですが、働いたらお金が増えると思っていませんか?
働いても会社のお金が減って、社員のお金が増えるのでお金は移動してるだけ総量は変わりません。
そして政府の支出となると財政赤字ばかりが膨らみまるでお金が消えてるように錯覚してしまってませんか?
消えてしまったお金を増税で補填しないといけないと思ってませんか?
実は政府が国債で作った支出のお金はしっかり民間の貯蓄になっています。
政府が負債を増やすほど民間は豊かになっているといえます。
ただし、これは貯蓄、いわゆるストック話。


〇やはりお金は使ったらなくなる

最初に謝ります。本当に馬鹿にするなと怒られそう(汗)。
ですが、この違いをわかっているといないではその後の理解がまったく違うので対比するようにあえて書かさせていただきます。
年収300万の人が頑張って貯蓄して30万の貯金を作った。これは30万の黒字です。
年収1500万の人が頑張って負債1億でマンションを買った。これは1億の赤字です。
資産としては不動産も資産ですから資産としてはまるまる赤字ではないのですが、資金循環統計としては1億円の赤字、そしてこれは他の誰かの黒字になります。
このように比べると貯蓄・負債の寡多より、年収の方が大事だと思えませんか?
貯蓄が100万増えるより、年収が100万増える方が嬉しいですよね。
このときの貯蓄をストック、年収(と支出)をフローと言います。
ストックが増えるときは他の誰かのストックが減っています。
フローが増えると他の誰かのフローも増やします。
「お金を使ってもなくならい」というストックの視点と「お金は使ったらなくなる」というフローの視点、これを経済専門家でもごちゃ混ぜにしてるケースはよく見かけます。


〇家計とは違う政府の税収

家計の儲け方と企業の設け方、政府の儲け方はそれぞれ違います。

  • 家計の儲け方

家計は主に労働をし、その対価として収入を得る。また金融投資や節約でお金を増やすことができる。

  • 企業の儲け方

企業は資本と労働力を集め、事業を行い、そこから事業収入を得る。

  • 政府の儲け方

政府は主にGDPの中から消費税、所得税、法人税を得る。つまり、GDPを増やすことが肝要であって、政府がおこなう事業で利益を出す必要はない。政府が家計のように支出を節約してしまうと、GDPが減り税収が減るので節約が節約にならない。消防署の運営から事業収入は得られないが、賃金や経費の外注はGDPとなり、そこから税収は得られる。乗数効果でさらに税収は増える。政府は税率を上げることや事業で利益を出すことよりも、乗数効果を上げることに注力すべき。

〇民間企業と政府の住み分け

乗数効果については後述しますが、企業と政府の違いについてもう少し補足します。
私が政府の支出を増やすべきだと主張するとよくご指摘を受けるのが、共産主義とか民業圧迫だということを言われます。
しかし、それにはまったく当たりません。
民間企業には事業収入を得なければならないという大きな制約があります。
だから、利益を確実に出せるもの、投資の回収が短期中期で見込めるものに注力すべきだし、
政府は利益が出ないもの、投資期間が長期であったり、失敗の可能性が高いものに注力すべきです。
そして政府が直接事業を行うのではなく、あくまで補助金などで、民間企業に経済合理性を与えることが政府の役割となります。
また政府には好不況に合わせて支出を調整する役割もあります。
不況の時に支出を増やしておかないと、景気が過熱したときに減らせる支出が少なくてブレーキを利かせられなく危険性が生じます。

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〇乗数効果

乗数効果とは平たくいうと政府支出を増やしたときにそれの何倍のGDPにつながるのかということです。

政府支出1000万で道路整備をするとする。
受注業者に1000万の売り上げ。
下請け業者にも800万の売り上げ。
資材や重機の会社にも600万の売り上げ。
それら関連する企業の従業員の賃金。
その賃金を生活のために消費することで、さらに企業の売り上げ。
こうしてお金が巡っていくことで最初の政府支出の何倍のもGDPになる。

逆に政府支出で給付金を100万配る。
80万は将来のために貯蓄し、20万だけ使う。
20万が企業の売り上げになり、賃金になっていくがGDPが最初の100万を越えることはない。

景気が悪くなり、投資や消費が控えられると貯蓄が増え、同じ政府支出でも乗数効果が下がります。
景気がよくなると、投資や消費が活発になり、乗数効果が上がります。

〇乗数効果と税収

つまり乗数効果の低い支出を減らし、高い支出を増やせば、支出が増えてもGDPの増加により税収も増えるので赤字は膨りません。
またGDPも増えるれば対GDP比債務残高は減らせます。
しかし、乗数効果の低い支出を減らすというのは現実的には難しいです。
年金などは操作する余地が少ないからです。
でもだからこそ、その分乗数効果の高い支出を増やさねばならないです。
そして乗数効果の高い支出は雇用を生みます。
雇用が生まれると人手不足になります。
人手不足になると企業は人材確保のために賃金を上げるようになります。
賃金が上がり始めると節約志向は薄まり、乗数効果は一気に上がり始めます。
高度成長時代本当に人手不足だった頃、政府にお願いされなくても企業は自ら賃金を上げたし、終身雇用を採用したし、厚い福利厚生を導入したんです。
現在の企業は生産性があがっても賃金を上げません。内部留保がつみあがるだけです。

〇どこまで財政支出を増やせるのか

赤字が増えないのであれば乗数効果の高い事業に無制限に支出すれば良いと考えるかもしれません。
しかし、残念ながらそれはできません。
乗数効果の高い支出は雇用を増やしますが、労働市場の余剰人員には限りがあるからです。
労働市場の余剰人員が多いか少ないかを簡単に見分ける方法は名目賃金上昇率が参考になります。
企業は人材確保が難しくなれば賃金を上げてでも確保しようとします。
その賃金が上がっていないということは余剰人員が多いということになります。
過度に賃金上昇が起きると今度は好不況の波が大きくなり、かえってバブル崩壊など大きな不況を呼び込みかねないので、適度な賃金上昇が起きるまでは政府支出が増やせるということになります。
それでも、政府にやらなければならないことがあり、もっと支出しなければならないとなったそのとき、初めて増税の議論が出ることになります。

〇フローには上限はありません。

経済規模世界一位のアメリカでもフローは拡大し続けています。
また人口の減ってる国においてもフローは拡大し続けています。
ストックで税収を増やそうと考えると増税になります。
ですが、税率を上げるには当然のことに限度があります。
フローで税収を上げるにはフローを拡大することです。
これは民間と政府が対立せずに共通目標としてフロー拡大を目指すことができ、フローの上限はないので、賃金の拡大と税収増が同時にできます。
豊かな生活をおくろうと思えば貯蓄ではなく日々の収入を増やす必要があります。
日々の収入が増えないのに貯蓄を増やすと生活に使えるお金は減ることになります。
財政でいうと累積赤字がストック、税収マイナス支出がフローということになります。
貯蓄が増えるほど乗数効果が減り、消費が増えるほど乗数効果が高まります。
このように書くと「貯蓄すること=悪」と短絡的に考えるかもしれませんが、貯蓄すること自体はまったく悪くありません。
悪いのは貯蓄が優位な仕組みになっていることです。
増税で財政赤字を解消しようとするのは持続可能ではありません。

〇貯蓄優位な仕組みとは

貯蓄優位の仕組みとは根本的には賃金デフレです。賃金が上がらないと将来への不安が大きくなり、貯蓄しておこうとなります。
逆に賃金が上がるとそれは物価にも反映されます。
賃金が上がり続けているときに手元に現金無しで車を買おうとすると、5年かけてお金をためると車が5年先には30%値上がりしてる。
それよりは今ローンを組んで今の価格で購入し、上がっていく賃金で支払った方がお得ということになります。
日本では長らく賃金デフレが続いていますので馴染みのない考え方になったかもしれませんが、これが本来の経済のあり方です。

〇まとめ

見てきたように財政赤字が減らない理由は単に支出が多いからではなく、財政支出が経済効果をもたらしていないからです。
赤字が多いからといって財政支出を減らしてもその弊害も大きくて赤字は減りません。
雇用を増やし、賃金を上げていくことで税収を増やす。
このことが大事です。
「景気対策は雇用対策」これが昔から変わらぬ基本なのです。


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