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短歌総合誌『歌壇』感想文

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短歌総合誌『歌壇』を読んで、好きな歌の一首評をしたり、気になった記事の感想を書いたりしています。
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記事一覧

『歌壇』2024年3月号

①憑きものの落ちたるごとく小説を読まなくなりて歳晩は来ぬ 大辻隆弘 四句と五句の間に時間…

川本千栄
1か月前

『歌壇』2024年2月号

①病院を出ればそこには夜があり病院だけが背後の夜が 花山多佳子 事故に遭った夫の入院先を…

川本千栄
1か月前
4

『歌壇』2024年1月号

①三枝昻之「新春巻頭言」 〈佐佐木信綱は近代以降の短歌百年は〈自我の詩〉や〈写生〉という…

川本千栄
2か月前
7

『歌壇』2023年12月号(追記あり)

①さまざまな人の来たりて弾いて去る「駅ピアノ」よし「空港ピアノ」も 小池光 最近インスタ…

川本千栄
3か月前
5

『歌壇』2023年11月号

①「樹木の歌十首 糸川雅子選」 赤松はひとつのこらず鏡ゆゑ出口のあらぬ赤松林 渡辺松男/黄…

川本千栄
4か月前
2

『歌壇』2023年10月号

①なによりもビーズの鞄が大切な少女時代が思い出されて 江戸雪 ビーズの鞄がレトロっぽいア…

川本千栄
5か月前
4

『歌壇』2023年9月号

①咲くといふ武装のかたちしろきリラむらさきのリラ蜂を使役す 柳澤美晴 花が咲くことを花の武装と捉えた。凛とした主体の姿が花に重なって見えるようだ。花が蜂を使役するという見方も、主体の意志の強さを感じさせる表現だ。リラの花色の描写が美しい。 ②特集「その時歌人たちはどう詠んだか」 三枝昻之「国こぞり電話を呼べどー歌人たちの関東大震災」 〈そのとき、佐佐木信綱は東京本郷の加賀前田家を訪問していた。〉  この論とても面白かった。描き方に臨場感があるのだ。ドキュメンタリー番組のよう

『歌壇』2023年8月号

①居酒屋のにぎはひの声にんげんの喜ぶときの濁りあるこゑ 高野公彦 コロナ禍の厳戒態勢が緩…

川本千栄
7か月前
4

『歌壇』2023年7月号

①傭兵は死者の数には入らざり 劇画でなしワグネル隊長の顔 米川千嘉子 6月25日のワグネル…

川本千栄
9か月前
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『歌壇』2023年6月号

①さびしさをまぎらすやうに風もまた風に遅れて竹群に入る 外塚喬  宮本永子〈鳥や木になり…

川本千栄
10か月前
2

『歌壇』2023年5月号

①四層の刎木(はねぎ)に架かる橋反りて谷ゆく水を此処に見下ろす 三枝浩樹 山梨県大月市の…

川本千栄
11か月前
4

『歌壇』2023年4月号

①親しんでそののち距離を見失う友あり何度かそんなことあり 竹中優子 一旦は仲良くなりなが…

川本千栄
1年前
4

『歌壇』2023年3月号

①中西亮太「インタビュー齋藤宣彦さんにきく」  史の連載を終えた中西が、ご子息の齋藤宣彦…

川本千栄
1年前
3

『歌壇』2023年2月号

①青空を背にして破壊さるるとき橋はなにゆゑ生々しきか 栗木京子 戦争のドキュメンタリーなどで橋の破壊の場面を意外に多く見ていることにこの歌で気付いた。むしろ戦争の一つの象徴かも知れない。あちらとこちらを繋ぐものが青空を背景に壊される。人間の生活の歴史を纏いながら。 ②採算と命の値段のくらき溝 鶏の治療はついぞ習わず 久永草太 鶏インフルエンザのニュースの度に何万羽もの鶏を「処分」と聞く。その理由は、鶏を治療していては採算が合わない、「処分」するしかない、ということなのだろう