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【国連を辞めたいと思った時】酷い上司はキャリアの10%理論


質問に回答するシリーズ。もうすでに講演から時間が経ってしまったので、見ている学生さんがいるかは不明だけど(遅くなってすいません…)

「今の仕事を辞めたくなったことはありますか?」

ストレートな質問だが、僕も仕事を辞めたくなったことはある。一番辞めたかったのは、上司が大変な人だった時だ。紛争国で働く場合、生活環境や職場の環境などは良くない場合もある(特にアフリカの場合)。体力的にはハードだが、そこは意外と何とかなるもので、一番重要なのはやはり同僚や上司など一緒に働く人との関係ではないだろうか。

当時、上司に嫌われたとかいう感触はないのだが、とにかく厄介な人で、苦しんでいたのは僕だけではなかったようだ。ただ、一つ大変なことがあり、僕をしばらく悩ませ続けた。


あまり詳しくは言えないのだが、プロジェクトの参加者にお金を支払う方法についての上司の決断が行われず、とても長い時間待たされたことがあった。こちらが進めようとすると怒られ、今自分が交渉中だといって時間だけが過ぎていった。そのあと大きな問題が起こって、僕の身にも色々あり、本部に報告しないといけないようになったのだが、その報告が保身に走るような内容であった。
というわけで、あの時期は非常に病みかけていて、偏頭痛が起きるほどであった。明らかなパワハラならともかく、放置や責任の放棄ということではこちらはなかなかどうしようもない。それより上がいないので、飛ばして報告するわけにもいかなかった。今ならもう少し俯瞰で見れたかもしれないが、初めての経験だったし、当時担当者としては辛く苦しい日々だった。

そんな時、ちょうど日本に一時帰国して参加した研修の講師として来ていた、日本人として二人目の国連事務総長特別代表も務められた長谷川祐弘さんが下記のようなことを話してくれた。


「私の国連での40年近いキャリアの中、ひどい上司に当たったのは約4年だった。つまり国連人生の中10%はそういう上司に当たるということ。それは仕方ない。もし当たった場合、上司のやり方を変えさせようと努力しても無駄。自分が他のポストを探すか、相手が去るのを待つかだ」

また、他の国連で長く働いている人や、その研修に参加した同じくらいのキャリアの人も、
「私も、本当につらい時期があって、その上司の香水の匂いがするだけで頭が痛くなった」とか「オフィスに行くのが辛くて、瞑想アプリを使って心を整えていた」とかやはり誰でも経験するんだなというのがわかって心が楽になった記憶がある。

僕の場合はその後上司が異動になって、結局1年弱程度でその苦しみが終わり、長谷川さんの「10%理論」はあながち間違いではないのかもと思った。上の方に行けばまともな人も多いし、元々異動も多いので10%というのは他の会社や組織に比べたらましなのかもしれない。僕もその上司以外ひどい上司に当たったことはない。

国連の場合、組織にもよるかもしれないが、職員は赴任時にセクハラ、パワハラのオンライン研修を受けることになっており(禁止事項だけでなく、被害者になった場合の対応も含む)オンブズマンにパワハラを報告できたり、カウンセラーに相談できるよう、組織としての対策はしているので、日本の会社などに比べたらかなり進んでいると言える。ただ、一番恐ろしいのは報告するまでもない(と自分で判断する)けど自分にとっては苦しい状態だったりする。こういう時には他のポストを探すか上司が去るかを待つという心構えは精神衛生、必要だなと思った。

まあ実際のところ、若いうちは他のポストを探すのは簡単でないし、あまりにもひどい上司だと待っているわけにもいかないので、皆が経験するものとして一人で悩まず、逃げ切る方法を考える、ということだと思う。当事者になると意外にできないものだ。

ちなみに僕はそれほど国連という組織に固執しておらず、いつ辞めても良いとは思っている。それくらいの気持ちの方が返ってやりたいことをやれるという気はする。入って5年くらいはキャリアをつなぐのに必死ではあったが、その辺を超えると皆少し楽になるようだし、僕も意識が変わってきた。ただ、仕事にやりがいを感じているし、貴重な経験をさせてもらっているので、あの時意外に本気で辞めようと思ったことはない。

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