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春の夢想

空が桃色に染まりそうな八重桜の木のそばに黄色いヤマブキの花が咲いていた。

カメラのピントを合わせながら、古歌を思い出した。

 七重八重、花は咲けども山吹の・・

上の句まで口ずさんだけれど、下の句を躊躇した。

目の前のヤマブキは、一重だった。

そういえば最近、八重のヤマブキになかなか巡り会わない。一重のヤマブキの花に八重の花の歌をつけても・・と思い迷っていると、大きな野太い男性の声が私の春の夢想を吹き飛ばした。

「えっ、これを撮りたい? こんなの撮っても無意味だろ!! 撮らなくてもオレには判る!!」

と満開の八重桜の下で奥方と思しき中年女性に吐き捨てた。

カメラを手にした奥方 「・・でも、あなた、撮って見なければ判らないじゃ無いの・・」

夫婦であっても各々違う現実を生きている、のかも知れない。

最近、「世界線」という言葉をよく目にするが、もしかして夫婦間で各々プチ・パラレルワールドを体験してるのだろうか。

私はどちらの"世界線"も否定はしない。各々が自由意志で選択した世界だから。人は自由意志で観たい世界を生きている、と想う。その自由意志を否定したくない。

私の場合は、どちらかと言うと奥方の方の"世界線"に生きている。

そりゃ、写真なんて撮って見なければ判りませんから。


蛇足

下の句は覚えているんだけど、上の句が出てこない歌がある。

ある日、天子様が高台に登られて東京を眼下に謳われた。
上の句を謳われたが、下の句が出てこない。

そこで侍従がうかがった。「・・下の句は?」

天子様 「・・下のクは知らぬ・・」


早く良い時代になってもらいたいものである。


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