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フランスでショコラトリー店員になる#14 朝の仕事

フランスのパン屋は、開店時間が早い。
朝食には、焼き立てを食べられる。
私が働いていたショコラトリーでは、ヴィエノワズリー(クロワッサンやブリオッシュ等)も販売していたので、開店時間は早かった。

開店時間は静かに始まる。
いきなり店が混み合う訳ではないので、スタッフも少なめスタートだ。
とはいえ、焼きたてのパンや、ケーキをワゴンに乗せ陳列する等、ちょっぴり忙しない。しかも、慣れない早番。解らないことがあっても、スタッフが少なめな朝はすぐに聞ける状況ではなく、緊張もした。

ショコラの他にも、こうしてヴィエノワズリ―も置いていたし、ケーキも焼菓子も、総菜も置いていた。
広い売り場の奥の方にあるショコラを普段は担当していたが、状況によってはパンや総菜、ケーキ売り場でも接客もした。

スタッフもまばらな朝早く、いつもパンを買いに訪れるムッシュがいた。
颯爽と現れ、クロワッサン等を買っていく。
きっと通勤前に来店されているのだろう。
ある日、そのムッシュの接客をした。
ドキドキしながら、注文通りのパンを袋に入れ、渡すと
帰り際にレシートに書かれた担当者(私)の名前をまじまじと見ながら、
大きな声で読み上げた。

「Miko!」

そして、にっこり笑い、去っていった。
アジア人のヴァンドゥーズが初めてだったから、よっぽど珍しかったのか、すぐに覚えてくれ、来店する度に声を掛けてくれるようになった。

朝は、兎に角緊張する。
これから忙しい一日が始まる…!そんな緊張感だった。

毎朝、シェフ(職場では、ムッシュと皆呼んでいた)は売り場にやって来た。陳列された店の商品を見て回って、そして私を見つけると
「Bonjour, mademoiselle.(お早う)」とやって来て、毎日握手をしてくれた。大きな手はとても温かく、優しかった。こんな新入りの私に握手をしてくれるなんて…と感激した。

そんな日常のささいなことが、私に勇気を与えてくれた。

10時になると、スタッフが次から次へとやって来た。

「Medames(メダーーム)‼」

メダムとは、マダムの複数形で、既に売り場に何人かいるスタッフに向けての挨拶だった。挨拶は、朝といえば ”Bonjour(ボンジュール)かSalut(サリュ)”と思い込んでいた私には、新鮮だった。

ボンジュールじゃないんだ…。メダムって…”皆さん”って呼びかけてるだけじゃん!!

私は、スタッフ達の、この登場の仕方が大好きだった。
キターーー‼という感じだった。人数が少なく、心細い朝の終わりを告げる登場だからだ。

その後は、サヴァ?(元気?)と続く。和やかなひと時だ。
私達は、ショコラの包装などをしながら、お客様がいらしたら前に出て接客をした。包装は、今までの経験があったから、本当に良かった。
やり方は店によって様々だが、難しすぎることはなかったし、元々好きだから、何より覚えるのが楽しかった。


毎日働いていると、よく来店されるお客様の顔も覚えてきた。

名前の分からないお客様も多かったが、
毎日キャラメルを4粒だけ買っていかれるムッシュや、必ずトリュフを袋入りで400g買われるムッシュ等…お客様にはそれぞれお気に入りの商品があり、それを覚えた時は

「いつものあれですね?」

と解り合えた気分になり、嬉しかった。

仲良くなったヴァンドゥーズとの間では、ひそかに、
キャラメルを4粒だけ買っていかれるお客様のことを(名前がわからないから)”ムッシュ・キャラメル”と呼んでいた。
しかしある日、ムッシュ・キャラメルがキャラメルを5粒買っていかれた日があり、ざわついた。今思えば、「今日は5粒なんですね!」と話しかけたら、5粒の理由を教えてくれたかもしれない。

人から元気をもらう。

だから、私も誰かに元気をあげたい。

それが人との繋がりなのかもしれない。
そう思ったのだった。




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