第四回「本件におけるマイナビ出版の問題点」

 本件におけるマイナビ出版の対応には数々の問題があった。

 私が本件に関して千田氏よりも、マイナビ出版に対して怒り、あきれているのは期待があったからである。全国的に有名な企業を親会社に持つ出版社として、社会的に当たり前の対応ができると思っていたからだ。
 しかし、私の期待は裏切られることになったし、現在進行形で裏切られ続けていると感じている。(なんで早く詫び文を撤回しないの?大丈夫ですか?)

 マイナビ出版は将棋戦術書市場において圧倒的シェアを誇る企業である。
 批判点について改善し、二度と本件のような対応を行わないようにしていただきたい。

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★目次
1 問題点

1.1 初動時における問題点
1.2 千田氏2巡目の主張と詫び文掲載の決定における問題点
1.3 著者の承諾なしに詫び文変更した瑕疵
1.4 千田氏の旗色が悪くなると沈黙
1.5 マイナビ出版はなぜ詫び文を撤回しないのか?
1.6 早く詫び文を撤回するべきだ
1.7 事態が解消されない場合

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1.問題点

1.1 初動時における問題点

 千田氏にパクり問題で抗議を受け、著者のsuimon氏に連絡した段階(8月3日頃)でのマイナビ出版の対応を検証する。
◆参考:第一回①経緯

 結局のところ、千田氏の抗議は無理筋だったわけだが、マイナビ出版の担当者として有力棋士の問い合わせに何らかの回答を行う必要はあっただろう。初動時においては重過失はないと考えられる。
 ただ気になるのは、メールでの証拠は残っていないが、suimon氏の話によると、初動時点で既にHP上に謝罪文を掲載する方針は固まっている雰囲気があったということだ。
 何にせよ、この時点で社の法務部や、顧問弁護士等に相談をしていればその後の誤った対応を防げたのではないだろうか。

◆法的な問題が絡んでいるのに、法務部、弁護士等に相談しないというコンプライアンス上の過失はある。

1.2 千田氏2巡目の主張と詫び文掲載の決定における問題点

 千田氏が「参考文献と引用の問題」を持ち出し、担当者はその理屈に屈してしまった。
◆参考:第二回①経緯

 この時、担当者は検証として「現代将棋新定跡」と「C-book」の手順の一致程度を調べたというが、定跡ファイルについてどの程度の知識があったのだろうか?
 これは想像だが、編集部内で千田氏の指示通りに「C-book」をダウンロードし、目の前で同一手順部分を見せられたのではないだろうか。定跡ファイルに関する知識がないと、「一致程度」が多いことに驚き、相手の主張を受け入れてしまう可能性がある。

 部分的に千田氏の理屈に屈してしまったわけだが、メールの文面を見ると、「我慢していただくことが多く心苦しい」「納得しろとは言わないが、ご理解いただければ。」など、千田氏の行動のおかしさは自覚していることがうかがえる。
 アマチュアであるsuimon氏に我慢させ、有力棋士である千田氏の感情を抑える――というのは奇妙な対応であろう。

 実際に掲載された詫び文も、論理が通っておらず、千田氏の主張をほぼそのまま通している感がある。(結局、初動時で否定されている「パクり」を言い方を変えて掲載させられている)

◆有力棋士である千田氏に忖度して、対応を誤った。(有力棋士のクレームに対し構造的に弱いというマイナビ出版の弱点。とは言え筋の通らないクレームを付けてくる棋士は少ないと思われるが……)
◆この時点でも法務部や弁護士に相談していれば、正しい対応をとることができたのではないか。
◆「正しさ」よりも「その場を収めること」「千田氏を抑えること」に重点を置いた対応を取ってしまった。

1.3 著者の承諾なしに詫び文変更した瑕疵

 マイナビ出版は事前にメールでsuimon氏に伝えていた「詫び文」とは異なる文章を掲載した。suimo氏がマイナビ出版に指摘すると「事後承諾ですいません」「当日に千田氏から要求があったために文章を変えた」との答えが返ってきた。
 HP上に詫び文を掲載するというのは、企業にとって重い判断のはずである。著者の承諾なしに文面を変えるのは重大な瑕疵であろう。
 また、この詫び文について社のどのあたりまで相談・承認があったのかは気になるところだ。現場レベルの判断だけで詫び文を出せるものなのだろうか。
◆参考:詫び文
◆参考:第三回「詫び文公開後の展開」

◆著者の承諾なしに詫び文の文面を変えたことは重大な瑕疵。
◆明らかに著者ではなく、千田氏を優先した対応を行っている。
◆詫び文の掲載決定の意思判断は現場レベルのものなのか? →いずれにせよ、コンプライアンス上の問題がありそうだ。

1.4 千田氏の旗色が悪くなると沈黙

 8月21日に詫び文が掲載された後、ほうぼうからその文面の不可解さに批判が起こった。伊藤雅浩弁護士が本件に関するツイートを行い、千田氏は予告していたツイッター上での説明を取りやめた。詫び文の根拠がなくなってしまったのだ。
 著者であるsuimon氏の名誉を傷つける何の根拠もない詫び文が掲載されている――という著者の人権が侵害されている事態が起きたわけである。
 しかし、マイナビ出版は今(9月14日)に至るまで詫び文の撤回を行っていない。
 根拠がなくなってからの著者への対応も後手後手で、橋本がツイッター上で公開質問を迫るなどしなければ動かなかった。あまりにも著者を軽んじてはいないか。

◆根拠がないとわかった時点で詫び文の撤回を行うべきだった。(誰にでも間違いはある。間違いだと分かった時にすぐに対応する企業を私は評価する)
◆マイナビ出版は現在(9月14日時点で)も詫び文の撤回を行っておらず、これはsuimon氏の名誉を著しく軽んじているとみなすことができる。現在進行形の過失である。

1.5 マイナビ出版はなぜ詫び文を撤回しないのか?

 ひとつ考えられるのは、マイナビ出版が詫び文の撤回に関して千田氏の承諾を取ろうとしているから――ということになる。そして、千田氏は詫び文の撤回を承諾していないのだろう。
 詫び文の掲載は著者を納得させることができないまま、文面を変えてまで強行した。詫び文の撤回に千田氏の承諾など必要ないことは明らかだ。

◆ここまできてまだ千田氏の意思を尊重しているのか? だとするとあきれるしかない。

 もうひとつ考えられるのは、マイナビ出版自身も千田氏の主張に同調しているケースだ。これからの将棋書籍でC-bookと同一局面・同一手順が出てこれば全て「C-bookからの引用」と表示する方針をとった場合だ。これは「C-book」が公に将棋界の標準・基準になることを意味する。確かにそうなれば千田氏の抗議が実った?展開となる。ただ、そうなれば私だけではなく多くの人々が公に批判を行う事態となるだろう。

1.6 早く詫び文を撤回するべきだ

 3者での協議がまとまってから――というのではなく、詫び文の撤回自体は一刻も早く行うべきである。後で協議内容の結果や、社内検証の結果を公表するのだとしても、詫び文の撤回は先に単独でできるはずだ。これは私が何度もしつこく言っていることである。

 たとえ冤罪であっても、最初の報道だけを見て判断をする層はいつでも一定数いる。誤った詫び文が掲載される期間が長くなればなるほど、suimon氏はいわれない名誉棄損を受け続けるのだ。私が驚いたのは、マイナビ出版はこんなすぐにできる対応さえも行わなかったことだ。
 出版上の手続きの問題よりも、人権問題のほうが重い。全国的に有名な企業を親会社に持つ企業がなぜこのことを理解しないのか。

◆本件対応はマイナビ出版、株式会社マイナビにおける重大なコンプライアンス問題である。
◆しかも現在進行形で個人の名誉を傷付け続けている。

1.7 事態が解消されない場合

 既に根拠のない詫び文が掲載されるという事態がこれ以上続く場合、私のほうでも何か働きかけを行っていきたいと考えている。

・親会社である株式会社マイナビへの問い合わせ、質問(公開質問)。
・千田氏が所属する公益社団法人日本将棋連盟への問い合わせ、質問(公開質問)。
・著者の名誉を傷付けたまま放置されている現状を広く周知させる運動を行っていく。

 マイナビ出版の本件対応のまずさは確かにあったが、今私が強く怒っているのは、マイナビ出版が個人の名誉や尊厳を軽んじた対応を続けていることなのである。棋書そのものについての問題は将棋界内の議論にとどまるかもしれないが、個人の名誉や尊厳の問題は一般的な社会問題につながるのだ。ことの重大さを受け止め、迅速な対応を求めたい。

(続く)

<連載リンク>
第一回①
第二回①
第三回


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橋本長道

現代将棋新定跡をめぐる問題に関して

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」(suimon マイナビ出版)に対してプロ棋士・千田翔太六段が抗議を行い、マイナビ出版が詫び文を出した事件の経緯と論点を綴っていきます。
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