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ニート、精子を選ぶ

私の「ニート」シリーズ(まだ1記事しか書いていないが)の投稿が意外にもありがたいことに多くの方に読んでいただいているので、その続きを書きたいと思う。

精子バンクで精子を買うことに決めたはいいが、どうやって精子って選ぶのか全くわからなかった。
膨大な数のドナーから何を基準に選ぶんだろう…選ぶのに悩んだり、とてつもない時間がかかってしまったらどうしよう。
未来の子供の遺伝子上の父親を選ぶって重大責任だけど、絶対後悔したくない。
でもよく精子バンクにはたくさんの登録者がいます!とか聞くが、それは誇大広告であることにすぐに気づくのである。
そして、選ぶのには結局たった1秒しかかからないことになる。

私は日本人なので、文化や見た目の感じも自分と近しい感じであって欲しく、日本人を選びたいと思っていた。
外国人とも付き合ったことがあるが、外国人と結婚しようとは思ったことはない。選択的シングルマザーの子供なのに、いきなり子供がハーフだったらどうなのだろうというモヤモヤがある。しかもハーフって振り幅があって、外国人にしか見えないハーフの子もたまにいる。私しか親がいないのに、私に似ていないということは、その子をより複雑な気持ちにさせてしまうだろう。
また、何も根拠はないが、文化的なことも遺伝すると私は思っていて、だから外国人の子供だった時に、母親の私が作ったものが食べられないとかだったら困ってしまう。
こういったことで決めるっていうのも、よくないかもしれないが、あえて選べるのであれば、日本人は日本人を選ぶのが一般的だろうと思っていた。ハーフになっても、そのドナーの国籍を与えらえるわけではないのだから。

まずリサーチのために YouTubeやネットで日本から精子バンクのドナー精子を買った数少ない人たちの情報を集めてみる。そこで分かったこと。
・ドナー精子を利用すると日本人夫婦なのに子供が白人ハーフになる。
・とある選択的シングルマザー、ドナーは見た目が近い中国人を選んだ。
などを見て、ん?と思い始める。
まさかと思い、自分のクリニックがここから買っていいですよと出してくれたリストにあった3つの精子バンクのサイトを開く。
そこで驚愕の事実を知ることになる。

まず、アジア人も多く、望みの高い移民国家カナダの精子バンク。
「日本人」を検索項目に入れる。
検索結果はゼロ。
え!!カナダの精子バンクはそもそも登録者自体がめちゃくちゃ少なかった。私が見た時は300人ちょっとしかいなかった。
どうやらカナダは法律上、精子提供を無償で行わなきゃいけないらしく(アメリカはバイト代がもらえる)、ものすごい時間(&精子)を取られるのに、無償でそんなことやってくれる男性がたくさんいるわけがないのだ。
しかも、日本の精子バンク文化が浸透していない問題もここに現れている。
カナダにも日本人がいないわけではないが、そんなことを無償でやろうって思うカナダ在住日本人は皆無なのだ。

そしてさらに気づく。
日本人のドナーなんて海外にいないのではないか。いたとしても日本語が喋れない日系人しかいないのではないか。
だとしても日系人ならまだよしとしようということで検索を続ける。

次に残り2つのアメリカの精子バンクのサイトを開く。
一つ目は値段が高すぎた。どの国から買うかによっても価格は変わるかもしれないが、私が買おうとすると送料込みで1回分が約25万円だった。
しかもそこには2人しか日系人の登録者がいない。どちらもなぜかラテンとのハーフである。ラテン男性は魅力的だが私の今までの人生で絡んだことがない。ラテン系の男友達すらいないので見た目もいまいち想像できない。

残り一つの精子バンクのサイトを開く。
そこはJapaneseハーフのドナーがやっと数名いた。
そこで私は考える。その中で私とアイデンティティの一番近いドナーは誰かと。
ここで急に、私のおばあちゃんが実はハーフだったと父にある日突然聞かされたことを思い出した。
父方の全員の顔が妙に濃かったのはそのためだっか、ふーんくらいにしか思っていなかったが、私にも外国の血が薄くだけど入っていたのである。
おばあちゃんの半分の国の人とのハーフ、そのドナーを探そう、と思いつき、そこで見つかったのは結局たった一人だけだった。
その人は私のおばあちゃんと同じ、日本人とその国のハーフで、プロフィールを見たら、たまたま私と好きなものも似ていた。
その人の容姿の写真も見ることができたが嫌いじゃなかった。それでもう迷うことはなかった。

精子を選ぶも何も、もうその人しかいなかった。
その人がいなかったらどうしていたんだろうと、ふと思う。
おばあちゃんがハーフだったこと、数少ない日本人ミックスのドナーの中で奇跡的におばあちゃんと同じハーフのドナーが見つかったこと。しかも結構マニアックな国のハーフなのに。
不思議な運命の巡り合わせを感じた。
そして面白いことにそのドナーは日本人でもなく、その国の人でもなく、アメリカ人なのである。でもうれしいことにその人の好きな食べ物として書かれていたメニューは、私が人生で何万回と作ってきた和食の代表的な家庭料理だった。きっとその人の日本人の母親が、彼が小さな頃から作ってきてあげたのだろう。

ヨーロッパにも精子バンクがあるらしいが、そちらは日系ドナーなんてもっと少ないんじゃないかと思う。
もし日本で海外精子バンクから精子を買うことが流行り出したら、この感じだと日系ドナーの精子は秒で売り切れてしまうだろう。

もっと日本でも精子バンクが浸透し、日本国内にも精子バンクが増えたり、海外にいる日本人も精子ドナーとして精子を提供してくれる人が増えたらいいのにと思う。
かくいう私は卵子提供しようとなんて1mmも人生で思ったことがないのに、そんなこと言う権利はないかもしれないけど。

自分の精子を困っている誰かに提供しようって決意し、行動を起こしてくれたドナーには頭が下がるし、まだ赤ちゃんこそできていないが、その夢のようなチャンスを私に与えてくれて、私はドナーに感謝の気持ちでいっぱいなのだ。

必ず誰かの命になるために生まれてきたドナーの精子を無駄にしないように、私は人工受精を頑張りたい。


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