小さな一歩、大きな前進
マネジメントに携わる人の悩みといえば、どうして部下が思い通りに動かないのか?ということだと思います。
選択理論心理学を応用したリードマネジメントではその問題にどう対応するのか、今週のある学生との事例をもとに書いてみました。
10/29 後日談の追記をしました。
=================================
マネジメントに関わっている人はたくさんいます。
企業で部下を持つ立場の人。
子供を持つ親の立場の人。
学校の先生など教育に携わる立場の人。
かく云う私も専門学校で非常勤講師の仕事もしているので、教室のマネジメントはとてもやりがいがあり同時に難しいと感じています。
学生ごとの理解度習熟度を把握するために、担当している各教科で私が採用している仕組みは、授業ごとに毎回レポートの提出をしてもらうこと。そして提出しやすいようにQRコードやリンクを授業の終わりに共有するという方法です。
これはオンラインでも対面授業でも毎回やっています。
さて、ある担当教科で、今まで一度もレポートを提出したことのない学生がいました。ここでは彼のことをS君と呼びます。
担任の先生や他の先生に聞いてみると、口を揃えて「彼は、だらしがないというか、そういうところダメなんです。」とおっしゃいます。
マネジメントの難しさは、問題を起こしながら問題だと思っていない当人と問題に気付いている管理者、という構図にあると選択理論では考えます。
また選択理論心理学の提唱者、W.グラッサー博士は、企業のマネジメントでは、仮にマネージャーと部下の関係が悪かったとしても、部下は給与と言う報酬があるので言うことを聞くことがある。従って報酬のない教師と生徒という関係でのマネジメントは、もっと難しい、ともおっしゃっています。
彼以外の学生はほとんどがきちんとレポートを提出してくれますが、時たま提出を忘れる学生がいるのも事実。そこで自分がきちんと提出しているかいないか記録を確認できる機会も設けたのですが、「先生、ここ出てないってなってますが、遅くなったけれど今朝出したので確認お願いします。」という学生とのやりとりの横で、S君は着席したまま確認に来ることもありませんでした。
こんな時皆さんだったらどうしますか?
学生たちに自分のレポート提出を確認する機会を設けた次の週、いよいよS君と一対一で面談することにしました。
授業の終わったところで声をかけます。
「S君、よかったらプロジェクターを職員室に運ぶのを手伝ってくれるかな?」
教室は10階にあったので、たわいもない話、でも実際にはラポール(心の橋)を築くような話をしながら階段を降り、職員室に着いたところで聞きました。
「ところでS君、レポートの提出の件なんだけれど、今まで自分がどのレポートを出して、どのレポートを出していないか把握できてるかい?」
正直に言えば、階段で会話をしている時に3回くらい「君はどうしてレポートを出さないんだい?」と云う質問が喉元までで上がってきましたが、その度にグッと飲み込んでの質問です。
この質問をしたのは、彼が次のどのタイプか確認したかったからです。
1レポートなんて出さなくても大したことではない、なんとかなるとたかを括っている。
2そもそもレポートを出す・出さないが理解できていない。
3実はレポートを出していないことに後ろめたさを感じている。
挙動不審になって「まだ何も出していません」と小さな声で答えるS君。
ああ、これは3だなと思い、そもそもまずいなと認識しているのであれば追い込むことにならないよう、批判を避けるよう配慮しながら会話を続けました。
「きちんと把握できているんだね。よかった。分からなくなっているんじゃないかと心配したよ。
ところで、このままにしていいのかな?」
「いえ、出さないと良くないと思います。」
「そう、提出する気があるのを確認できて嬉しいよ。もしこのまま提出しなかったらS君は何を手に入れることになる?」
「単位落とすと云うか、授業の成績が不可になるというか…」
「そうだよね。そうなるのを望んでるわけではないよね?」
「はい」
「確認だけど、不可がつくのではなくて、どうなったらいい?」
「きちんと成績が取りたいです。」
「そうなんだね。じゃあこのままにする?それとも何かに取り組む?」
「今からレポートを全部出すので、受け取って欲しいです。」
「なるほど。みんなにも言ったけれど、今までレポートの提出期限を明確にして厳格に管理してこなかったのは私の方の連絡ミスでもあるから、今回提出してくれたらきちんと読ませてもらうよ。
ところで、たくさん提出しなくてはいけないけれど、遅れている分はいつまでに提出するか、自分で締め切りを決めてもらってもいいかな?」
「1週間以内に出します。」
「いいね。負荷が高すぎない?約束できる?」
「はい。」
「では来週の授業までに提出ということだね。何か私にお手伝いできることはありますか?今までの授業で告知したレポート提出先のリンクはわかる?」
「いえ、分からなくなってしまったものもあるので、再送して欲しいです。」
「なるほど。では私は今日中に今までのリンクをまとめて、学内チャットで送るようにするけれど、それでいいかな?」
「はい、よろしくお願いします。」
この時点でレポート提出の約束を取り付けてはいるものの、少しゆるいかなと思いましたが、いきなりできなくてもそれを受け入れて、次回もう一度話し合うことを織り込み済みでの会話です。
また、どうして〜?の質問をしなかったのは、その質問をすれば実際には言い訳、でも彼なりの立派な理由をたくさん聞くことになる可能性があるので、そこに時間をかけないようにと意識したからです。
さて、この会話のあとどうなったかと言うと
まずその日の授業のレポートは、その日のうちに提出されていました。最初に提出するグループの中に彼がいたのは驚きです。
また、学内チャットで送ったリンクにもお礼の返信があり、レポートの提出が確認できました。
ただし、おそらく内容の確認に手間取っているのか、全てのレポートではなかったのが少しだけ残念ですが、最初は提出0でしたから大きな一歩だと思っています。
このあと来週の授業前にもう一度確認して、また面談をして、彼が自分で管理できるように関わっていく予定です。
このようにリードマネジメントでは
・本人の願望を明確にする。
・本人が問題に気づき、本人が解決したいと望むように気付く機会を提供する。
・期待していることをリクエストするが強制や批判をしない。
・言い訳の機会を提供しない。
・マネジメントする側があきらめない。
と言った要素を意識して関わっていきます。
マネジメントに携わっている皆さんはぜひ、上記のことを頭の隅に置いて取り組んでみていただけたら、きっと予想以上の結果が手に入るのでは?と期待しています。
====
後日談を何人かの方からリクエスト受けました。
前述したように翌週授業前に確認をしたのですが、結果は締め切りまでに全提出。
彼のことをもっと信頼すべきだったと反省しています。
1週間であんなにできるわけないと決め付けていたのは私の方でした。
そのほかの「提出状況把握できている?」と声をかけた複数回未提出の学生も全提出になったので、まだ全て読み切っていないけれどしっかり読ませてもらいますと言うと、嬉しそうにレポートを書く上で意識したことなどを話してくれます。
彼ら、彼女たちがこうして主体的に課題に取り組むようになった、別の言い方をスレな少しずつ自立し成長しているのは、自分の取り組みが自分の欲求充足につながることを実感し始めたからだと思います。
人を動かすことはできない。しかし人は自ら動き出す。
マネジメントに関わるときに常にこのポイントに立ちかえりたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?