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「わたしは、手紙を無事に届けることを誓います…… わたしが騎士であるとしたら、騎士の名誉にかけて」

#岩波少年文庫70冊チャレンジ #14冊目  

トンケ・ドラフト著、西村由美訳『王への手紙(上)』(岩波少年文庫,2005)[1962]

ほぼ丸一年放置していた70冊チャレンジ企画ですが、まだ諦めてはいないのですよ。
70周年中には終わりませんでしたが、細々と続けていこうと思います。だって、世界にはまだ知らないすばらしい本が、たくさんあるのです。
と、いうことを、今回久しぶりに感じました。


トンケ・ドラフトについて

トンケ・ドラフト。
今回初めて知った作家です。
オランダの作家、というのも、わたしにとっては目新しくうつりました。
いま、パッとは他のオランダ人の作家が思いつきません。こんな時、わたしの知っている世界は、主に英語圏の文化を通して見た世界なのだと実感します。

トンケ・ドラフトは、蘭領バタヴィア、現在のジャカルタで1930年に生まれました。
第二次世界大戦中は、日本軍の捕虜として収容所に入れられていたそうです。そこで、お話を語ることに楽しみを見つけました。
『王への手紙』で、主人公のティウリも敵に捕まり、大切な手紙を処分する羽目になりました。それで彼は、処分する前に手紙の内容をすっかり暗記してしまいます。
頭の中にある言葉は、誰にも奪ったり消し去ったりすることのできない、大切な宝だということを、ドラフトはこの収容所の中で知ったのかもしれません。
オランダに帰ったドラフトは、イラストを学び、教師として勤める傍ら、子どものための物語を書くようになりました。
『王への手紙』は、1963年にオランダで「今年の児童文学」賞を受賞して以来、数々の賞を受賞しています。

破られた誓いと果たされた誓い

中世風の世界を舞台に、騎士見習いの少年が、秘密の使命を帯びて王へ手紙を届けにいく物語です。
王道。
とても王道。
(というほど、騎士道物語に詳しいわけではないですが。)

物語を推し進めるのは、「誓い」という概念です。
主人公ティウリは、”白い盾の騎士”が今際の際に託した手紙を守ることを誓います。
その誓いは騎士の名誉をかけたもの、つまり、何があっても決して破らない、たとえ命を落としても遂行する、という約束です。
ティウリは騎士ではありませんが、騎士になりたいと願い、事実、この冒険に乗り出さなければ、手紙を受け取った時間帯には、騎士になっているはずでした。
ティウリは騎士になるための最後の修行の規則を破って、旅にでることになります。この点において、ティウリはすでに騎士としての誓いを破った人間です。
でもその誓いとは、自分自身のためのもの、自分の将来を確実にするための誓いでした。

助けを呼ぶ声を無視できなかったティウリは、結果として”白い盾の騎士”が果たすことのできなかった使命を引き継ぐことになります。
ティウリはその手紙に何が書かれているかを知りませんが、”白い盾の騎士”が立派な騎士である、というただ一点において、騎士の使命を「名誉をかける必要のある、大切なもの」として受け止めます。
気高い騎士に誓ったことは、ティウリが自分自身のためにした誓いとは違って、なにがなんでも遂行しなければならないものとなりました。

物語として、ティウリが誓いを果たすことは確実ですが(と、こういう読み方をする大人になってしまったなぁ、とちょっと自分にがっかりしています)、そこに至るまでにどのような試練があるのか、どうやってそれを乗り越えるのか、それが楽しみでもあります。

誓いを守るということ、そのためにどこまでずる賢く、疑い深くなれるのか、あるいはどこまで気高さを保っていられるのか。
騎士道物語の醍醐味は、そのバランスにある気がしています。

ティウリの旅には、「気高さ」を体現したような騎士の一行も、善人の格好をした狡猾な敵もあらわれます。
上巻ではようやく一つの山場を超えたティウリの旅は、これからどうなっていくのでしょうか。


ところで、今回はじめて岩波少年文庫を電子書籍で読んだんですよ。
記事を書くために「本をパラパラめくる」というのができないという点で、とても困ったんですが、それはそれとして、意外と読めるもんだな、というのが新しい気づきです。

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