【公演レビュー】2023年6月24日/山根一仁〔ヴァイオリン〕阪田知樹〔ピアノ〕デュオ・リサイタル

フィリアホール「土曜マチネシリーズ第1回」
山根一仁〔ヴァイオリン〕 / 阪田知樹〔ピアノ〕

《プログラム》

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 BWV.1001
ストラヴィンスキー(ドゥシュキン編):イタリア組曲
①序奏 ②セレナータ ③タランテラ ④2つの変奏をもつガヴォッタ
⑤スケツィーノ ⑥メヌエットとフィナーレ
〜休憩(20分)〜
武満徹:妖精の距離
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」より ペトラルカのソネット第104番
同第123番
〔以上2曲ピアノ・ソロ〕
クルターグ:3つの小品 op.14e
①退屈で憂鬱な ②生き生きと ③遠くから
ラヴェル:ツィガーヌ
~アンコール~
ラヴェル:フォーレの名による子守歌
ストラヴィンスキー(ドゥシュキン編):タンゴ

俊英ヴァイオリストの進化に驚く

ヴァイオリニスト山根一仁(1995年生まれ)の演奏には、中学校3年生在学中の2010年第79回日本音楽コンクール第1位獲得当時から現在まで、幾度もテレビもしくはラジオで接した。その都度、技術的安定性、幅広いレパートリーをカヴァーする能力に感心しつつも、どこか線の細さが否めず、筆者を心服させるには至らなかった。

しかし、本リサイタルで初めて実演を聴き、持ち前のきめの細かいしなやかな音楽性は保ちつつ、強靭さが加わっていることに気付いた。コンサート全体を通じ、シャープな輪郭にしてスケールの大きい起伏をもった表現が繰り広げられ、すっかり魅了された。

とりわけ前半2曲の充実度は高く、バッハの底光りする美感や引き締まったフォーム、ストラヴィンスキーのパリッとした運び、地中海風のカラフルさのうちにツンと苦み走った味を交える巧みさが光った。

「日本ヴァイオリン界の顔」になりうる逸材として更なる躍進が楽しみだし、アルバムのリリースも期待。

ピアノの阪田知樹に関しては以前取り上げたのでそちらを御覧頂きたい。

動きは明晰、しかも音同士の繋がりが流麗で玄妙な色彩変化を醸し出すピアノがリサイタルの内容充実に大きく貢献した。

若き才能による周到なプログラム

今回はプログラム構成が実に練られていた。

バッハの無伴奏で始まり、ストラヴィンスキーがイタリアのバロック音楽から着想した新古典主義の作品で前半をしめる。

後半は武満徹の瀧口修造の詩作「妖精の距離」に着想を得たドビュッシーとメシアンの影響がはっきりうかがえる作品で幕開け。
続いてピアノ・ソロで阪田知樹の十八番、リストの巡礼の年第2年「イタリア」から2曲。いずれもペトラルカのソネット(14行定型詩)に付曲した歌曲をもとに作られた小品。

終盤はまず演奏機会の少ないクルターグの作品。筆者がこの作曲家の音楽を生で聴いたのは人生で二度目。一度目は新野見卓也の弾いたピアノ作品だった。
尖鋭的楽想と揺らめく動きの交錯する、摑みどころはないが、固有の光を放つ音楽。大陸ヨーロッパでの演奏、録音機会の文字情報に接することが意外とある作曲家。

「本割」ラストはラヴェルのツィガーヌ。いわゆるジプシーのリズムから、情念を奏者に高い運動性能を求める緻密な構築に閉じ込めたラヴェル特有の世界が展開する。

一見すると時代、国ともに様々な選曲だが「インスピレーション」「詩と幻想」「先人の影響」「イタリア」といったワードが浮き沈みし、アンコールを含めてきちんと着地している。

ことさら重いプログラムではないが、しっかりした聴き応えと快い余韻を残す、密度の濃い時間だった。

※文中敬称略※

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