【公演回顧】2024年(令和6年)2月 / 3月 スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」


要約

作品の背景やあらすじは上記リンクの演目案内を御覧頂くとして、今回の公演は紆余曲折の末に行われた。
本来は2020年、四代目市川猿之助制作のシリーズ「スーパー歌舞伎Ⅱ」としてIHIステージアラウンド東京(現存せず)で新演出の「ヤマトタケル」を上演するはずが、感染症禍で中止。
次に会場を慣れ親しんだ新橋演舞場とし、2024年2~3月の予定で新作「スーパー歌舞伎Ⅱ 鬼滅の刃」が企画されるも、総合演出の四代目市川猿之助の不祥事により公演見合わせとなる。
そして2023年9月13日、スーパー歌舞伎を拓いた二代目市川猿翁(三代目市川猿之助)が逝去した。
これらの状況を踏まえ、スーパー歌舞伎の原点である「ヤマトタケル」を取り上げることに落ち着いた。
題名役は二代目猿翁の孫の市川團子と、長年二代目猿翁のもとで舞台を務めた二代目中村錦之助の子息の中村隼人のダブルキャスト。
台本、演出は2012年(平成24年)6月~7月・新橋演舞場公演に沿った初演時に近い構成。
ちなみに現在DVDで観られる1995年(平成7年)収録の公演は、説明的に改訂された台本を使っており、初めて御覧になる方には都合がいい。

20歳を迎えた團子は、途中体調不全で数日間休場(代役隼人)して心配されたが、復帰後は無事完走。その後の巡業もこなしている。
明澄な口跡、繊細で瑞々しい感性が冴えるエッジのきいた身体捌きは、天賦の才と高い集中力の賜物。年齢を重ねて身体が一層ガッシリすれば強靭さも加わり、鬼に金棒だろう。

隼人は堂々たる体躯、舞台映えする骨格の顔立ちによる線の太い芝居で魅せる。幕が進むにつれ、自ら役の人物像を掘り下げていくような雰囲気が面白く、團子よりひと回り大人の役者ぶり。2000年代半ばに向かう歌舞伎界の看板スターとなりえる存在だ。

準主役といえる弟橘姫・兄橘姫の米吉は、知性派らしく考え抜いた器用な演技で心理の複雑さを明快に可視化。現代の観客に分かりやすく、説得力のある表現という面は中堅世代でピカイチだろう。

単なる英雄譚ではなく分かり合えぬ父子の関係に加え、側近の心理、敵役・敗者の美学や思想が多面的に盛り込まれるのが、原案を著した梅原猛の哲学の反映。
従って脇の役者も重要だが、二代目中村錦之助をはじめ中村福之助などおしなべて好演。また帝の市川中車は、一筋縄でいかぬ権力者の心の振り子を巧みに演じた。

1986年2月、母は初演の舞台に接し、筋書を買ってきた。そこに載る役者のメイクは鮮烈で私の頭に刻み込まれた。間もなく保育園でひな人形をこしらえたが、顔を真っ先に浮かんだ歌舞伎調のメイクにしてしまい、当惑した先生から母のもとに電話がいく事態に。
ほろ苦い記憶から約40年、ようやく実見できたのは嬉しく、感慨深かった。

2024年(令和6年)2月15日(木)昼の部

小碓命(ヤマトタケル)/ 大碓命: 市川團子
兄橘姫 / 弟橘姫: 中村米吉
帝: 市川中車
皇后 / 姥神: 市川門之助
タケヒコ: 中村福之助
ヘタルベ: 中村歌之助
熊襲の弟タケル / 尾張の国造: 中村錦之助
帝の使者: 中村隼人

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