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コント『京王特急』

※この物語はフィクションであり、実際の京王電鉄および人物とは一切関係ありません。

(ヘッダー画像出典 https://www.e-sagamihara.com/sightseeing/sightseeing-103/

「父ちゃん父ちゃん京王の特急は早いんでしょ」
「そうらしいな」
「へへっ相模原線内ではね、さいこうじそくが160きろめーとるなんだよ、すごいでしょ」
「へーよく知ってるね」
「えへんあのね京王20000系はブレーキを強くして山道を走れるようにしてあるんだよ」
「あーはいはい」
「カッコいいかな」
「そうだね」

「まだかな」
「信号待ちだろ、もう少し待ちなさい」
「20000系はカッコいいよね」
「うん」
『お待たせいたしました、3番線に特急あおさぎ3号山中湖行きが参ります、黄色い線の内側にお下がりください』
ぷぁん
ぎぎぎーーーーーーーーーーーーー
「絶対カッコいいよね」
「そうだな」

タンタン……ダッガンドドン……
「父ちゃんの嘘つき!ただの通勤電車だ!」
「いや嘘はつい―」
「さっき『絶対カッコいい』って言ったもん!嘘つき!」
「ごめんね、でもほら『あおさぎ』ってヘッドマークを付けてるぞ」
「こんなの特急じゃないやい!やーーーーだーーーーーー!」
「ごめんね」
「ぼくこんな電車に乗りたくない!」
「これから温泉に行くんだぞ。パパが有休をとるために、課長や同僚にどれだけ根回しして取引先に頭を下げたかお前わかっとんのか!」
「知らなーい」
「この若造が」
「だってぼく若いもん」

プシュー……トントントン……キィーーーーーーガコン『しんじゅく~しんじゅく終点です』
「あ、ドアが2つなんだね。ほらすごいじゃないか」
「全然すごくないやい」
「……」
「父ちゃんのばか!」
「ごめんね」
「父ちゃんの嘘つき!ペテン師!」
「すまない」
「父ちゃんのせんみつ!公約を達成しないで『善処したい』と繰り返す無能政治家!」
「たっくんそんな言葉をどこで知ったの?」
「もう帰る帰る帰る!」
「ねぇ道志温泉に泊まるんだから、もう予約してあるからさ」
「やーーーーだーーーーーーやだやだやだ」

「ねえお母さんからも何か言ってよ」
「そうね、たっくんの言う通りだね」
「ええ……」
「私のことをどれだけ大切にしているの?」
「……ごめん、でも一番は君なんだ」
「ならなんでこんなおんぼろ電車に乗せようとするわけ?」
「……でもこれしか走ってないし……」
『特急あおさぎ号山中湖行き、まもなく発車です、お近くの扉よりご乗車ください』
「なんであなたは京王線にロマンスカーを走らせられないの?」
「ええとそれは……今度お客様センターに電話するから……」
「言い訳ばかりの男は最低」
ピルルルルルルルルルルルルルルル『駆け込み乗車はおやめください』
「さよなら」
「待って」
父が飛び乗ろうとした瞬間に、『扉閉まります』プシュー(扉の閉まる音)
むくれる母と平謝りの父。扉のガラス窓を隔てた距離にもかかわらず、想いはこれほどまでに届きにくいものなのか。
ごっプォォォォォォ……ダンダンゴン……ジャンガッコン
あおさぎ号はゆっくりと動いていく。父はホームの端を走って追いつこうとするが、京王新宿駅名物の変な位置にある柱に激突してしまう。父は柱に向かって崩れ落ちてしまう。
母一人を乗せた電車のテールランプは次第に小さくなっていく。

「『こうして、レールのきしむ音とともに父の恋は終わったのだった。』よし、いい撮れ高だ」
「たっくん、盗撮はやめようか。それとそんな言葉をどこで知ったの?」

解説

前回までのあらすじ

京王相模原線は橋本から先、津久井湖を経て中野という地区まで伸ばす計画があり、実際に国から許可を取っていました。そこから先は構想段階にとどまりましたが、山中湖まで延伸する夢も抱いていた、といわれています。ただ、事業に着手した中野までの区間は、地価の上昇や用地買収の難しさにより途中であきらめてしまいました。というわけでメインバンクが京王の熱意に押されるとか、陸軍の多摩火薬工場近くに隠されたM資金の一部をトンネル工事中に見つけてしまうとか、史実からいろいろといじったところがあります。冷静に考えれば火薬の山の近くにそんな貴重品は置かないでしょうと思いますが、そういう突っ込みはなしでお願いします。

でどんな電車が走っている設定なのかというと、こういう感じですね。

京王では、相模中野駅まで開通した際に20000系電車を導入しました。ドアは2か所、入り口付近はロングシートで奥は転換クロスシート(背もたれの向きを変えられる、二人掛けの椅子)という電車です。多摩センターから先の各駅停車として走るほか、普通の通勤電車と繋げて新宿~山中湖間の特急列車として走っている、というつもりです。沿線の皆様からは「古い」「うるさい」「これで指定席料金を取るのか」「小田急を見習え」「座っていると腰が痛くなる」とお褒めの言葉を頂戴しています。最高時速160 kmというのは試運転で出した記録で、普段はそんなに飛ばしません。鉄道ファンの皆様におかれましては物足りないかもしれませんが、あくまで私は電車を舞台にした小説が書きたいのである点ご承知おきください。

しかし京王線のラッシュは激しいですから、そんな時間帯に新宿まで20000系電車を走らせたら乗客から怒られそうな気がするなぁ……


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