見出し画像

異境備忘録的なあれの話③「山行きのバス」

 夢の中であちらとこちらを行き来するとき、わたしはなぜか比較的高い割合で公共交通機関を利用する。もちろん既存のものとは違うはずだが、バスとか電車という概念は固着しているようだ。
 わたしの場合、往路はバスに乗ることが多い。毎回山道を登るバスの中にいる。バスの座席はだいたい埋まっていて、乗客は皆じっとりとうつむいたまま沈黙している。運転席は見えない。わたしは毎回「このまま乗ってるとやべえな」と思い、あわてて降車する。
 舗装されたなだらかな坂道を上っていくバスにいたときは、右手に鬱蒼とした森を、左手には点在する民家らしき建屋や広がる畑をのぞむ位置で降車した。なぜか青い看板のコンビニがあった。ちゃんと駐車場もあった。コンビニを少し過ぎたバス停で降りて引き戻り、コンビニから少し離れた場所にあった広めの道路まで至ったところで目がさめた。
 また、まさに道なき道を走行するバスにいたこともあった。乗客はやはり皆うつむき沈黙している。バスは鬱蒼とした森の中を走っていた。窓の外を流れる樹木、じっとりと湿り重さのある空気。やがてバスの向かう先にあらわれたのは古い石造りの小さなトンネルだった。木の根が這うようにへばりつき、水が伝い滴るような場所だった。「あのトンネルを過ぎたらやべえ」そう思ううちにもバスはトンネルに近付いていく。わたしはベルを乱打して、トンネルのギリギリ入口のあたりで降車した。

 山海というのは死者の魂が向かう先だともされているが、わたし的にはどちらかというと山は黄泉に繋がる場所で海は異界に繋がる場所だというイメージが強い。おそらくは先述したような体験からかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?