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退職後の3週間

退職から3週間が経とうとしている。その間に4冊の小説を読み、2本の映画を観た。一度山にも登った。しばらく食いつないでいくための蓄えはあるので、今すぐに働く必要はないけれど、毎日好きなことばかりするのも案外退屈なものなんだなと思った。本を読んでも映画を観ても山に登っても、どこか手応えを感じないのだ。もしかしたら、忙しい中でやるからこそ趣味は楽しいものでありえたのかもしれない。ケーキを食べすぎたら塩っぱいものを食べたくなるように、好きなことを楽しむためには労働というスパイスがある程度必要なのかもしれない。もちろんバランスが大事だと思うけど。

どれだけ寝坊しても怒られないから、生活リズムはこれでもかというほどに乱れた。昼過ぎに起きるのは当たり前で、ひどいときは15時に目覚める日もあった。起きるのが遅いので夜は寝付けなくなる。寝付けないからまた次の日も遅く起きる。という自堕落ルーティーンが見事に出来上がってしまった。仕事は嫌で仕方がなかったけれど、生活リズムを強制的に整えてくれていたのだなと思う。やっぱり社会とつながりがないとダメになるなあ。

3週間の間に転職活動はほとんどできなかった。一度だけ、本屋で自己分析の本を立ち読みしたけれど、数ページ読み進めたところでうんざりして本を閉じてしまった。「何のために就職をするのか?」という題のページに「就職は自己実現のためにするものです」という趣旨のことが書いてあったからだ。自己実現のために就職する人ももちろん居るだろうけど、そうじゃない人もいるんじゃないのか?「就職=自己実現」と言い切ってしまったら、職を求める人全員が自己実現を目指しているみたいじゃないか。生活のためとか趣味のためとか、人によって働く目的は多様であるはずなのに。まるで「社会ではこういうルールになっているから、つべこべ言わずに従ってください」と言われているような気分だった。その日はもやもやした気分を抱えながら、帰り道を歩いたのを覚えている。


退職後の3週間はこんな風に過ぎていった。小説を読んだり映画を観たり山に登ったり、立ち読みした自己分析の本にケチをつけたりした。学生時代のように、生活リズムも乱れに乱れた。束の間の休息期間を大いに味わったので、そろそろ社会にもどろうかなと思う。手始めに、立ち読みした自己分析の本を買ってこよう。正直あんな本に1600円も払いたくはないけれど、多分、生きていくためにはこういうことも必要なんだと今は思う。

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