病棟急変ただいま対応中!~その場の5分 ~(5)
病棟急変ただいま対応中!~その場の5分 ~(5)
[第5回]院内の転倒~頭部外傷を中心に~
坂本 壮 So Sakamoto
国保旭中央病院 救急救命科
自分が担当する患者の病棟急変に直面した時にどのような対応をとるべきか.病棟急変対応の基本と考え方を,もう一度確認してみよう!
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Dr.SakamotoのOne Point Advice
なぜ受傷したのか?
受傷原因を忘れずに確認しよう!
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症例5
80歳,男性.細菌性肺炎で入院中.夜間,トイレに行こうとしたらしく,ベッド脇で倒れているところを巡回した看護師が発見した.左前額部に血腫を認める.とるべき行動は?
あなたならどうする?
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病棟看護師:ときどき経験しますね.担当の先生へ連絡するように指導されています.
初期研修医:院内の頭部外傷の多くが問題ないですよね.意識がしっかりしていればそのまま様子をみてもらうことが多いと思います.
医師(坂本):vital signsが重要なことはわかるよね.意識障害を認める場合や,ショック徴候があればまずいことはわかると思うけど,皆が言うように確かにほとんどが軽症頭部外傷で外傷的には問題になることが少ない.ただし,重要なことはそこではないね.必ず確認しなければならないことがあるでしょ?
病棟看護師:痛みの部位ですか? 転倒して頭ばかりを気にしていて実は大腿骨が折れていたことを経験したことがあります.
医師(坂本):それも重要だね.外傷患者さんでは必ず痛みの部位をくまなく探さなければならない.大腿骨や胸腰椎も重要だけど,最も重要な箇所は頸椎だね.転倒し頸椎過伸展となった場合には四肢麻痺や命に関わることもあるからね.ほかに確認することは? 何か忘れてないかな?!
初期研修医:なぜ転倒したのか,ですね.
医師(坂本):その通り.外傷は結果でしかないことがほとんどなんだ.失神して頭部外傷,薬の副作用でふらついて頭部外傷など,原因を究明することのほうが重要なことが多いよ.
病棟看護師:とりあえず頭部CTを撮影することが多いと思うのですが…….
初期研修医:院内で撮影できる環境ならば撮りますよね?!
医師(坂本):そんなことないよ.受傷機転がはっきりしていて,vital signsが問題なく,外傷の程度も軽度であれば経過観察することはあるよ.高齢者や抗血栓薬内服中の患者は頭部外傷のときにCTが推奨されてはいるけど,それはあくまで救急外来の話.入院中は経時的な変化をみることができるわけだから,安易になんでも画像検索というのは避けるべきだね.さらに,初回の画像で問題なかったとしてもその後出血を認めることもあるので,そうなるといったい何度画像を撮るんだということになるよね.
病棟看護師:先生によって対応が異なるので私たちとしても悩むことが少なくありません.
医師(坂本):病院ごとに基準を設けることができればいいかもしれないね.重要なことは,① なぜ受傷したのか?(原因検索),② 危険なサインがないか(vital signsの異常,後頸部の圧痛など),をベッドサイドで確認し,高齢者や抗血栓薬内服,その他転倒に関与する薬剤や受傷原因のさらなる精査(失神のリスク評価)を行い,慎重に経過を診ることだ.頭部CTを撮影して何もないことを確認することではない.
病棟看護師・初期研修医:わかりました.受傷原因をきちんと考えて上級医にコンサルトするようにします.
はじめに
病棟から「○○さんが転倒しました」と看護師から連絡を受けることは,研修医なら誰もが経験があるのではないでしょうか.一般病床における転倒・転落発生率は1日1,000床あたり1.5件程度との報告【1】もありますが,高齢者が多い病棟や救急入院患者ではそれ以上に多い印象です.病棟内での転倒は避けたいものですが,どうしても起こり得ます.その際,診るべきpointはどこでしょうか.そして何を評価すべきでしょうか.ここでは,病棟内で転倒し頭部外傷を認めた患者のマネジメントを学びましょう.
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初療者のとるべき⾏動
●vital signsをcheck
最も緊急性に関与するのはいつでもvital signsです.意識,呼吸,血圧,脈拍,体温,酸素化,瞳孔を速やかにcheck し,普段のvital signsと比較しましょう.
●症状の有無をcheck
具体的には,疼痛部位をcheckします.特に後頸部痛の有無は早期に確認する必要があります.
●受傷理由をcheck
なぜ頭部打撲を認めたのかを追求しましょう.つまずいて転んだのか,それとも意識を失ってぶつけたのか,その後の対応が異なります.
目撃者の存在も確認し,受傷時の状況を確認しましょう.
●抗血栓薬の使用の有無をcheck
入院中の患者であれば,内服薬はわかるはずです.アスピリンやワルファリン,DOAC(direct oral anticoagulants:直接経口抗凝固薬)などの抗血栓薬内服中の患者では,外傷に伴う出血のリスクが上昇するため,カルテを確認し把握しておく必要があります.
これらを踏まえ緊急性の判断を自身で行い対応しましょう.「○○さんが転倒して頭をぶつけました」と上級医に相談しても,「だから?」って感じです.
ⒸiStockphoto.com/John Sommer
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