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カルビーで商品開発をする34歳@広島【後編】漫画と遊びから自分の世界が広がる

 カルビー(東京)が創業地の広島市に構える開発拠点「カルビーフューチャーラボ」で働く樋口謹行のりゆきさん(34)のマイルール。後編は、プライベートの過ごし方についても聞いています。(聞き手・栾暁雨、写真・山田太一)

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―オフィスの壁の棚にはコミック本も並んでいますね。よく読むんですか。

 漫画って、知らない世界を楽しく学べるツールだと思うんです。最近のお気に入りは「ブルーピリオド」という美術漫画で、主人公たちがアートに向き合う葛藤を描いている。創作活動って「正解」がないところが、今の仕事と似ているような気がします。

 胸に刺さる名言も多いんです。スマホにメモして、たまに見返しては励みにしています。特に好きなのは「後悔はないですよ、反省は死ぬほどあるけど」「好きなことをやるって、いつでも楽しいって意味じゃないよ」というせりふ。

 共感しかないです。僕も仕事で「後悔はない」くらい頑張りたいし、好きなこともスキルを磨こうとするほど壁にぶつかる瞬間がある。仕事や人生哲学に通じる部分があって、深いんですよ。

―ちなみに、ドラえもんの「ひみつ道具大辞典」は何に使うんですか。

 アイデアの参考にしたいなと思って置いています。ドラえもんが四次元ポケットから出すのって、多くがのび太のピンチを助けるための道具。だからこそ実際に「あったらいいな」「絶対売れそう」というのが多くて。僕自身、欲しいものがたくさんあって、消費者のニーズを満たすヒントがある気がするんです。

 カルビーって基本的にすごく真面目な会社なんですよ。品質に徹底的にこだわり、顧客に誠実に向き合う。その社風は大好きなんですが、ラボの仕事は真面目なだけじゃダメで。ユニークでインパクトのあるものを生み出すには、突き抜けた発想や遊び心が要る。僕らも漫画のように「真剣に楽しむ」ことができたらいいなと思っています。

―子どもと遊ぶ時間を大切にするのもその一環ですか?

 4歳と2歳の娘と過ごしていると、予想外の行動に出合って刺激を受けることが結構あります。

 この前も下の娘が、自分の靴をほっぺたにスリスリしてて。「汚いよー、やめてー」と青ざめたんですが、靴の感触が気になって自分で確かめてみたかったんでしょうね。好奇心の塊で本能のままに動く。

 お絵かきや塗り絵の色使いも自由なんです。葉っぱの色は紫やピンクだし、真っ黒の上にもガシガシ色を重ねる。大人はつい「葉っぱは緑」「濃い色×色は邪道」となるけど、子どもはそう思っていない。僕は仕事で自由な発想を求められても、常識や先入観から抜け出せていないのに、何だかうらやましいですよね。

 そういえば、さっき話した「ブルーピリオド」でも、「自分らしくないものに触れないと世界が広がらない」という言葉があって。似た環境の人と仕事をすると共通理解があって楽なんですが、驚きも気付きも少ない。子どもってある種、近くにいる遠い世界の住人。世界を広げてくれる存在なんでしょうね。

―最近は、週末の「ひとり温泉」が楽しみとか。

 家の近所にあるスーパー銭湯の露天風呂が好きなんです。空が見えて空気がきれい。自然に身を置くと自分って小さい存在だな、悩みも大したことないなって思える。日光を浴びるとセロトニンが分泌され、精神の安定や頭の回転をよくする作用もあると聞いたので、それも期待して。

 もんもんと悩んでもいいアイデアは浮かばない。最近ようやく、頭の中の「余白」を作ることが大切だと考えるようになりました。

―カルビーは有名なロングセラー商品がたくさんあるのに、どうして貪欲に挑戦を続けるのでしょう。

 危機感があるからだと思います。これまでは「かっぱえびせん」(1964年)「ポテトチップス」(75年)「フルグラ」(91年)「じゃがりこ」(95年)「じゃがビー」(2006年)と、ほぼ10年周期でヒット商品に恵まれてきました。でも、最近はそうした商品が出ていない。

 今はヒットを生むのが難しい時代と言われます。情報があふれ、消費者の好みも価値観も多様化している。目まぐるしく変わるニーズを捉えないと生き残れません。

 とはいえ、新商品を発売して終わりでもない。「0から1」を生むのと同じくらい、「1を10、100にする」のは難しいんです。売れるもの、愛され続けるものに育てていかないといけません。商品の質をどうやって高め続けるか、魅力を多くの人にどう伝えるか、いつも苦悩しています。そこがやりがいでもあるのですが。

 本気で取り組むほど、仕事って苦しいことの方が多い。でも職場の一体感や、少しずつ成長している自分に出合えるのは喜びです。あと、やっぱり僕は食べ物が好きなんですよね。食に求めるものって人によって違う。空腹を満たす人、栄養を取りたい人、食べて気分転換する人…。開発のストーリーに魅力を感じる人もいる。機能的だけじゃない、情緒的な価値があるのが面白いんです。

―樋口さんは出身地も大学も広島県外ですが、広島はどんな印象ですか。

 住み始めて8年、すごく気に入っています。コンパクトな街で暮らしやすいし、海も島も近い。地域との距離が近くて密な関係を築けるのも魅力です。

 それに、広島ってカルビーにとっては特別な場所で、愛着を持ってくれている人たちが多い。だからこそサポーターもたくさん集まってくれるし、地元企業の協力も得られる。注目され、応援してもらえるのはとても幸せなことです。

 ラボは東京の本社とある程度切り離した「出島」のような組織だからこそ、小回りがきくし独自性もある。東京にあったら、数年でここまでの取り組みはできなかったでしょう。コロナ禍以降、地方の良さがよりクローズアップされたのはいい流れです。新しい風は東京からだけ吹くわけじゃない。今後も創業地・広島とともに歩んでいきたいです。


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