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進学や恋愛の自由奪われる「宗教虐待」。旧統一教会だけじゃない2世の苦悩

 安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに注目が集まる「宗教2世」。旧統一教会のほかの新興宗教でも、問題が広がっている。親から信仰を強制された上、進学や恋愛の自由を奪われ、心身の苦痛を強いられるケースもある。中国地方の2世たちは「宗教虐待に苦しんでいるのは旧統一教会の信者の家族だけじゃない」と訴える。(栾暁雨)

有名国立大への入学許されず

 中国地方の20代女性は、親と縁を切って1年になる。キリスト教系の新興宗教に狂信的な親と過ごすのは、もう限界だった。高校生の頃からリストカットがやめられなくなった。女性は言う。「自分が壊れていくのが怖かったんです」

 終末論を信じる両親から「大学での勉強など意味がない」と言われて育った。進学校に通い、首都圏の国立大にも合格したのに入学を許されなかった。受験が認められたのは「泊を付ける」ため。「合格したのに有名大を蹴った」というのが親の自慢だった。同級生には「大学に行くお金がないから」とうそをついた。

 理不尽だという気持ちにふたをして「教えに従うことが幸せ」と自分に言い聞かせてきた。そうしないと心のバランスを保てなかった。

 「親の機嫌を損ねないよう、我慢ばかりの毎日でした」と、女性は悲しそうに話す。物心ついた頃から、親に連れられて集会へ。難しい聖書の教えはわけの分からない呪文のようだった。途中で寝たり話を聞いていなかったりすると、むち棒でお尻を打たれる。家でも同じ注意を3回されると、むちが飛んだ。泣いたら余計に怒られる。歯を食いしばって耐えるしかなかった。

校歌も部活もクリスマスも禁止

 学校生活も窮屈だった。偶像崇拝が禁じられ、国歌や校歌は歌わなかった。クリスマスも祝えない。いつも信者以外の子どもとは遊べず、友達もわずか。やがて訪れる「世界の終わり」に備えて信仰に集中するよう言われ、部活や委員会への参加も許されなかった。

 なにか、おかしい。違和感を抱くようになったのは小学生の頃からだ。父は集会では家族愛を説くのに、家では不機嫌になると家族を無視したり食事を捨てたり。それってモラハラ(精神的な嫌がらせ)だ、とうんざりした。布教活動のために仕事の時間を削る父は収入が少なく、お金の話でけんかが絶えない両親を見るのも苦しかった。

リストカットを繰り返し現実逃避

 その悩みを、誰にも悩みを吐き出せなかった。入信している親族が多かったし、同級生にも話せない。宗教に支配された家のことが恥ずかしく、偏見の目が怖かった。現実逃避できるのは自分の部屋でリストカットをする時だけ。腕ににじむ血が、やり場のない苦しみを可視化してくれる気がした。

 高校卒業後は家庭教師のアルバイトをして、それ以外の時間は布教活動に費やす日々。しかし、今度は体も拒絶反応を示し始めた。数年前からは集会のことを考えると頭が痛くて吐きそうになった。親との壮絶なけんかの末に脱会した。

 家族とは音信不通だが後悔はない。人生を縛っていた信仰から逃れ、就職もした。「失った時間を取り戻したい。人権がなかった過去を捨てて、生き直せています」。そう話す一方で、人間関係への自信は持てずにいる。「世の中とは一線を引いて付き合え」と教えられ、他人との距離の取り方が分からない。

 安倍元首相を銃撃した容疑者が同じ宗教2世と知って動揺したという。最悪な方向に向かったなと感じた一方で、ようやく光が当たったとも思った。「差し出したのがお金だけなら戻ってくる可能性もある。でも私たちは行動や選択の自由を奪われ、人生そのものを搾取されました」

信者以外との交際・結婚は「罪」

 あの銃撃事件の後、テレビでは旧統一教会の合同結婚式などが繰り返し映し出された。「私と、同じだな」。中国地方の30代女性は冷めた目でニュースを眺めた。

 旧統一教会とは別の新興宗教に入信している母親の意向で、30代の男性信者と結婚させられそうになったのは、まだ高校生の頃だった。きっかけは信者ではない彼氏ができたこと。教義では恋愛や婚前交渉など性的な行為は禁止、信者以外との交際や結婚は「罪」とされている。母から携帯電話を取り上げられ、別れさせられた。

ストーカーのように監視する母

 その後、別の彼氏と交際しているのを知った母は激怒。「これ以上罪を重ねないように」と、一方的に見合い話を持ちかけられた。彼氏と別れた振りをしてやり過ごしたが、高校卒業後も母の支配は続いた。門限は午後6時半。娘に男性の影を感じるたび、ヒステリックに怒鳴る。財布の中身をチェックされ、部屋も荒らされた。外出しても後を付いてくる。

 ストーカーのような執拗な言動に追い詰められた。ストレス性の頭痛とぼうこう炎を発症したが、健康保険証は母が管理し、血尿が出ても病院に行かせてもらえない。ようやく受診して事情を話すと、医師は間を置かず「虐待です」と一言。やっぱりそうなのかと現実を突き付けられた気がした。

 母との決別を決意し、家を出た。「宗教って何なんでしょう。人を幸せにするために存在するはずなのに、全然幸せじゃありませんでした」