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どれだけ行きたい方向があっても風に乗らなければその場所に向かうことはできないという話

フランス生活にもだいたい慣れて友だちもでき、なおかつ仕事もある程度落ち着き始め、ふと「新しいことを全然していないな」「なんだかルーティンだな」と感じるようになったので、がつんと壁を破るようなことを実践してみようと申し込んだウィンドサーフィンのスタージュ(集中レッスン)。

ウィンドサーフィンはフランス語ではPlanche à Voile という。帆のあるボード、という意味だ。日本だと湘南とか逗子・鵠沼あたりで見かけることが多い、帆を立て風の力を使って水面を走るスポーツである。

Windsurfing photo by Robert Stump

それとは別にいまフランスで流行っているのはWing Foil ウィングフォイル。風の翼を持って、フィンのついたボードに乗るスポーツ。これは初めて見たときボードの下に突っ張っている棒があるし、帆ではない羽根が動力になっているというのも仕組みが難しくかつレベルが高すぎて意味がわからなかった…。

Wing Foil(ウィングフォイル)photo by Lucie Dorne
今日話したいのはこれじゃなくてWindsurfing。

海のスポーツでいうと、SUP(スタンドアップパドル)は去年友人と一緒にやってみた。実際昔からずっと実践したかったのがSUPで、でもやってみると意外とボードの上で直立する際並行を保つのが難しいし、かつオールで漕ぐとしても相当風に流されるんだなというのも学んだのだった。SUPは水の上で孤独を感じるには、ちょうどいいかもしれない。ゆるゆると流れていくし水の上の時間をたっぷり味わえる。だからSUPヨガなんてものもあるのだろう。

そして今年試してみたのが、ウィンドサーフィン。

今回体験して、身体的にも精神的にも学ぶ点がたくさんあった。SUPよりも好きだし自分に合っているなという実感もあった。なによりも「どれだけいきたい方向があっても風に乗らなければ向かうことはできない」と感じれるのがよかった。風がなければ前にも後ろにも進まない、こう言葉として書いていて一般論として頭で理解するのではなく、身体で知るのだ。風がなければどれだけ自分が頑張って足掻いても、まったく進まない。その無力感たるや…といいたくなるが、どこかで、ふと風は必ず吹く。

もちろん強風で知らない、遠くの沖へ流されてしまう不安もあるし、それでも集中レッスン中は遠くまで行ったら行ったで先生にモーター付きの船で捕まえに来てもらって(付近にいたレッスン参加者もまとめて捕まえられる)、船のお尻に繋がった紐を頼りにしながらボードの上で座り、ウェイクボードさながら複数人まとめて元の浜辺に戻される様は、まるでアヒルのこどもが親に引き戻されているかのようで可愛げがある。そんなことまで、楽しめてしまう。

想像以上に、遠くまで行ける。海や湖の流れだけではなく、風の力も含むから。でも元の場所に戻るにはある程度技術が必要。風に乗り、風を読まなければならない。そして正しい方向に帆を立てなければならない。

何十回ボードから水の中に落ちても、何度でも乗り上がって風をつかみたい。それに風に乗れた瞬間、信じられないくらいに速度を上げて前へ進む。ぐんぐんと、アクセルを踏まずとも風がわたしを前進させる。

最高だ。自然とひとつになれる。
まるで重力から解き放たれた自由な感覚。

今は散々「風の時代」なんて言われるけれど、風というのは目に見えないし、実態があるのかないのか掴み取れない分不思議なものだなと思う。味方にするにも敵にするにも自分がその風を理解していなければ、向かうべき方向へたどり着かない。さらに帆を立てるには真上に力付くで引き上げようとするのではなく、風を切るようにあげるのが大切で。
ウィンドサーフィンひとつひとつの動作をどのように体得するかもこれもまた、面白い。頭で入れた知識と身体で動かす現実は、やっぱり違う。

次のスタージュの日がいつも楽しみでたまらない。こんなにも毎日、わくわくできるような趣味を見つけられると思わなかった。

いつまで経っても、楽しいこと面白いことをやっていきたい。いつだって始めたいと思うことに制限をかけず、自身の限界を決めつけず、新しい世界を感じていきたいね。

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