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「ペンギン」 4年 田尻優海

「ペンギン」
4年 法学部 田尻優海


「ピピ―ッ」ホイッスルが鳴った。
10/15(日)、Iリーグ最終節の試合終了の笛。私はグラウンドから空を見上げてほっと息を吐く。
安堵の気持ちと同時にこれから始まる様々なことへのワクワクも感じていた。時間ができたらやりたいことはたくさんあった。何をしようか考えている時間がとても幸せだった。

私は良くも悪くも過去を気にしない。過ぎ去ったことにとらわれるくらいなら未来のことを考える。これが私のポリシーである。そのため、振り返りなんてほとんどしてこなかったがこの機会に少しだけ振り返りたい。

サッカーは小学1年生の時に始めた。なぜ始めたかはよく覚えていない。お父さんがやっていたわけでも、兄貴がいるわけでもない。ただ、放課後は毎日近くの公園に行って、友だちとボールを蹴っていた。無邪気にボールを追っかけまわしていたあの頃は、幸せだった。何も気にすることなく泥だらけになり、上手くなることだけを考えてボールを蹴り続けた。感情も豊かだった。ゴールを決めては喜びながら公園中を走り回る。そして、試合に負けて泣き、こけて怪我をして泣き、喧嘩をしては泣いていた。

 そんなこんなで大学4年生になり、小学校1年生から始めたサッカーが16年間の月日を経て終わった。生まれてから現在までのほとんどの時間をサッカーに費やし、嬉しいことも、悲しいこともほぼサッカーで味わった感情だった。友達もサッカーを通して出会った人たちばかりで、サッカーがなければ今の私はいない。

だが、最終節が終わっても悲しくはなかった。新しい一歩を踏み出せることへのワクワクの方が大きかった。

「冷めている」
最近、友達から言われるし、自分でも思うことだ。心の底から熱くなるようなことが無い。私は、淡々と人生を送って来てしまったのか。なぜだ。試合終了の笛でも特に感情はなかった。

試合が終わり、使い慣れたシャワー室でシャワーを浴びる前にふとスマホを開く。お母さんからのLINEが来ていた。最終節、ベンチスタートとなった私は「出るかわからない」と伝えていたが、片道1時間かけて見に来てくれていた。

そんなお母さんからのLINE

「今まで楽しませてくれてありがとう」

目頭が熱くなった。なぜだ。何を楽しませることができたのか。シャワーを浴びながら思い返す。
お母さんには迷惑しかかけていない。遠い試合も毎回見に来てくれ、泥だらけのユニフォームを洗ってくれ、朝早い時は車で送ってくれたし、ご飯は栄養を考えて作ってくれていた。おにぎりなんてこれまで何個握ってくれたことだろうか。最近もスパイクを忘れて遠くまで届けてもらったこともある。こんなにも16年間迷惑しかかけてこなかったのに、楽しませることができた理由は一つしかない。私が真剣にサッカーに向き合い、前を向き続けたからだ。後ろには歩けないペンギンのように。

もし、私がサッカー部に入っていなかったら、家で寝続けていたら、セレクションに行かずに遊んでばっかりいたら、私はお母さんを楽しませることが出来ていたのか。たぶんできていなかった。何事にも挑戦しない私を誰が見たいだろうか。

私はこのLINEをみて改めて感じたことが一つある。

「誰かを幸せにするために今日も前を向く」

◇田尻優海(たじりゆう)◇
学年:4年
ポジション:MF
前所属:中央大学附属横浜高校

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