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「風通しの良い組織」をつくる

「風通しの良い組織」という考え方があります。最近では「心理的安全性」という言葉が流行していますが、日本では昔から「風通しの良い組織」という言い方で心理的安全性に近い考え方をしていました。

コンプライアンス的な観点から、また社員の離職防止の観点から「風通しの良い組織」を組織目標として掲げる会社も増えています。

今回は、心理的安全性にも通じる「風通しの良い組織」について、コンサルタントとして企業のプロジェクトを支援してきた立場から解説したいと思います。



風通しの良い組織とは

一般的に「風通しの良い」あるいは「風通しが良い」というのは、「建物の中に外から新鮮な風が入ってきて、建物を通り抜けていく様子」を意味します。つまり、風を遮るものがない状態のことです。

そこから転じて、「風通しの良い組織」とは「組織の中で意見が言いやすい状態」、「発言の障害がない状態」を表すようになりました。

「心理的安全性」も似たような概念で、「組織の中でアイデアを言ったり質問をしたりしたときに、リーダーや他のメンバーから攻撃を受けたりバカにされたりしない状態」、「発言に際して心理的な壁のない状態」のことを言います。

要するに、いろいろな人がいろいろな意見を言い合える組織を「風通しの良い組織」と言います。

そのような組織を実現しようとしたら、何に注意すれば良いのでしょうか。

注意点1:風は一方向からだけ吹けばいいわけではない

(1)何も言わないからと言って意見がないわけではない

会議や意見交換の場で何も発言しない人がいます。こういう人は2つのタイプに分かれます。

タイプ① 「言うべき意見がない人」
タイプ② 「意見はあるけど言わない人」

タイプ①の「言うべき意見がない人」は、特に発言する必要はないですし、無理に発言をさせる必要もないと思います。むしろ、リーダーはこのタイプ①のメンバーについては、「もっと発言できるよう、テーマに対して自分なりに関心を持って、ちゃんと勉強するように」と指導すべきでしょう。

問題はタイプ②の「意見はあるけど言わない人」です。

このタイプ②の人が意見を言えるようになることが「風通しの良い組織」の実現には重要になります。

とは言っても、話したがらない人の口を開かせるのは至難の業です。

コンサルタントとして企業のプロジェクトと支援するとき、プロジェクト・リーダーのサポート役を務めることが多いですが、会議が停滞しているときには私からメンバーに向けて個別に質問を投げかけるようにしています。

「意見がないなら『意見は特にない』と言っていただいてかまいません」と断った上で、個別に名指しして発言してもらいます。

そうすると、「何か意見はないですか?」と投げかけたときには発言する素振りも見せなかった参加者が結構たくさん話してくれます。つまり、言いたいこと(意見)はあったのです。

「何か意見はないですか?」という投げかけは、発言する前に「手を上げて発言許可を求める」という一手間が必要になりますが、その一手間が「風通しを悪くする障壁」になるのです。

ですので、この障壁を取り除いてあげれば、意見が出やすくなり、風通しが良くなります。

普段発言をしない人が発言するだけで、組織の中にいろいろな方向から風が吹き、思わぬ発見(新鮮な気づき)が得られることが期待できます。

(2)声の大きな人の声がさらに大きくならないように

どこの職場にも立場や役職に関係なく、声の大きな人というのはいます。

「組織の風通しを良くしたら、声の大きな人の声がさらに大きくなった」というのでは困ります。

会議の時間も参加者の集中力も有限です。

その有限の時間と集中力を少数の「声の大きな人」のために使ってしまうということは、結果として他のメンバーの発言機会が失われることにつながりかねません。

「情報量も、知力も、経験も豊富で、多くの場合この人の言っていることは正しい」という「できる人」は社内に一定数います。

しかし、どんなに優れた人でも「常に正しい」ということはあり得ないですし、「その人の意見以外は聴く価値がない」ということもありません。特に現在はVUCAと言われる先行き不透明な時代です。そのような時代において多様な意見を出し合うことは、組織にとって大きな価値があります。

もちろん、意見を出したから全てが受け入れてもらえると考えるのは間違いです。そこは、「言えば何でも意見が通ると思わないように」と釘を刺しておく必要があります。同時に、「多様な意見が出てくることで、アイデアをブラッシュアップしやすくなる」ということも伝えて、より多くのメンバーの発言を促すようにします。

「声の大きな人」というのは、実際に声のボリュームが大きいということではなく(そういう人も多いですが)、「自分の話を滔々と述べて、それを他人に聞かせることに快感を感じる人」という意味です。

そういう人は、声の大きさ(主張の強さ)の割りに自分の言ったことに責任を持たず、話の流れが変わると自分の意見の簡単に変えて、とにかく「自分が主張している状態」を維持しようとする習性があります。

自分が口にした意見には責任を持って、他の意見との調和・調整を図りながら、より良いアイデアに育てていくという意識のない人が「もっともらしいこと」を強い口調で主張したときには、それを受け止めるリーダーは主張の強さに押されることなく、冷静に受け止め、判断が難しい場合には「一旦、態度保留」という手を使っても良いでしょう。

声の大きな人が言いたいことをまくし立てて「その場の思いつきのような主張」を押し通すようなことが続くと、他のメンバーが白けてしまって、かえって風通しの悪い組織になってしまいます。

そのようなことが起こらないよう、リーダーは気をつける必要があります。

注意点2:吹いてほしくない風もある

「自由に意見を出し合う」と言っても、不適切な発言や意見というものはあります。

「有害な意見・発言」と言ってもいいと思います。

「有害な意見・発言」の定義は難しいですが、以下のような性質を持っている意見や発言は有害だと見なせるでしょう。

有害な意見・発言①
言いたい意見そのものが他人への攻撃になっている意見・発言
あるいは、他人への攻撃を前提としている意見・発言
揚げ足取りを目的とした発言というのも、これに含まれます)

有害な意見・発言②
自己防衛のための意見・発言
自分の過去の失敗や発言の間違いをごまかそうとしている意見・発言

有害な意見・発言③
ご都合主義で(何の説明もなく)路線変更するような意見・発言

(上記の「自分の過去の失敗や発言の間違いをごまかそうとしている発言」と似ていますが、外部環境等が変わって自分の過去の提案が有効でなくなりそうなときに、何の説明もなく(あたかも、前の発言などなかったように)新しい意見を言うようなことを指します)

有害な意見・発言④
単なる自己主張・自己顕示のための意見・発言
(「わざわざそんなことを言わなくてもいいのに」という発言をする人がいますが、こういう発言の背後には、良い意見を出すという動機とは別の「自己主張・自己顕示」があると考えられますので注意が必要でしょう)

注意点3:リーダーもメンバーも公明正大であること

公明正大であるとは「オープンな関係、オープンなコミュニケーションを大切にする」ということです。

これはリーダーの正統性、権威、影響力に関わる重大な問題です。

(1)なるべく、関係者全員を集めて話し合う

オープンな関係、オープンなコミュニケーションを実践するには、関係者を集めて全員で話し合う場を多く設ける必要があります。

とにかく全員集めてしまうのが一番手っ取り早く、そして多くの場合、最良の方法です。日程調整など多少の非効率や煩わしさはありますが、「あの人たちは私たちの知らないところで勝手に決めている」と思われるよりは害が少ないといえます。

もちろん、こういうことはケースバイケースです。たとえば、スピード感が優先される場合には、「今回のタスクは急ぐので、これまでにみなさんから出された意見をリーダーの自分が検討して、決定した内容については○○さんを中心に進めることにします」と宣言して、その通りに進める方式もあると思います。

ただ、そういう宣言なしに「意見だけ出させて、あとはメンバーの知らないところで限られた人たちだけで決めている」と思われるのは、リーダーの影響力を弱めることになるので注意が必要です。

一方で、リーダー自身が全員に対して示すべき全体像を描けていないからメンバー全員に向けて話ができないという場合もあります。

これはこれで問題で、全体像を描けていないということは、メンバーへの指示が都度都度の個別指示にならざるを得ません。当然、やるべき作業について担当者と個々に話をして指示を出さなければいけなくなります。

それによって、各メンバーが思い思いに全体像を想像して、その中で勝手に自分の役割を限定したり、やるべき仕事を「これは、あそこの部署がやること」と決めつけてしまったりします。

こうなってくると、責任を放棄するメンバーや指示があるまでは動かないという「指示待ち」のメンバーが現れます。そうでない場合でも、指示がない以上、メンバーは何か適当なことを時間つぶしにやるしかなくなります。

これを防止するためにも、リーダーはなるべく早い段階で全体像を示す必要がありますが、リーダー自身もプロジェクトの全体像がわからないということも場合によってはあると思います。

そのような場合は、最低でも「最後にはこういうものを完成させたい」、「こういう状態に持っていきたい」という、プロジェクトの最終形を示すと良いでしょう。

最終形が示されれば、そこに到達するための道筋(ストーリー)もメンバー全員で考えることができますし、リーダーが示した最終形自体について「もっと、こういう形の方がいいんじゃないか」ということを話し合うこともできます。

自分の思い描く最終形を示した上で、メンバーに対して「その最終形を実現するために、あなたたちはどんな貢献ができるのか」と問うことがリーダーの重要な仕事になります。

(2)何の宣言も合意もなしに、特定の人を優遇しない

特定の人を優遇しないというのは「えこひいきしない」と言い換えることもできます。

私は、多少の「えこひいき」はあってもいいと思っています。

たとえば、「直属の部下で多数のプロジェクトを一緒にやってきたから、彼のことは特別に信用している」という部下がいることは、リーダーとして好ましいことですし、そのような関係を部下と築けることはリーダーの資質として重視されるべきことだと思います。

あるいは、「彼はこの分野での経験が豊富なので、納期が短いということもあるし、今回は彼の意見を中心に作業を進める」と宣言することはあっていいと思います。ただ、そのような状況でも、経験の少ない他のメンバーは、補足的な意見や実行における懸念事項を確認するなど、側面的な貢献ができます。

大事なことは、特定の人の意見を特別に重視したり、特定の人を優遇することが組織メンバーの合意・納得を得られるか、ということです。

「苦楽を共にした上司と部下」、「その分野で経験豊富なベテラン」ということが組織内・チーム内で共通理解として合意されていれば問題はないでしょうし、共通認識がないのであれば、リーダーがきちんと説明して他のメンバーの合意を取ればいいのです。

そうすれば、それはリーダーが勝手に決めたことではなく、みんなで合意したことになります。

ただし、そのような場合でも、限定的なメンバーで話し合った内容は他のメンバーに公開されるべきですし(機密事項等で公開できない場合はその限りではありません)、他のメンバーの発言の機会は常に確保されているべきでしょう。

それを怠ると、他のメンバーは「自分たちは蚊帳の外に置かれた」と感じ、疎外感や不満を抱くことでプロジェクトから心が離れてしまいます。心が離れたプロジェクトについて積極的に意見を言おうという人はいません。
(極度に責任感の強い人は、それでも「メンバーとして意見を言わなければ」と思って発言してくれるかもしれませんが)

こういう状態が続くと、積極的な発言が減ってしまい、組織の風通しは悪くなります。

議題に関する知識が不足していて意見が言いにくいというメンバーについては、きちんと勉強することを要求して、意見が言えるようになることを成長課題としてリーダーとメンバーの間で合意すると良いでしょう。
(リーダーとメンバーが上司・部下関係でない場合には、メンバーの直属上司に相談して育成課題を考えてもらう必要があります)

まとめ

以上、「風通しの良い組織」を実現するためのポイントをコンサルタントとしての経験に基づいて解説してきました。

早くに成果を出したい気持ちはわかります。

最も良さそうな意見、インパクトのある意見に飛びつきたい気持ちもわかります。

しかし、多くの関係者を巻き込みながら進めるプロジェクトでは、直接のメンバーは当然のこと、そのプロジェクトが実際に実行された場合に影響を受ける関係者の納得感が重要になります。

よく「巻き込み」ということが言われますが、関係者を巻き込むためには、

①アイデア自体の筋が良いこと(成功しそうな予感があること、あるいは努力してみる価値を感じられること)
②関係者全員がちゃんとメリットを感じられること
③特定の人(リーダーや声の大きな人)の意見の押しつけでないこと
④各人の意見を尊重すること(③の裏返し)
⑤公明正大であること(きちんと説明責任を果たすこと)

ということが必要になります。

これらをどれだけ注意深く行うべきかは、プロジェクト・リーダーとプロジェクト・メンバーとの関係性、プロジェクト・チームとプロジェクトの外部の関係者との関係性に依存します。

お互いに理解し合っている、「持ちつ持たれつ」だと思っている、互いの役割と能力について合意している、お互いを信頼している、ということであれば、くどくどと細かな説明をする必要はないのかもしれません。

しかし、そのような関係が構築されていない場合、プロジェクトの正統性、プロジェクト・チームの正統性、そしてプロジェクト・リーダーの正統性を確保し、影響力を行使するために、リーダーからメンバーおよび関係者への働きかけが重要な意味を持つようになります。

こうしたリーダーの苦労の上に、メンバー各人がその立場にふさわしい責任感を持って発言することが常態化すれば、そして自分の発言に責任を持てるようメンバー全員が学習を怠らなければ、その組織は(各人が勝手に言いたいことを言い合うのではなく)本当の意味で「風通しの良い組織」となるでしょう。


(執筆者:中産連 主任コンサルタント 橋本)
民間のシンクタンクおよび技術マネジメント系のブティックファームを経て現職。現在は、中堅・中小企業における経営方針の策定と現場への浸透の観点から、コンサルティングや人材育成を行っています。


今回の記事に関連して、中部産業連盟では企業のプロジェクト・マネジメント支援、新規事業開発などのプロジェクト活動の推進支援を行っています。これらの支援にご興味のある方は以下の連絡先までお問い合わせ下さい。

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