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朝倉未来の美しき物語


11月19日、FIGHT CLUBという格闘技イベントでキックボクシングルール、朝倉未来vsYA-MANの試合が行われた。
朝倉未来は言わずもがな人気選手。
下馬評ではその人気からか、彼の勝利が囁かれていた。
しかし、実際はそうでなかった。
彼は1ラウンドでKOされてしまったのだ。
YA-MANの右フックに、頭から崩れ落ちる朝倉未来。
これほど鮮やかに試合が終わることなど誰も想像していなかった。

振り返ると、彼の物語は長かった。
RizinデビューとYoutubeの配信。
この二つを武器に彼は億万長者へとのし上がった。
なんといっても彼の魅力は、その攻撃的な爆発力と繊細な分析力。
全く正反対の性質、二律背反、アンチノミー。
相手のクセを見抜き、そこに一撃の左ハイキックを合わせる。
羊たちの沈黙のレクター博士やバットマンのジョーカーを彷彿とさせるような性格の二面性には、私たちをその渦の中に吸い込んでしまうような魅力があった。
しかし、ここ数日の彼の姿には、もうそんな魅力などなくなってしまった。
というのも、Youtuberとしての生活が彼を侵し始めたのだ。
彼の分析力は、格闘家としての彼にではなく、Youtuberとしての彼に傾き始めた。
Youtubeと格闘家の間に浮かぶ存在。
彼への批判はそうして集まっていった。
Youtubeの影響か、ここ最近の試合も敗北が多く、斎藤裕、(メイウェザー)、クレベル、ケラモフと負けが重なっていった。
もちろん相手も強い選手であるのには間違いないが、彼が少しずつ格闘技からフェードアウトしていく姿に私を含め寂しい気持ちになったファンも多いだろう。
私は彼のデビュー時から引き込まれてそれ以降ずっと応援してきたのだが、彼の魅力が日に日にすり減っていくのが感じられた。

そして、積み重なった末のYA-MANによる敗北。
最期に乗せられた敗北のドミノは、彼の格闘家人生を根本から崩れさせてしまったのかもしれない。
リングを後にする彼の姿は、全てを悟ったように、そして、どこか淡々としていた。
しかし、事態は急変する。
試合後恒例の彼の動画撮影。
いつもの豪勢な彼の家で動画は回されたのだが、しかし、そこにはまるで完全変態したような別人のような姿があった。
彼は試合の後遺症として記憶喪失に陥っていたのだ。
動画で彼はこんなふうに話している。
「自分が何者かもあんま分かってない」
「ケータイでいろいろ調べていくうちに、朝倉未来がこういう人物なんだなということがちょっとだんだん分かってきて、、、」
ケータイという言葉の古さは彼の記憶喪失を物語っているのかもしれない。
記憶を飛ばした彼が、自分自身を第三者の視点で振り返りながら動画は進行する。
そして彼の口から飛び出したのは次の言葉だった。
「まあ、客観的にみて引退ですね」
「要するに、今、記憶がないからさ、いつもの自分じゃなくて、客観的に朝倉未来という人物を見たわけ、結構生意気なやつなんだよ、けど、まあ終わりですね、格闘家として、、、寝技ですぐやられて、次は打撃で負けて、『中途半端ですね』これで続けても」
『中途半端』
記憶を飛ばした今だから言えたのかもしれない。
また、家を見渡しながら、
「こんな家にも住んでるわけじゃん、ハングリー精神なくなったんだろうね、てかコレ俺の家⁉︎もったいなくない?」
とお茶目に振る舞う。
「じゃあまたちょっと、記憶戻って、なんかまたすげえ生意気な感じに戻るかも知んないけど、また撮りたいと思います。」
そして動画の最後、スマホを見ながら
「大変なスケジュールしてるやんオレ、はい、ありがとうございました応援」
14分54秒、動画は終わった。

朝倉未来は美しく散った。
彼の魅力であった分析力は、最後の最後、記憶喪失しながらも、引退という結論を導き出した。
彼の二面性は、魅力ともなり、そして毒ともなり、カタチを変えながら彼を破壊していった。
ヤドクガエルが自らの妖艶な毒でその身体を溶かしていくように。
美しき彼の物語の死は、最期、独特の香りとともに我々を猛烈に引き込んだ。
最高だぜ!朝倉未来!!
まだ物語が終わったなどとは誰もいってはいないのだが、、、

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