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短編小説集 『新しい風景』

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ショート・ショートを作品を収録しています。
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記事一覧

人斬り?

斬って斬ってまた斬って。 いつ終わるともしれぬ繰り返しに、私は辟易としていた。 一体どれだけ切れば、終わるのか。そもそも終わりなどあるのか? この、戦いが始まったのは、いつからだっただろうか……? あの日、あいつ。突如現れた。穏やかな昼下がり、私は一人の白装束を着た男を発見した。私は一気に彼との間合いをつめ、直ちにそいつを切り倒した。だってここは────私たちの領域なのだから。 それで事が片付いた。そう思っていた。 ところが……その日を境に、白装束を着た奴らの目撃情

ソーダ

我々は歩いていた。サクサクというよりかはスルスルという感じだ。 歩いていたのは6人だったか、8人だったか、場合によってはもっといたかもしれない。ただ、あの時の記憶、脳内で再生される映像はとても不鮮明で、正確な人数や、他に誰がいのか、はっきりしない。私たちは何故か、集団でその街を歩いていた。 胸のあたりに居座る、べったりとした不快感。見慣れないこの街を歩くのは快いことではなかった。普段、私は寧ろそのような状況を楽しめるはずなのに、その時はさほども楽しいとは思えなかった。

深大寺の休日

深大寺が主催する短編恋愛小説「深大寺恋物語」という文学賞に去年 『深大寺の休日』という作品を応募しました。 結果、惜しくも最終選考で落選だったのですが、なんと選外作品として ホームページに記載していただきました。 小説は4000字で綴った、大学生の恋の物語です。 名作映画、『ローマの休日』をモチーフにしています。 奥手の大学生の僕が、ある日、意中の女の子からデートに誘われる。そんなところから物語は始まります。 上記リンクからも読めますが作者特権、記載可能なので以下にも記

せっかち君

 あの頃、我が家の時計は全てくるっていた。  リビングの時計が10分、私の部屋の時計が8分。弟の部屋が7分で、父の書斎が15分。それから洗面所が11分で両親の寝室が20分、それぞれ正確な時刻よりも遅れていた。  家族がその事態に対して、初めて全員で話し合いをもったのは、私が中学1年の時であった。 「なんで家中なのよ?」 「つまりアレだな」 「アレって?」 「ついにおれ、魔法で時間を操作できるようになったのかも」 「……ふざけてるの?」 「ふざけちゃいませんよ。毎日の『瞑

ようこそ「寺子屋 『創』 」へ

1    ぼくが「寺子屋 『創』(そう)」へやってきたのは、5年生のはじめだった。  4年生の途中から、ぼくは学校に行かなくなってしまった。理由は自分でもよく分からない。友達とトラブルがあったわけでも、勉強についていけなくなったわけでもない。ただなんだろう、言い知れぬ息苦しさが日々だんだん強くなって、とうとう学校にいけなくなってしまったのだ。  実際ここ数年、ぼくのような子供は爆発的に増えていた。  いよいよ事態を重くみた大人たちは、今までの教育方針とは全く違った新しい

邪口

以前からずっと、写真から着想をえて、小説を書くことをやってみようと思っていたのですが、以下の企画を見つけ、書いてみました。 今回は以下の記事の写真から着想しました。 (※記事に完全な写真(切れていない)が載っているので、そちらをみていただけると物語とうまくリンクします) 「邪口(じゃぐち)」 「中級クラスの案件だけど。森田君、本当に一人で大丈夫?」 「ええ、問題ありません」  できるだけ堂々と、しっかりとした口調で答えたが、果たしてそれが彼女に伝わっているのか? 僕

地球の回答

 一緒にジムで筋トレをした後、頑張ったからと飲みに行き、タバコをプカプカ、酒をガブガブ「やっぱ『青汁』って相当体に良いらしいぜ」なんて話していた安藤が突然、「やっぱエコだよな、おれたちは地球を守らなきゃいけない」と言い出したのは7月の初めだったか。  例のごとく何かに影響を受けたか、まあもって1ヶ月、8月には落ち着くだろうと思っていたのだが、めずらしいことに9月になってもそれは終わらなかった。  コンビニで酒とつまみを買って、安藤の部屋をたずねると 「あっ、レジ袋買って

鼻毛の王様(2) (2/2)

 気がつくと私は自室にいた。鼻に違和感を感じ、そこでハタと思い出す。そうだ、鼻毛が5mになったのだ。相変わらず鼻毛は私の鼻から垂れ下がっていた。つまり、これは先ほどの夢の続きなのだろうか。  ドン、ドン  不意にノック音が聞こえてドキリとする。ガチャリとドアが開き、息子が入ってくる。白衣を来た息子はおもちゃの聴診器を首から下げて非常に不機嫌な顔をしている。 「15番目だから、結構かかるよ」 それだけ言い残すと息子はさっさと部屋を出て行った。 15番目? どうゆうことな

鼻毛の王様(1) (1/2)

 日曜日の昼下がりのことである。私は鼻に違和感を感じ、スっと鼻に手を伸ばした。指に当たる鼻から伸びる一本の長い毛。そこで私は私の鼻毛の内の一本が、異様な長さになっていることに気が付いた。たぐり寄せてもたぐり寄せても続くそれの長さはおよそ5m。概算ではあるが、部屋の長さから考えても、明らかにそれは5m〜6mはあるのだ。  人間の鼻毛はそんなに伸びない。それは多分遺伝子レベルで決まっている。ではなぜ? 当然、考えてもそんなことはわからない。  私は深く考えるのをやめ、ハサミをも

いぬ

 11月6日、夕方から急に雨が降ったその日、街にはおりたたみ傘のケース13個と、スマホが37台落とされた。スマホのうち20台は警察に届けられたが、おりたたみ傘のケースは一つも届けられなかった。  私はその日、照明が少し暗めのバーのカウンターに座り、一人飲んでいた。暗い店内では、誰もがしっとり静かに酒を飲む。人は無意識に空間に同調するものなのだ。  私はそこで「トルストイ」とか「ドストエフスキー」とかの、長いロシアの小説を読むのが好きだった。私にとって何処でどの小説を読むか

今日を金曜日とさせて下さい

 それはどう考えても金曜日にしか思えない木曜日だった。時々、こういう感覚になることはあるものだけれど、今日の金曜日感は尋常ではなかった。  朝出勤してすぐそう思ったが、時間とともにその感覚はどんどん強くなっていった。11時になって、私は部署の仲間内専用のグループチャットにメッセージを送った。  どうしたことか、おれには今日が金曜日に思えてならないんだ。朝から金曜日のような開放感がおれを包んでいる。逆に、明日も会社があるなんて、にわかに信じがたいんだ。  私のポエムへの反応

新しいマラソン

 これよりみなさんには、新しいマラソンにチャレンジしていただきます。 普通のマラソンとはルールがだいぶ異なりますので、しっかりとお聞き下さい。  まず、このマラソンは他の人より先にゴールしても意味がありません。ですから走ってもいいし、歩いてもいい。もしくは動かないというのも一つの選択かもしれません。  また、ゴールに関する情報は一切与えられません。道すがら、ゴールについて教えてくれる人には沢山出会うかもしれません。しかし、他の人のゴールはあなたのゴールではないかもしれません

そういう男

 本当にダサい男だった。会社で初めて会った時、すぐにそう思った。髪はボサボサでズボンはシワシワ。どこで買ったの?っていうダサいシャツはヨレヨレで清潔感の微塵も感じられなかった。できれば関わりたくない、そう思った。  しかし運悪く、男とプロジェクトが同じになって、正直イヤだなぁと思ったけど、まあ、別に男と付き合うわけじゃないんだから、そう思っていた。  ところがある時、どうしたことか、その男の中にあった何か得体のしれないものが、スーっと私の中に入ってきた。ソレはしばらくする

新機種

「長い間座っています」 「長い間水を飲んでいません」 「長い間トイレに行っていません」 「長い間喋っていません」 「長い間笑っていません」 「長い間爪を切っていません」 「長い間髪を切っていません」 「今、あなたは愛想笑いをしました」 「今、あなたは後ろ向きの発言をしました」 「今のあなたのギャグは100点満点中 5点です」 「話の根拠が曖昧です」 「話が論理的ではありません」 「話が綺麗事です」 「話がループしています」 「言葉の使い方が間違っています」 「生返事です」