宮藤宙太郎

【小説】東京生まれ、ドラゴンボール育ち、悪い奴らも最後は友達。『3時43分』が「cak…

宮藤宙太郎

【小説】東京生まれ、ドラゴンボール育ち、悪い奴らも最後は友達。『3時43分』が「cakesクリエイターコンテスト2020」入選 。「核」ではなく「書く」で世界を変えることを目標に、絶賛執筆活動中。 モットーは「鳴かぬなら、私が歌おうホトトギス」

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    日常の出来事、感じたことなどを書いています。

  • 短編小説集 『新しい風景』

    ショート・ショートを作品を収録しています。

  • 【連載小説】 宇宙庭園とねずみ

    僕が初めて湊からそこの話を聞いたのは、2月の初めの、とにかく寒い日だった。───キヨシ・オカの曲に『Transformation』というのがあるんだけど。その曲を流しっぱなしにして眠ると、必ず同じ場所の夢を見る───

  • 【中編小説】借りパク奇譚

    【あらすじ】 過去の "借りパク"の罪を懺悔し、みそぎができる寺、俗称「借りパク寺」。 友人の山田に連れられ、寺にやって来たおれ。謎の坊さん「亮潤」の登場後、現実は「ひずみ」、「ゆがみ」、「ねじれ」、気が付くと目の前には、想像もしなかった風景が広がっていた。 2022年 cakesに連載していた中編小説です。

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3時43分

あらすじ 「そういえば今日、会社が死ぬのを見たんです」 酔っ払った水野さんのその発言により、鏑木(かぶらぎ)の酔いは一気に覚めていった。だって、自分も午後に、同じようなことを感じたのだ。 1 「そういえば今日、会社が死ぬのを見たんです」  酔っぱらった水野さんがそう口にした時、僕もかなり酔っぱらっていたと思う。ただあまりにもびっくりして、酔いは一気に引いていった。 「午後、打

    • 鼻毛の王様(朗読)

      「おむすびシアターbarシモキタ」で 「鼻毛の王様」を朗読していただきました。 ◾️元の小説 https://note.com/chutarou_kudo/n/n3d298652fc67 https://note.com/chutarou_kudo/n/n0bcf34c7834c

      • ホットウィスキー

        酒飲みにとって季節など関係ない。 飲みたいから飲む。そこに酒があるから。 (さっきダッシュで買ってきたんだけど) それでも、ふと疑問に思ってしまった。 真冬の台所で、氷をギシギシつめ、ハイボールを作っている最中である。 体が冷えて困っているのに、どうして私は冷たい飲み物を作っているのか? 昨今、体が冷え切ってしまい途中で晩酌が中止に追い込まれる事が多いのだ。 そうか!!!「熱燗」や「ホットワイン」「ホットウィスキー」が存在するのはそのためか。冬には冬の飲み方がある。そう

        • ソーダ

          我々は歩いていた。サクサクというよりかはスルスルという感じだ。 歩いていたのは6人だったか、8人だったか、場合によってはもっといたかもしれない。ただ、あの時の記憶、脳内で再生される映像はとても不鮮明で、正確な人数や、他に誰がいのか、はっきりしない。私たちは何故か、集団でその街を歩いていた。 胸のあたりに居座る、べったりとした不快感。見慣れないこの街を歩くのは快いことではなかった。普段、私は寧ろそのような状況を楽しめるはずなのに、その時はさほども楽しいとは思えなかった。

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          せっかち君

          『せっかち君』 先日、おむすびシアターbarシモキタで 以下の小説を朗読していただきました。 小説 https://note.com/chutarou_kudo/n/nbf566c2cf0e8

          宇宙庭園とねずみ(10)ミツルのモンド指導

          「名前から感じるイメージを大切にするといいよ。それはどんな色で、どんな味で、飲むとどうな気分になる? そういうものを丁寧に一つ一つ思い浮かべるんだよ」  ミツルは言った。 「……ねずみはどんな味が好きなんたっけ?」  どうせなら、ねずみのために作りたい、そう思ったのだ。 「甘いのだね、ねずみさんは甘党だから。あとはフルーツにも目がないよ」 「うーん────色はピンクで────とびきり甘い。────それは冷たくてスムージーのような感じで────」 「いいね。匂いとか

          宇宙庭園とねずみ(10)ミツルのモンド指導

          宇宙庭園とねずみ(9) バルティナ 

           5分ぐらいで、さっきの男の子が「お待ちどうでござる」と言って、バルティナを持って戻って来た。  トッ、コトッ と僕たちの前に陶器のカップが並べられ、僕はそれに目を奪われた。  ねずみの前に置かれたカップは、ちゃんとねずみサイズの小さなものだった。2つのカップにはどちらも〝ねずみ〟そっくりのイラストが描いてある。少し太っちょの、銀色の”はり”を持つ〝はりねずみ〟。  まさか、この店のオーナーは〝ねずみ〟なのか? でなきゃ、これほどのエゴを振りかざせないだろう。ただ、イラス

          宇宙庭園とねずみ(9) バルティナ 

          宇宙庭園とねずみ(8) ぴょんぴょんスタスタ

           どれだけ歩いたか、僕らはもうずっと無口で歩いていた。  頭をからっぽにするため会話は禁止なのか、ねずみはこちらを一度も振り返らず、ぴょんぴょんスタスタと森を進んでいる。  風と木々と鳥達の合奏、草木の匂い。五感で感じるこの世界は、相変わらず鮮明で、いささかはっきりし過ぎていた。これが夢だと自覚できるのも奇妙だった。夢はいつだって、目が覚めてから初めてそれが夢だったと気づく。夢が夢だと分かっていたら、悪夢にあれだけ怯えることはないだろう。むしろ湊が言うように、無料の映画とし

          宇宙庭園とねずみ(8) ぴょんぴょんスタスタ

          宇宙庭園とねずみ(7) クムラヘ

          「ごめん……じいさんゆずりで、冗談のセンスがないんだよ。覚醒遺伝?」 僕は少しおどけて言ってみる。 「……つまり、今回も〝モンド〟しに来たんじゃないのかい?」 とても難しい顔でねずみが聞き返す。 「……ああ。できたらいいなとは思ってるんだけど……」 ねずみに引きづられて、僕の声のトーンも暗くなる。 「うーん…………。まあ、気乗りがしないなら無理にすることない。気乗りしないまま無理して、永遠にモンドをやめちまった人間なんて五万といるんだ。とりあえずタクトはここに戻っ

          宇宙庭園とねずみ(7) クムラヘ

          宇宙庭園とねずみ(6) チャイムとノック

          ベッドから起き上がってすぐ、異変に気がついた。 寝ているベッドがいつもと違う。いや、そもそもここは……僕の部屋ではない。 目に飛び込んできた、古びたアンティークの机と椅子、ベージュの壁紙。部屋には窓がなく、薄暗かった。 ホテル…………ではない。この部屋には生活の何がしかが、ここで日々過ごしているものの断片が、確かに存在している。ここは間違いなく、誰かの部屋だ……。 僕は何故この部屋にいるのか? 未だ寝ぼけていることが原因か、前後のつながりがはっきりしない。記憶の欠落、断

          宇宙庭園とねずみ(6) チャイムとノック

          借りパク奇譚(22)

          「ええ、もちろん」 クールに返事をするも、おれは自分の胸の鼓動が大きくなっていくのを感じた。これは私服の彼女が、さっきまでにも増して魅力的に見えるからか? いや、違う。たぶん彼女がこれから話そうとしている何かに、おれは反応し、緊張し始めている。 おれたちは少し歩き、待合室と塔の間、本堂の前あたりまでやってきた。 どうやら彼女はわざわざおれの『旅立ちの儀』が終わるのを待っていたようだった。おれがイケメンで、青春まっしぐらの中高生なら、まさか告白!? なんて、呑気に考えたか

          借りパク奇譚(22)

          借りパク奇譚(21)

          思考の途中、亮潤が切り込んでくる。また時間奪いの話か。 「……酒を飲んで眠くなるのは誰にだってあることでしょう?」 「はい、ただ竹中さんの場合は別です。竹中さんは現在、大した理由もなしに必要以上にお酒を飲み、それによって激しい睡魔に襲われ、寝てしまう。それが問題なんです」 「……確かに、私が酒を飲むことに、大した意味はないのかもしれません。ただ、やはり亮潤様の言っておられることは、荒唐無稽と言わざるを得ません。寝てしまうからといって、誰かに時間を奪われているというのは、

          借りパク奇譚(21)

          借りパク奇譚(20)

          「本日はお休みのところ、ご苦労様でした。東京から3時間ですか。遠路遥々、ありがとうございます」 おれの『旅立ちの儀』は亮潤様のその言葉から始まった。はて、東京から来たこと、3時間かかったことなど話しただろうか? 山田か? いや、山田の面談はこの後だからそれはない。 「竹中さんから情報を抜きました。最近の記憶なので、簡単にそれができました」 おれの思考が早いか、亮潤はそう続けた。 「はあ……」 「コツさえ抑えればこういったことは誰にでもできます」 「……コツですか…

          借りパク奇譚(20)

          借りパク奇譚(19)

          かつてこれほど旨い水を飲んだことがあっただろうか、いや、ない。 ポチが用意してくれた寺の井戸から汲んできたという水は、間違いなく、生涯一の旨さだった。「何杯でもどうぞ」の言葉に甘えた『欲張りジャン』こと山田。3杯もお代わりした挙句、途中で激しくむせ、亮潤様が「おやおや」とたしなめる、まさに子供向けアニメのラストシーンのような瞬間が訪れる。 干支を連呼して炎の周りを回ることにどんな意味があったのかはわからない。ただ、今この瞬間を味わっているおれたちにとって、果たして意味なんて

          借りパク奇譚(19)

          借りパク奇譚(18)

          「はらい、整いましたので、次は表現し、創造しましょう」 亮潤の言葉を受け、ポチが再び皆に紙を配り始める。 子 ・ 丑 ・ 寅 ・ 卯 ・ 辰 ・ 巳 ・ 午 ・ 未 ・ 申 ・ 酉 ・ 戌 ・ 亥 紙には筆で書かれた干支の漢字が並び、丁寧に読み仮名まで振られていた。 「では紙をもったまま、炎を囲みましょう」 亮潤様に促され、おれたちは燃え盛る炎の周りへと移動した。 熱い。炎を前にして一気に汗が噴き出る。やはり近くに来るとその熱気は相当なものである。ポチが丁寧に育て

          借りパク奇譚(18)

          借りパク奇譚(17)

          「さて、皆様は無事、"懺悔の門" をくぐられました。一見今までとなんら変わらいように思える皆様の周りの風景は、すでに大きく変化し始めています。しかしながら、各人がそれをはっきりと自覚するのは、もう少し後になるかもしれません」 風景? また抽象的な表現をする亮潤様。ただ、少なくともおれたちは無事、懺悔の門を通り抜けることができたらしい。残念ながらそれは "借りパク王子 "山田も例外ではないようだ。 「ではこれより、新しい道を力強く歩んでいくため儀式、『調和と創造の儀』に移っ

          借りパク奇譚(17)