ローリング・サラリーマン

東京でサラリーマン生活中。好きな芸術は、能楽、江戸前鮨、プリンス、デヴィッド・ボウイ、…

ローリング・サラリーマン

東京でサラリーマン生活中。好きな芸術は、能楽、江戸前鮨、プリンス、デヴィッド・ボウイ、川端康成、ゴンサロ・ルバルカバ、セイント・ヴィンセントなど。若い頃に詩を書いており、青土社の「ユリイカの新人」というのに選ばれたことがある。日本さかな検定1級、ブラジリアン柔術茶帯。

マガジン

  • 能楽堂につれてって

    能楽鑑賞ビギナーの筆者が、もっと能楽のファンの仲間をふやしたくて、その魅力を紹介します。

  • クルマのはなし

    内燃機関がなくなる前に、 気晴らしにステアリングに向かいつ 心に思いつくことを そのままに書きつらねてみた。

  • ローリング・サラリーマン詩篇

    むかしむかしあるところに、一人のサラリーマンがおりました。 かろやかに、つまづきながら、生きておりました。 *********** この詩篇はフィクションです。 実在の人物・会社とは 一切関係がありません。

最近の記事

女性でつくる能『道成寺』で、リアル女の怨念を聞いた

令和6年3月2日は日本の能楽にとって、記念すべき日になったと感じました。 国立能楽堂で金春円満井会の特別公演として、女性のシテ、女性の地謡、囃し方も大鼓以外は全て女性奏者による『道成寺』が披露されたのです。 すでに活躍されている女性能楽師の方もおり、男社会で形成された日本の伝統芸能の中で能楽は最も女性に開かれた芸能になっていると思いますが、シテ=主役も、地謡・囃子方=バックバンドも女性という上演は初めてではないでしょうか。 特に『道成寺』は能を代表する曲で、テーマも女の執心

    • 左足ブレーキのすすめ

      アメリカの人気ドラマ「Breaking Bad」の中で、主人公が息子に運転を教えるシーンがある。右足でアクセルを、左足でブレーキを踏もうとする息子に対し、主人公のウォルターはペダルは必ず片足で踏むように教える。「どうして?」と聞く息子に「ダメだからだ」と頭ごなしに否定する。このシーンだけ違和感がある。天才化学者の設定なのに、頭固いなあ。 もっと早く始めればよかったと本気で思っていることのひとつが、左足ブレーキである。 左足ブレーキに興味を持ったのにはいくつか理由があった。

      • 能楽堂につれてって 〜はじめに

        僕は、能楽(能と狂言)に魅せられている、このあたりの者でございます。つまりごくふつうの男です(ふつうの男は能楽に夢中にはならないなんて言わないでください)。専門家でも研究者でも、ことさら詳しいわけでもありません。ただ、「かっこいいな〜。もう少しのぞいてみよう」と興味を持っているだけです。 そんな僕が無謀にも能楽について書いてみようと思ったきっかけは、これほど素晴らしい世界なのに、共感してくれる人が周りにいないからです。出来ればたくさんの人と、この魅力を共有したいと思ったので

        • chapter 9:  STAFF

          其れはジェネレーションギャップの空より舞い降り、軟弱の先輩社員をついばみ、生きたまま喰らえり。 其れは自由気儘に会議室を飛び回り、ぺちゃくちゃと声を発し、己が意を撒き散らせり。 —『ローリング・サラリーマン古文書』より 翻弄されている。 商品のターゲットがF1層だったので、僕以外はスタッフが若い女性三人というプロジェクトチームを立ち上げ、嬉々としてやる気になっていたのも束の間、見事に翻弄されている。 女性になぶられるのは今に始まったことではないのだが、幼稚園のつばめ

        女性でつくる能『道成寺』で、リアル女の怨念を聞いた

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        • 能楽堂につれてって
          5本
        • クルマのはなし
          3本
        • ローリング・サラリーマン詩篇
          20本

        記事

          chapter 16: LUNCH

          エレベーターに入ってくる人が何人か僕の胸元を見るので、はあ、そんなに有名人でもないのになあ、などと首からぶら下げている社員証を確認したら、ワイシャツのボタンの脇にご飯粒が三つも付いていた。しかも、昼の牛丼の名残りなものだから、茶色く染まって存在感抜群だったのである。 僕はたれのしみ込んだその米粒を指に取り、迷わず口に運んで仄かに味わいながら、この昼の牛丼のことをしみじみと思い出した。 常々思っているのだが、牛丼屋にはサラリーマンのあらゆる哀しみと、そして喜びがあると思う。

          chapter 15: NURSE

          健康管理はサラリーマンの重要なミッションのひとつである。 よって、お昼時の病院はサラリーマンが多いものである。僕も流行に遅れまいと、がんばって昼休みに病院の予約を入れている。コンタクトレンズを使っているので、三ヶ月に一度定期検査があるのだ。 「え〜っと、右か下。」 はっきり確信を持って上下左右とは言えないのだが、分かりませんというほど不明瞭でもなく、もう少しで見えそうなのだが、ランドルト環の切れ目が隣り合った二つの方向に開いている様にぼやけて見える時、僕は意志を持ってそう伝え

          chapter 14: JAZZ CLUB

          趣味のよい一流のサラリーマンともなると、たまにジャズ・クラブに出かけたりするのである。はい失礼、嘘です、見栄を張りました。初めての経験で、知人に誘われて、しかもチケットの金額を聞いた後ちょいと迷ってです。さすが都会ですなあ。こんなお店があるんですね。生まれて初めて来たので、眼につくものすべて珍しく、どうしてもキョロキョロしてしまいます。 コホン。さて、なるほどジャズ・クラブともなると、なかなか粋な方々が多いようにお見受けするのである。 案内された席の左隣のテーブルには、禿

          chapter 13: NICKNAME

          B君はあだ名付けの天才である。 彼にかかればいくら重役といえど「ゆびお」となる。小言を言う時も、部下を褒める時も、講話する時も、人差し指を天に向けて揺らすからだそうだ。また、打ち合わせ中に弊社の女性若手社員をちらちらと盗み見する取引先の部長は初対面で「脇見大福」と名付けられた。ネーミングのトーンからして不遜な感があるかもしれないが、同僚としては大いに共感できるところがある。その証拠に彼の付けたあだ名はすぐに流通し、符丁のようになるのだった。あだ名を付けられる人間は大抵好かれ

          chapter 12: GHOSTS 

          会社というところにはいろいろと怖い話があるものである。 パワハラセクハラ大魔王なのにハラスメント相談窓口を発足させた自覚症状ゼロの役員、毎春誰かに一目惚れし秋口に終わるストーカー癖のある課長、定刻に出社後すぐ外出してずっとどこに行っているか誰も把握していないのに首にならないスパイ疑惑のある社員、ショッピングサイトを一日中閲覧している大御所女性社員、これらはリアルに怖いものである。 そしてまた、このような古いビルともなると、リアルかどうか誰にも証明できない怖い噂も耳にするの

          chapter 10: TAXI DRIVER

          期末を迎えたサラリーマンともなると、連日夜遅くまで仕事をすることもあるのである。で、そんな時に限って、慌てて駅に走ったのに終電に乗り遅れたりするのである。へろへろになって、べろべろに混じって、タクシー待ちの列に並ぶのである。やれやれ。 その夜、タクシーに乗ってすぐ、運転手がテキトーに走り始めているのに気がついた。僕は「目黒通りから山手通りを入って、田道の交差点までお願いします。」と告げたのだが、運転手さんは、山手通りは知っているのでルートの確定申告もせず走り始めたらしい。

          chapter 8: MASSAGE

          さして難しいことをやってるわけでもないのに、パソコン疲れに会議疲れ、ゴマすり疲れで、どうにも首・肩・腰が重くなり、仕事をサボってマッサージ屋さんに行く様になれば、それはもう立派に一流のサラリーマンである。こんな時、一流のビジネスマンは一体どうしているのだろう。
 今日はサラリーマンのインスピレーションに従って、中国式に入店。ベテランらしき大連出身だと言うおばさんがついてくれた。 あたしゃこれまでこなした数が違うのよねと言わんばかりに、ぐい〜んぐわ〜んぐいぐぐい〜ん、と中原

          chapter 7: PRESENTATION

          「ほら、今日は先方もお偉いさんが多いから、キミは会社で待機しててよ。」 部長にそう言われ、彼は何か見失ったような表情だった。しかしすぐに用意した企画書や資料のデータをすべて渡してくれ、「よろしくお願いします。」とプレゼンに向かう僕らに頭を下げた。 なぜ、彼が説明してはいけないのだろう。 この仕事では、彼がチーム内で最もたくさんデータを集めて読み込み、最も時間をかけて考え、今日の資料を作ったはずだ。大きな仕事に若いプレゼンテーターは軽く見られるだろうか。若いと同じ内容でも

          chapter 4: TRAIN

          一流のサラリーマンともなると、どんな場所のどんな時間帯であろうと颯爽と電車を乗りこなさなければならない。 何線のどの辺りの車両が比較的空いてるのか、それとも速さ優先混むのは承知で目的地の改札に近い車両を選ぶのか。乗ったら乗ったで、その時間を何に使うのか。広告でもみるのか、スマホをみるのか、はてまた文庫本でも読むのか。 僕の場合は、何もせず、辺りを眺めて時間をつぶします。 なにせ東京はいろんな人がいはります。吊り革にぶら下がって、人間様の見学です。今日は目の前にタンクトッ

          chapter 3: 7:00AM

          誰もいない早朝のオフィス。 たまに早起きしすぎて、のんべんだらり家でテレビを見るよりいいだろうと、特にやることもないのに出勤してみると、オフィス一番乗りを果たしたりする。 節電モードのプリンタや画面の落ちたPCが、窓から差し込む横からの光を受けながら、無音で主人の到着を待っている。人のいないオフィスは驚くほど静かで休日のようだ。無機的だがなぜか平和な印象を受けるのは、ここではない何処かで今始まるそれぞれの生活を夢想するからだろうか。ラジオを聴きながらパンを齧ったり、寝癖を直し

          chapter 1: CONVENIENCE STORE

          一流のビジネスマンに時流を読む目が必要とされるように、一流のサラリーマンにはその日一日が平和に過ごせるかどうかを見極める勘が必要である。その勘の導きによっては、いつも通りに働くか、遮二無二働くか、卒なく働くか、悔いなく働くか、給料分だけ働くか、それ以上に働くか、春のように働くか、冬のように働くか、その日の働き方を決めなければならない。これは一大事だ。 ところが、やはり未来のことなど自らの力ではなかなか予想できるものではない。そういうわけで、僕は毎朝出社前のコンビニタイムに、

          chapter 1: CONVENIENCE STORE

          prologue

          満員電車を乗りこなし エレベーターの到着音も高らかに 揺るぎなくもあんま意味なく できうる限りの定刻出社 本気のホンネは 仕事そこそこみぴょこぴょこ かろやかに、つまづきながら 働く、勤める、戯れる 僕の名は、ローリング・サラリーマン ボトルコーヒー、実装完了 貸与PC小脇に抱え 会議室を渡り歩けば なんか出来る感じ 仕事回してる感じ 開ける未来は 四半期毎の オフィス渡世は とつおいつ かくもおかしく、かくもたのしく 僕の名は、ローリング・サラリーマン あくなきコンペの繰り