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鉄道と映画

初期の映画で有名なエピソードがある。リュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1895)の上映の際、列車が自分の方に向かってくるのを見た観客が、驚いて逃げ出したというものだ。

こういう逸話って、大げさに繰り返されて、尾ひれがついているだろうから本当かどうかは怪しいが、映画と鉄道の相性のよさを語るにはちょうどいいエピソードだと思う。

19世紀の半ばから各国でどんどん建設が進められた鉄道は、少し遅れて始まった印象派の絵画のモチーフにもなっている。1877年にモネが描いた『サン=ラザール駅』なんかが有名どころである。リュミエール兄弟も同じようなノリで、バカンス中に別荘の最寄り駅に入ってくる蒸気機関車にカメラを向けたのだろう。

走ってくる汽車を撮っているだけじゃ物足りないと思ったのだろう。カメラを汽車に乗せて撮れば、まるで旅行している気分になるのでは、というアイディアにたどり着くのに時間はかからなかった。

まずリュミエール社の社員アレクサンドル・プロミオがカメラを列車に持ち込んだといわれている。1896年の『Le Départ de Jurusalem en chemin de fer(エルサレムから鉄道で出発)』では、鉄道の後尾から見送る人々を映している。彼はその後、1897年に訪れたリバプールでは、4年前にオープンしたばかりの電車の車窓風景を撮影。『Panorama pris du chemin de fer électrique(電車から撮ったパノラマ映像)』というタイトルで4本残している。

リュミエール社の作品は乗客視点の映像だったのに対し、ほとんどの人が見られない風景を見せてやろうということを思いついたのがアメリカのビオグラフ社である。(ちなみにこのビオグラフ社はエジソンにキネトスコープの開発の功績を横取りされたディクソンが設立した会社)

1897年の『Harvestraw tunnel(ハベストローのトンネル)』は列車の先頭の部分にカメラを設置して、列車視点?で映している。今だったら運転席の車窓からの風景と重なるだろうが、煙がすごい蒸気機関車だと機関士は横から確認するので、誰の視点でもない。だから初期映画のこういう映像をPhantom rideといったりする。

似たようなジャンルにTram-rideというものもある。もともとは馬にひかれたトラム(馬車鉄道)の先頭から撮ったものらしい。それから普通の路面電車に切り替わった。

Youtubeにも世界各国の車窓映像がアップロードされているが、こういう初期の鉄道映像で時空を超えた旅行も悪くないだろう。



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