見出し画像

ハウスボトルのお話

 大体の場合、バーにはその店の「ハウスボトル」があります。ハウスボトルとは、お店備え付けのボトルであり、いわば「そのお店の代表的な一本」とでも言えます。ウイスキーはもちろん、リキュールがハウスボトルのお店もあります。

 Cinqは、「DRAMBUIE」(ドランブイ)というハーブ系リキュールをハウスボトルに選定しています。ベースのウイスキーにハーブと蜂蜜が加えられた、重厚感がありながら十分な甘みがある飲みやすい一本。ストレートやロック、水割りやソーダ割、カクテルも甘いものからさっぱりしたものまで、一本のリキュールで多用な飲み方を楽しめます。「ラスティ・ネイル」というDRAMBUIEとウイスキーを混ぜたカクテルが定番で、DRAMBUIEのボトルがあれば、どこのバーでも飲むことができます。

 DRAMBUIEの歴史

英国で王位継承のための戦いが、1745年に勃発した。
当時チャールズ・エドワード・スチュアート王子は兵を挙げたが、結果戦いに破れてしまった。頼みのフランスとも連絡が取れず、チャールズ王子はスコットランドのスカイ島への逃走を余儀なくされた。この時敗れたチャールズ王子を助けたのが、地元の豪族マッキノン家だった。

チャールズ王子には30000ポンドもの賞金が懸けられていたにもかかわらず、マッキノン家はチャールズ王子への忠誠を守りぬき、チャールズ王子をスコットランド北西にあるスカイ島からフランスへ亡命させることに成功させた。

チャールズ王子はマッキノン家への感謝のしるしとして、王家伝統のドランブイの秘密の製法を授けた。一族の間で引き継いできた製法を、後の1906年にマッキノン家の子孫が商品化した。

CinqとDRAMBUIE

 僕たちがDRAMBUIEと出会ったのは、お店を作る前の修業時代。お店作りの参考にと東京のバーを巡る5日間ツアーの計画中、修行先のマスターに「東京で一番感銘を受けたバーはありましたか?」という質問に、マスターが答えてくれたのが北千住にある「BAR Drambuie」。

 東京駅について、まず最初に向かったの「Bar Drambuie」は、昔のDRAMBUIEやオールドのウイスキー、バカラのアンティークグラスが壁一面に並ぶ、静寂に包まれたオーセンティックバーの色気を放っており、旅の疲れも一瞬 で吹き飛びました。作ってくださったカクテルも美味しく頂き、これからのバー巡りをするエネルギーの注入も満タン。

 実はそれまで、DRAMBUIEというお酒を、飲んだことがなく、ボトルだけ見たことがある程度だった勉強不足な僕たちに、マスターは丁寧にDRAMBUIEというお酒について説明してくださいました。上に書いた歴史も含め様々なお話を美味しいお酒を飲みながら聞き入る僕たちにマスターが、最後にDRAMBUIEの名前の意味を教えてくれました。

 DRAMBUIEの名前のルーツは、ゲール語で「アン・ドラム・ビュイ」で「満足のいく酒」という意味。そこから転じてDRAMBUIEは「心を満たす酒」という意味を持ち世界中で愛されています。そしてマスターもこのお店を訪れるお客さんがお酒や会話を楽しみ、心を満たされて帰路に着いてほしいという想いから「Bar Drambuie」とお店の名前にされたそうです。

 「こんなにも本質的な意味を名前に持ったお酒があるなんて!!」といい感じに酔っぱらっていた僕たちの感動は最高潮に達していました。

 マスターに見送られて店を後にして、自然と僕たちの意見は一致していた。「DRAMBUIEをハウスボトルにして、お客さんの心を満たすお店にしよう。」


 各酒自体に物語があり、そのお酒に魅せられた人の物語もある。お店ごとにハウスボトルは違うが、そこには必ずマスターがなぜハウスボトルをこのお酒にしたのかの理由があります。その物語こそ、マスターやお店を支えるひとつの大きな力となっています。そして、ハウスボトルのお酒を飲んだお客さんが、自分の生活の物語に追加していく。まるでハウスボトルにまつわる物語を、リレーのバトンのように渡しながら、Barは文化を維持してきたのでしょう。

 Bar文化を支えるため、お客さんの心を満たすために、今日も当然DRAMBUIEがバックバーの中央で鎮座しています。

鎮座

余談。
DRAMBUIEをハウスボトルに選ぶお店は大変珍しいらしく、開業準備中に酒屋さんから「ちなみにハウスボトルの銘柄は決まってますか?」の問いにDRAMBUIEと答えたところ、目に?マークを浮かべながら失笑されたことは、いい思い出です。

この記事が参加している募集

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?