頼まれ仕事が性に合う

小刻みな仕事が性に合う。

夕飯を作ったり、部屋の掃除をしたり……気持ちが散らかりがちな私には、そうした小刻みなリズムがちょうどいいのだろうな、と思う。雑誌への寄稿も(炊事や掃除に比べれば大事おおごとだけれど)まぁ比較的小刻みで、そうやって依頼に都度応えながら書いている時間が実はいちばん好きかもしれない。ホームランよりも送りバントが好き……みたいな(その喩えで合っているのか?)。


最近は、寒い時期に仕込んでいたものがわっと出てきた。



まずは博報堂が出している謎雑誌「広告」文化特集。

たくさんの論者が「文化」というあまりにも広いことを好き勝手に論じている中で、私もその端っこに席を確保している。専門家の方が多い中で、暮らし系インフルエンサーというゆるふわな立場で、割と適当なことを頑張って書いた。

この「広告」という雑誌はすこぶる自由度が高い。博報堂が(たぶん)採算度外視でやっているし、編集長の小野さんがどんどん草を掻き分けて広告(業界)らしい道を逸れていくし……ということで、社会学者もいれば法律家もいれば広告マンもいる、指針がどっちに向いてんのかわかんない自由な雑誌であって、それはどこか京都での芸大時代を思い出させてくれるような懐かしさもある。いや、芸大生の制作と比べてしまうと圧倒的にギャラの羽振りが良いんですけど。


そんな自由な雑誌の中で、ジャニーズ事務所の功罪を書いてある文章があり、それが博報堂広報室長の判断により取り下げられた……という不自由な顛末がそれなりに話題になっていた。というか、そのことばっかり話題になってしまった感もあって我々がすっかり霞んでおりますが、噛みごたえのある雑誌です。

私の文章は、いつかWebにも転載されると思うのでゆっくり待っていただいても良いけれど、さまざまな方向を向いた人たちの文化論を読みたい方、もしくはシルクスクリーンで赤く刷られた表紙を持つ稀有な本を所有したい方はぜひ実物をどうぞ。


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新潮社の『波』にも寄稿してる。

Superflyの越智志帆さんがはじめてのエッセイ本を出版されて、その書評を書かせてもらった。彼女が私の文章を好いてくれていて、そのご縁で……ということではあるのだけれど……


これは他者を巻き込んだ盛大なナルシズムであるのだけれど、私は、私の文章を好いてくれる人がたまらなく好きである。「あなたの文章が好きです」と言ってくれた人のことを知っていくと十中八九、持ちうる琴線のあちこちが「当たり!」「大当たりだよ!」と大騒ぎするのだ。文を書き、好む相手をこっちの側に呼び寄せる。こんなに効率の良い求愛行動はほかにない。


"塩谷舞さまが、私の本の書評を書いてくれました!感動の文章!分析力もすさまじく、プロってすごいと思わされました。
キャー!
鳥肌です。ありがとうございます!"

……ですって(嬉しいから引用しちゃう)。

ちなみに志帆さん、以前ちょこっとお会いしたときに私を見て「画面の向こうの人だと思ってました!」と仰っていて、いやそれはあなた……と笑ってしまった。とても謙虚で真摯な人。そしておっかないほどに努力の人。

芸術と呼ばれるものの近くで何年も仕事をしていると、稀有な才能に恵まれた人は、それなりにいるのだなぁ、と思わされる。でも稀有な才能に恵まれているからこそ、そこに胡座をかいて、努力することを嘲笑って堕落していく人……というのも少なくない。

でも彼女は才能に恵まれた上で……いやこの先は書評に書いたので、是非読んで欲しい。『波』をどこかで入手、もしくは数日後にWebに掲載されるはずなのでお待ちくださいませ。


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実は人生ではじめて、フードエッセイというものを書いた。ポプラ社のasta*という雑誌にて、『わたしの名店』という持ち回りのコーナーを担当させてもらった。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。