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CIVILTALK 01:清水えり子(zaziquo) × ホンダチヒロ

CIVILTALKは、私たちCIVILTOKYOのインタビュー連載企画です。記念すべき初回にご登場いただきますのは、ファッションブランド「zazi」のデザイナーである清水えり子さんと、デザイン事務所「キギ」所属のホンダチヒロさんのお二人です。お二人はユニット「za本」としても活動されています。

初めてお二人にお会いしましたのは、za本として出品されていたTOKYO ART BOOK FAIR 2014でのこと。たくさんの出品者とたくさんの来場者によって熱気にあふれた会場のなか、私たちも大変多くの方々とお話しさせていただくことができました。しかしながら、実際に会場に行かれた方ならなおさらお分かりになることと思いますが、熱心に見ようとすればするほど、その膨大な質量にほとんどの方々との出会いの記憶は段々と薄れていってしまうのが正直な話でもありました。

そんな中でも私たちの記憶に鮮明に刻まれていたのがこのお二人。

作品が魅力的なことはもちろんのこと、ある種雰囲気に迎合しない凜としたお二人の佇まいが非常に印象的でした。

今回のインタビューではお二人のユニット「za本」を始めるきっかけ、お二人それぞれのバックグラウンドについてお話を伺うことができました。もともと共通の友人を介して顔見知り程度であったお二人。一緒に活動するようになった流れも、馴れ合いではなくお互いの分野で高め合っていく中での過程であったというのが、なんともストイックなお二人らしいエピソードだと感じました。またお二人それぞれがすばらしい人々との出会いを見逃さず、行動力を持ってきちんと自分に大切なターニングポイントにしてきたというバイタリティ溢れるお話を聞かせていただき、ますますお二人の魅力の虜になりました。

まずは、お二人の出会いや一緒に活動されるようになったきっかけを教えていただけますか。

清水えり子(以下、清水):最初、私たちは大学は違ったんですが共通の友人が居て、顔を知っている程度で。初めてちゃんと会って話したのは多分、お互いの卒業制作展でした。卒業制作を見せ合って、すぐに仲良くなれたのかなと思います。当時、zaziはロゴやフライヤーなどもブランディングの部分が全然できていなかったので、お願いしたいなと思って。そうしたら「私でよかったら」って言ってくれて。そこで初めて関わりあうようになりました。

そうだったんですか。てっきり学生時代から仲が良かったのかと思っていました。

ホンダチヒロ(以下、ホンダ):お互いいろんなことをやっているのは知っていたし、清水さんが作るものが好きだったこともあって、私もなにか力になりたいと思っていました。なのでどちらからともなく、自然にという感じだったのかな。

清水:初めてホンダさんと一緒にやったのは、2年前にzaziで作ったカレンダーですね。それ以来、ロゴやフライヤー、タグ、名刺など、zaziの紙ものは全部ホンダさんにお任せしています。他にやってくれる人がいないから…ということではなくて、感覚が一緒だから、za本みたいなことも一緒にやりたいと思えますし、とてもいい関係だと思います。友達同士だからとなあなあになってしまうのが嫌だけど、ホンダさんとはそれは絶対にないですね。

ホンダ:友達だからこそ、甘えたくないと思います。

お話を聞いていると、お二人の関係は「友達」というより「仲間」だと感じます。

清水:私、学生時代は友達があまり作れなかったんです。友達同士で馴れ合いになるのが嫌で、時間の許す限りずっと工房にこもって制作していました。でも、こうして制作を続けていると、同じように続けている人とつながることがあるんだなと卒業してから感じます。

ホンダ:仲間ですね。相棒という感じ(笑)清水さんのように、もともと直接の友達ではなかったとしても、お互いが活動しているからこそ一緒になった人たちとのつながりはなにか共通のものを感じるので、大事にしていきたいと思います。

そういった方々と一緒に制作するのは、いわゆる「仕事」とはやり方が違いますよね。

ホンダ:そうですね。私にとって清水さんと作るものなどは、会話の延長上のようなものなんです。だからとても楽しい。

清水:私の場合、基本的にいつも一人で仕事しているので、ちょこちょこ人に会わないと感覚が狂ってしまう気がします。そんな時、ホンダさんが声をかけて外に連れ出してくれるので、とてもありがたいと思っています。ホンダさん、本当にフットワーク軽いんですよ。行く場所もなんとなく決めているんじゃなくて、今度一緒にZINE作るからこの展示に行こうとか、刺激になりそうなものを的確に選んでくれるんです。

ホンダ:世の中には素敵なものが本当にたくさんあふれているのに、自由に動ける時間は限られている。どうやったらたくさんのものと出会えるかを考えるので、自然にフットワークも超絶軽くなります。先日はどうしても見たい展示が群馬でやっていて、朝5時起きで見に行って、帰ってきて仕事をしたなんてこともありました(笑)

お二人それぞれのことについても伺っていきたいのですが、清水さんは刺し子とドローイングで服を作っていらっしゃいますよね。始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

清水:私はもともと刺し子で洋服を作るということをしていたわけではないんです。武蔵野美術大学のテキスタイルデザイン専攻にいたんですが、服づくりではなく、染色技術を使って繊維を素材にアート作品を作っていました。ファッションは大好きでしたが大学では全く勉強してないです。テキスタイルデザイン専攻にいると、紙に描いたドローイングやグラフィックを布に置き換える作業があるんですが、私はそれがなかなかうまくいかず…ドローイング自体はよくても、布に変わるとつまんなくなってしまう。なんか足りないな、と思っている時に、大学にアーティストの椿操さんがいらして、特別講義を受ける機会があったんです。椿さんは布に刺し子をして大きな絵画作品を作っている方でした。

そこで刺し子と出会ったんですね。

清水:はい。椿さんの作品、すごくかっこよくて。椿さんのお人柄もあってか、刺し子にとても魅力を感じました。自分のドローイングに合うかもしれないと感じたのも大きかったです。椿さんがいらしたのが4年生の6月くらいだったのですが、「卒業制作は作家としての一番最初の作品であって、スタートだから」と言われて、それまでやったことのなかった刺し子を初めて使いました。本当に、それがすべての始まりになっていまでも続けているし、椿さんに会っていなかったらやっていなかったことなので、出会いにとても感謝しています。

ホンダ:清水さんの学生の時の話、初めて聞いたかも(笑)

清水:あんまり話したことなかったかもね(笑)

zaziを始められたきっかけはなんだったんですか。

清水:大学4年生の、刺し子を始めるちょっと前くらいの時に、原宿のセレクトショップ「lamp harajuku」のディレクターの方に声をかけていただいたんです。お店に作ったものを置いてもらえることになり、その時はアクセサリーやZINEを作りました。そこからzaziが始まったんですが、最初は服のブランドというより、アーティストが小物を作っている、という感じだったんですよね。

そのディレクターの方、とてもお目が早いですね。

清水:そこから定期的に商品を作っていき、一年過ぎた頃、合同展示会に出そうということになりました。せっかくなのでスカートを作ろうと、その時初めて作品が服の形になりました。そこからシーズンで作っていくようになり、また次のシーズン、とやっているうちに、だんだんオーダーが増えていきました。実は卒業後会社員をしながら両立していたんですが、zaziだけでやっていける目処がギリギリたってきたので、去年の年明けに会社を辞めました。両立していた2年間は大変でした。ボロボロでした(笑)

卒業制作もzaziの洋服もそうですが、この刺し子の量は相当なストイックさを感じます。

清水:zaziの服、刺し子は一番ポイントとなる要素ではあるんですが、今季はアレンジをしたいと思って色々試しています。例えば、このキルティングコートは、袖と肩とポケットは刺し子で、全身の身頃はキルティングにしています。

それでもかなりの作業量だと思いますが(笑)

清水:去年に比べたら私自身の刺し子の手作業は減っていますが、その分職人さんの技術を取り入れています。キルティングは柄のデザインは私がして、作業は職人さんにやってもらっています。几帳面に作られているべき部分は職人さんにお願いするほうが、私の刺し子が引き立つと思いました。

ホンダ:去年のはちょっと境地に行っちゃってたもんね(笑)

清水:去年と比べて着やすくなったという意見もあるし、物足りないという意見もあります。アートから始まっていて、それを服にするということで色々試しているところですね。

ファッションブランドに限らず、アーティストの作品は、洗練されるにつれ余分なものがなくなっていきますよね。zaziも新しい境地に一歩踏み出しているのかもしれませんね。

清水:守り抜くべき部分もありますが、新しいものを作っていかないと自分の気持ちも新鮮ではなくなってしまうし、着てくれる方にもすぐに飽きられてしまいますよね。この辺りの差し引きは難しいところですが、長く続いているブランドは、そこのバランス感覚がうまいと思いますね。

最近のzaziの活動について教えてください。

清水:zaziの洋服は基本的に完全受注生産なので在庫はなくて、いまちょうど受注会をやっていて、サンプルが出払っているのであまりお見せできるものがないのですが…

でも、今日履かれているスカートはzaziのものですよね

清水:そうなんです、履いてくるのが一番伝わるかなと思って(笑)7月18日から30日まで、渋谷でポップアップショップをやります。お店の方が、今年4月の装苑さんに私のアトリエが掲載されたのを見てくださったそうで、店内にアトリエを再現することになっています。フライヤーはホンダさんに作ってもらっています(編注:取材は7月初旬だったため現在は終了)

ホンダさんがデザインを始めたきっかけを教えてください。

ホンダ:母が美容師をやっていた影響で、映画の特殊メイクやヘアメイクなどに興味がありました。なので美容学校に行く!と決めていました。でも、絵も描きたいし、映像も作りたい。そんな話をしていたら、当時の高校の先生から、そういうことが好きなら美術大学というものがあるよ、と教えてもらいました。それだー!と思って、美大を受験する準備をして、一年浪人して多摩美術大学に入学することになりました。

そんな経緯があったんですね。学生時代はどのように過ごされましたか。

ホンダ:大学時代は真面目でしたね。課題は徹夜してでも全部出しました。最初からグラフィックデザイナーになりたいと思っていたわけではないんです。特殊メイクをやりたかったぐらいですし(笑)授業は、写真、イラスト、デザイン、分野の違うものを取っていました。どれも自分にとっては表現するという意味であまり違いがなくて。なのでいまデザインをしているのも、そんな自分のなかの一部なのかなあと思っています。

その中でデザインはホンダさんにとってどんな仕事ですか。

ホンダ:私、何事も結局は人だと思うんです。清水さんと一緒にやるのも、清水さんも清水さんから生まれるものも好きだからだし、そういう人の魅力を最大限出したい。色々なデザインがありますが、私はデザイナーとして自分が好きな人やもの、その魅力を伝えるお手伝いがしたいですね。自分の表現ももちろんしていきたいと思っていますし、します。

キギのお二人との出会いや入社するきっかけはなんだったんですか。

ホンダ:就職活動をしている時に、二人がドラフト(編注:宮田識が代表を務めるデザイン会社。グラフィックデザインや広告宣伝をベースに、多方面にわたりデザインを行っている)から独立するから会いに行ってみないか、とある方からお話をもらったんです。もちろん二人のことは知っていましたし、私にとって「天の上」の存在でした。そんな人たちに会えるなんて、なかなかない機会だから面接ということは忘れて作品だけでも見てもらいたい!と思い、二人を訪ねました。そんな心持ちで、リラックスして楽しく小一時間お話ができたのでそれだけで大満足でした。そうしたらしばらくたって、まずは引っ越しを手伝ってねと連絡をいただきました(笑)

ということはホンダさんはキギの立ち上げメンバーだったんですね。

ホンダ:立ち上げというのはちょっと恐れ多いですが、最初は二人の膨大な量の作品たちを段ボールに包むところからスタートしました。その頃学校では卒業制作が始まっていて、キギから帰ってきてはひたすら絵を描く、出力かけながら眠る、という生活を送っていました。卒制も絶対いいものが作りたかったし、すべてが必死でした。

清水:卒業制作って本当に大変だった。私もその時期のこと、思い出に残ってます。

その作品、ホンダさんのtumblrで見ました。「本 A3変形“8kg”」っていうとんでもないやつのことですよね。

ホンダ:そうです。タウンページみたいな(笑)

清水:タウンページよりすごいですよ!もっと長くて、大きくて、ぶ厚い。

ホンダさんも相当ストイックですよね。

ホンダ:やらないと悔しいというか…卒制は1000枚じゃないといけなかったんです。私の名前には千が入っていたから(笑)実はイラストを、卒制までは発表したことがあまりなかったんです。なんとなく恥ずかしくて、でも好きで描いていて。発表できる時っていましかないかもと。やるなら思い切ったことやらないとかっこ悪いし、大好きなデザイナーさんに相談しに行ったところ、このイラストは量だとアドバイスをいただいて、だったら1000枚だ!と。そしたらこうなりました(笑)そしてキギもその頃通っていたので、場所が近いから見に行くよ!と言われて、これはまずい、本当によいものを作らなくちゃというプレッシャーもありました。(渡邉)良重さんが見に来てくれた時に、私がたまたまいなくて電話をくれたのですが、よかったよ、と言ってくれた時には少し泣きましたね。

会社では、どのように仕事をしていらっしゃるんですか。

ホンダ:基本的にはアートディレクターがいて、その下でデザインをしています。二人は常に新しいことを探していて、そして楽しそうなんです。楽しそうにやる、ってほんとできそうでできないですよね。そして判断がとても速い。どうやったらそんな表現にたどり着けるのだろう、ということを言われたりします。そこで自分なりにどう答えるか、探していくことで可能性を広げてくださっているのだと思います。刺激的な毎日で、まだまだ日々必死ですね。

最近、お二人で一緒に活動されたものはありますか。

ホンダ:直接一緒になにか作るわけではないのですが、私が去年イラストで参加した「dm」という雑誌に、次号は清水さんも参加することになっています。私は次は映像を作ることになっていて…

ホンダさんは映像も作れるんですか。

ホンダ:大学の頃にアニメーションを作ったりしていたことがあって、それ以来ですね。できるかな…(笑)

清水:ホンダさんの映像、すごく楽しみにしてたよ(笑)

za本としてのこれからの活動の予定はありますか。

清水:いまは二人とも目の前の自分の仕事をがんばっているところなので、アイデアを温めている段階です。

ホンダ:ギャラリーでの展示なども魅力を感じますが、もうちょっと後でもいいかな、と思います。

清水:でも、いつかはやりたいと思ってます。

ぜひ。お二人の活動、これからも楽しみにしています


インタビュー収録日:2015年7月11日


清水えり子
zaziデザイナー。1988年東京生まれ。
武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業。
2011年在学時よりzaziをスタート。現在年2回コレクションを発表、完全受注生産で販売を行う。
2016年にブランド名をzaziquoに変更。
http://zazizazizazi.com/

ホンダチヒロ
キギデザイナー。1989年神奈川生まれ。
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。
2011年在学時よりキギ在籍。個人でもイラストやデザインをして活動中。
http://hondachihiro.tumblr.com/

za本
服を作るzaziとグラフィックデザイナーのホンダチヒロが、それぞれライフワークとして日々続けているドローイングを共に発表する場としてza本を結成。
2014年9月 東京アートブックフェア2014出展。
2015年1月 ROCKETクリエイターズ福袋に参加。


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