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来週の相場見通し(1/1~1/5)

1.はじめに

来週は、もう新しい年になる。1年は早いものだ。2023年の年初は、「今年は債券市場の年になるだろう」と言われていたが、終わってみれば、今年は「株式市場の年」、特に「マグニフィセント・セブンの年」だった。今回は、2023年の米国市場を大局的に総括することからスタートしたい。

2.2023年の米国市場の総括

2023年も色々な出来事があった。
少しだけ、今年の世界の状況を振り返ってみよう。

① 今年の出来事

(1月)
・ISM非製造業指数の節目の50割れ(大寒波の影響)
・「インフレピークアウト+景気後退=FRBの利上げ打ち切り+年内の利下げ転換」の思惑の高まり
・米国ハイテク企業の大規模なリストラ
・マッカーシー氏が15回の投票で下院議長に就任
・黒田日銀総裁任期交代の思惑の高まり

(2月)
・中国気球撃墜事件、米中関係の悪化
・ウクライナ戦争から1年
・トルコ・シリア大地震
・1月の米雇用統計517千人(予想180千人)の衝撃
・バイデン大統領の一般教書演説
・オハイオでの電車脱線事故
・植田氏が次期日銀総裁が指名される(サプライズ)

(3月)
・イラン、サウジアラビアが国交正常化(中国の仲介)
・パウエル議長の議会証言「利上げペース加速の準備がある」で金利上昇
・シリコンバレー銀行の突然の破綻で、金利が急低下、リスクオフ
・米銀の連鎖破綻から、金融不安への警戒感
・クレディスイスへの波及、UBSによる買収(AI1債の話題)
・FRBによるBTFPの導入(緩い要件での流動性供給)
・バイデン政権の預金者全額保護

(4月)
・スーダンで軍事衝突
・米国金融システム不安は後退も、個別行の破綻リスク懸念
・商業用不動産のリスク、銀行貸出態度厳格化
・マクロン大統領の訪中と問題発言「欧州は、米国に追従すべきでない」
・日本で30年ぶりの高水準の賃上げ

(5月)
・米国で債務上限問題交渉が難航、米国債デフォルトリスク
・日本株再評価の動き(東証資本コスト経営、バフェット効果)
・広島サミットで岸田政権の支持率上昇

(6月)
・債務上限問題がぎりぎりの交渉成立
・FOMCで今局面で初の利上げ見送り(SKIP)
・S&P500上半期に16%の上昇
・プリゴジンの乱(ロシア)

(7月)
・チームスターズとUPSの賃金交渉
・ニジェールでクーデター
・米国で中立金利上昇の議論、金利が上昇基調
・日銀がYCCを修正
・FRBが恐らく最後の利上げを実施

(8月)
・BRICS首脳会議(南アフリカ)
・グローバルサウスがキーワード
・フィッチの米国債格下げ
・碧桂園の破綻リスク(中国不動産市場への懸念)
・米国クレジットカード債務残高1兆ドル超え
・(ジャングルポケット斎藤、不倫問題)

(9月)
・米国政府閉鎖リスク
・UAWとビッグスリーの労使交渉、ストライキへ
・タカ派なドットチャートのFOMC、金利急上昇
・米長期金利、超長期金利が不安定化
・モロッコ大地震
・ジャニーズ問題で記者会見
・岸田政権、内閣改造

(10月)
・米国債市場でタームプレミアム議論、買い手不在
・米国実質金利が2%から2.5%へ向けて上昇
・米国長期金利は5%へ
・米国株がナスダックを中心に10%の調整
・マッカーシー下院議長解任
・ハマスがイスラエルを急襲、中東リスク勃発
・日銀がYCC政策の事実上の撤廃

(11月)
・APEC首脳会議、米中首脳会談
・イスラエル軍、ガザ地区に地上侵攻開始
・アルゼンチンでミレイ氏が大統領選勝利
・四半期定例入札で米国債増発も予想より小幅で市場に安心感
・米国で年を超える「つなぎ予算」成立
・米国企業決算が好調(AI関連強し)
・欧米のインフレ率が急低下
・日銀のマイナス金利解除議論が高まる
・岸田政権の支持率が低下
・ウオラー理事発言から、米金利が低下基調へ転換
・台湾総統選で野党共闘が実現せず

(12月)
・ハト派なFOMCを受けて、米長期金利が4%割れ
・市場は来年6回の利下げを織り込む
・岸田政権は、パーティ券問題で政局が混乱
・安倍派閣僚の大パージ
・株式市場は、世界的に年末ラリー

こうして振り返ると、色々なことがあったなー。

② マーケットを振り返る

今年は、上半期にS&P500が16%も上昇した。私は、今年の上半期が終わった段階で、7月の本レポートで、下のような過去のアノマリーを取り上げた。

結果から言えば、このアノマリーが今年はヒットした。特に3つ目は今後も覚えておくといいだろう。すなわち1988年以降で上半期にS&P500が10%以上の上昇をしたケースは今年も含めて12回。その全てで下半期も上昇したことになる。そして下半期の平均上昇率は10%を超えるというものだ。

さて、このように米国株式市場にとっては、今年はとても好調な年となった。大局的に相場環境を振り返ろう。
まず米国金融状況指数だ。今年は安定していたことが分かるだろう。

(米国金融状況指数)

株式市場のVIX指数の長期チャートを見ても、今年は変動率が低位安定した1年だったことが分かる。(下図)

(VIX指数)

VIX指数を1年間だけ示したのが下のチャートだ。3月の金融不安の際でもVIX指数は26程度までしか上昇しなかったことは驚きだ。また10月に米国実質金利が2.5%、名目長期金利が5%に向かって急上昇した際でも、VIX指数は25にも届かなかった。

(VIX指数)

投資適格債のスプレッドも下のチャートのように安定して推移した。倒産件数の増加や。ムーディーズによる米国銀行格付けの一斉引き下げ等もあったものの、市場は大きく動じることはなかった。安定しているなー。

(投資適格債スプレッド)

今年は、10月にかけて債券市場は、流動性が低下して不安定になった。タームプレミアムがキーワードだった。それでも、下のMOVE指数が示すように、22年のほうがボラティリティが高かった。但し、水準としては依然として過去とは一段高い状況で推移している。

(MOVE指数)

米国のMMFの残高は積み上がっている。(下図) 来年、FRBが金利を実際に引き下げ始めると、投資家のマネーはこうしたMMFマネーから抜けて、高配当株等に向かうかもしれない。待機資金が豊富にあることは、安心材料であろう。

(MMF残高)

FRBのバランスシートはQTの継続により、減少してきている。しかし、それでも水準としてはまだまだ大きい。市場に過剰流動性を供給している。

(FRBバランスシート)

最近はBTFPの残高が増えていることが話題であるが、そのBTFPよりも遥かに規模が大きいFHLBアドバンスの残高も依然として巨額だ。来年の市場の1つのリスクは、BTFPが終了するとともに、この米銀の資金流動性を助けてくれるFHLBアドバンスが改革されて、気軽に資金を借りられなくなる可能性があることだ。(現在、そのような改革案が議論されている)

(FHLB アドバンス)

個人の状況も見ておきたい。米国個人のクレジットカードの延滞率の上昇等が話題になっているが、米国家計の債務返済比率は、過去と比較しても健全さを維持している。これが、米国の個人消費が減速しない要因の1つであろう。

(債務返済比率)

住宅市場には、相当な歪みが生じている。下のチャートはNRAの住宅取得可能指数だ。ミレニアル世代が住宅取得適齢期に入っているのだが、市場に中古物件が極端に少ない。一方でここもと低下しているものの、新規の住宅ローン金利は一時は8%に迫るような高さで、新規の住宅購入者には厳しい状況が継続してきた。

(住宅取得可能指数)

下のチャートは新築1戸建住宅販売の中間価格の前年比であるが、急激に低下している。住宅バブルが崩壊したリーマンショックの時よりも、足元のほうが落ち込んでいることは、かなり衝撃的である。恐らく、FRBが全体のインフレを抑制するために、短期間で急激な利上げを行ったことの副作用が、米国の住宅市場に色々な歪みを引き起こしている。米国のインフレ率は一時9.1%まで上昇する中で、FRBの利上げはインフレを抑制するという点では、効果を発揮したと思われるが、住宅市場だけに絞った場合には、明らかにFRBの利上げはやり過ぎと見ることもできるだろう。これは、来年の持ち越し課題となる。

新興国に目を向けても、今年は新興国スプレッドも低位安定していた。今年も様々なリスクがあったことを鑑みると、新興国の基礎的な体力が相当に強くなっていると思われる。

(新興国スプレッド)

さて、このように今年は色々な面で、安定した市場環境だった。但し、株式市場はセクター間でかなりの格差が見られた。下のチャートはS&P500の11業種の中から幾つかを取り出し、23年初日を100として指数化したものだ。
下のチャートのように情報技術や一般消費財が大きく上昇している一方で、公益などは10%下落しており、その格差は大きい。

(S&P500の業種別パフォーマンス)

24年がFRBの利下げにより、「キャッチアップ」が1つのテーマになるのであれば、今年低迷してセクターは伸びしろが大きいだろう。
また、ナスダックとナスダック100の格差も目立つ1年だった。下のチャートの下段は、ナスダック100を、ナスダック全体で割った比率である。右肩上がりで比率は上昇している。要するに、AI関連などの一部の企業がハイテクの中でも株価を押し上げているということだ。

(NDX/ナスダック)

③ 来年の米国株の大局観

来年はFRBがいよいよ利下げに動く年になりそうだ。もし、それをメインストーリーとして考えるなら、基本的には米国株には弱気になる必要はないだろう。下の表を見てほしい。過去にFRBが利下げをした年を抜き出している。利下げ回数、利下げの幅、そして年間のS&P500、ナスダック、日経平均の騰落率、更には米国失業率の年間の変化幅を並べたものだ。

過去18回の全体の平均値は、年間の利下げ幅は1.5%となる。失業率は平均で0.4%上昇している。株価はS&P500で10%、ナスダックで15%、日経平均で▲1%という状況だ。
しかし、この中には景気後退や、ハイテクバブル崩壊、リーマンショックやコロナショックなどが含まれる。24年のメインシナリオは、ソフトランディングであるため、もう少し絞り込んだのが黄色の箇所だ。もちろん、24年の環境と全く同じケースはないのだが、それでも似たような状況を選んだものだ。黄色の箇所では、年間に平均0.7%の利下げが行われている。FRBの直近のドットチャートの利下げ幅と近い。失業率はむしろ小幅に低下しており、ソフトランディングを物語っている。この場合、米国株は大きく上昇していることが分かる。要するに、「利下げは米国株にかなりサポート要因となる」のだ。特に、過去2年のように米金利上昇にさんざん苦しめられてきたことから、24年に利下げが行われることは、通常時よりも更に心理的なサポート効果は大きいだろう。もちろん、来年は米国大統領選をはじめ、政治イベントなどのリスクもたくさんある。一方向に上昇するはずはなく、時に大きな調整もあるだろう。しかし、ソフトランディング下における利下げのストーリーが崩れない限り、政治リスクで下落したところは、良い買い場となるだろう。また、上の表からは、米国が利下げの年は、日本株よりも素直に米国株に投資したほうが良さそうだ。特に、来年は日本は利上げ方向だとするなら、米国株のほうが安定してくれると思われる。

そうは言っても、11月からこの年末までのラリーは、少しノリノリ過ぎる。FOMCでのハト派サプライズの影響が継続しているが、流石に来年の第一四半期は調整局面となりそうだ。まだ、この相場は若いのだが、年を超えると、そういうムードも変化してしまうかもしれない。下のチャートは、S&P500のチャートと、50日と200日の移動平均線を加えたものだ。足元はかなり移動平均線から乖離してきている。このまま上昇を継続していくというよりは、いったん頭が抑えられるスピード調整や、あるいは急な反落の展開が起こっても不思議ではないだろう。

最後に米国株の業績見通しも取り上げておこう。S&P500の業績見通しは、このところ下方修正されてきている。それでも、下のチャートのように既に業績は底打ちしており、来年はEPSの伸びが加速していくことが見込まれている。

(S&P500 EPS伸び予想 リフィニティブ)

小型株が多いラッセル2000については、下のように今年の第4四半期で底打ちしそうだ。来年はかなり大きな成長が期待されている。

(ラツセル2000 EPS)

非常に重要なポイントは、ソフトランディングを前提にするのであれば、来年は業績がまず底打ちして、伸びていく。そうした業績が好調な中で、途中からFRBがインフレ退治の勝利宣言と共に、金利を引き下げて、PER面からサポートしてくれる可能性が高いということだ。大局観というレベルでは、私はそのように来年の市場を捉えている。悲観的になる理由がない。
逆に言えば、インフレが少しでも再燃して、FRBがインフレ退治の総仕上げとして、「最後にもう1回だけ利上げ」をするというような状況になったら、この大局観は修正を迫られる。ラスト1回の利上げは、単なる1回の利上げではなく、市場が織り込んでいる来年の6回の利下げ期待を全ていったんキャンセルにさせてしまう。すなわち、それは「7回の利上げ」に匹敵するような衝撃を引き起こす。FRBがラスト1回の念押し利上げに動くことは、非常に大きなリスクであるが、今のところ、その可能性は極めて低いだろう。

さて、来週はお正月だ。24年の相場に期待しながら、ゆっくりと、だらだらと過ごすのもいいだろう。今年も皆様、お世話になりました。良い年をお迎えください。来年もこのブログをよろしくお願いします。

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