岡田将生研究⑯舞台作品に見る美しさと危うさ~倒錯の世界

 先日、主演ドラマ「ザ・トラベルナース」が大好評のうちに最終回を迎えた。人気の秘密は、練られたストーリー展開に加えて、毎話のお約束、岡田演じる主人公那須田歩と中井貴一演じる九鬼静のコミカルなやり取りにある。師弟のようで親子のようでもあった2人の本当の関係性が明らかにされた最終話。「運命の人」という占いの言葉が飛び出し、看護師仲間からあらぬ誤解を受けたまま物語が終わり、さらに公式ツイッターが「いつまでも幸せに」のタグをつけたものだから、BLファンが騒然とし始めた。思い返せば「リーガルハイ」の最終話もゲイオチで終わった。岡田将生には、同性愛を演じさせたくなる何かがある。その傾向は、舞台作品でより顕著に表れる。岡田が2022年12月現在までに出演した舞台作品は全部で8本。そのうち実に6本に、多かれ少なかれBLの要素が散りばめられているのだ。

 岡田の初舞台は、故蜷川幸雄演出の「皆既食」(2014年)のランボー役。19世紀フランスの早熟の天才ランボーと妻がいながらランボーに強く惹かれるヴェルレーヌ。2人の天才詩人の愛と破滅を描いた作品。「最高のキャストが揃わないと実現できない」と語っていた蜷川は、「主演の俳優がなかなか見つからなかったんです。そんな時、『繊細な演技がちゃんとできて、うまいなあ』と思っていた岡田将生君と一緒に仕事をしようということになり、ランボーを提案したら、『やってみたい』と言ってくれた。じゃあ、勝負掛けるか!(笑)ということに」と岡田起用の経緯を説明している。

 岡田にとって3作目の舞台「ゴーゴーボーイズゴーゴーヘブン」(2016年)。大人計画の客演としてトーイとオカザキの2役を演じた。ゴーゴーボーイのトーイの無垢な美しさは主人公の永野(阿部サダヲ)を惑わし、一方オカザキは永野の妻ミツコ(寺島しのぶ)と不倫関係にあるチャラ男。正反対の役柄で夫婦のどちらとも不倫関係を結ぶ2役を岡田に任せた真意を、作・演出の松尾スズキは後にこう語っている。「男同士の生々しいものよりファンタジーに作りたかった。岡田君はとにかく綺麗ですよね。台詞の耳障りも良いし、立ち姿も綺麗で舞台向き。大当たりでしたね。初舞台でゲイをやってるので3回目でもう1回って言うのが引っかかってましたが、受けてくれて良かった。美しさにおいて際立っていて、中世的でフェミニンで男も女もどっちでもいける。繊細な演技もできるしチャラい演技もできる」

 舞台上でガッツリ同性愛を描いている作品は上記の2作だが、ランボーもトーイも「妻のある男性を惑わせ人生を狂わせる魅惑の10代美少年」というところが興味深い。ノンケの男性をも魅了する説得力のある美しさと危うさを表現できる俳優として、他の追随を許さない稀有な存在であることが、2人の演出家の発言からも受け取れる。岡田将生に同性愛者を演じさせたいのではなく、その役を演じる俳優を探した結果、岡田に行き当たったというのが正しい見方であろう。

 次に上記以外の作品にも注目したい。上村聡史演出「ブラッケン・ムーア~荒れ地の亡霊」(2019年)で演じたテレンスは「尋常じゃないハンサムでカリスマ性がある」22歳の青年。12歳で亡くなった幼馴染エドガーの家にやって来るところから物語が始まる。劇中では明確なBL描写はないが、テレンスがエドガーの母親に向かって「僕は彼を愛していた」という台詞があり、かつてテレンスとエドガーは友達以上の関係であったことを匂わせている。また、同じ上村氏演出の「ガラスの動物園」(2021年)で演じたトムは、毎晩「映画館」へ出かけるが、実はどこか別の場所に行っていたというのが定説。「ブラッケン・ムーア」の作者アレクシ・ケイ・キャンベルも「ガラスの動物園」の作者テネシー・ウィリアムズも自身がゲイであることを公表している。

 大人計画の客演2作目でやはり松尾作演出の「ニンゲン御破算」(2018年)で演じたのは侍になりたいマタギの灰次役。ゲイではないが、猪でもOKという別方向にヤバい役で、主人公実之介(阿部サダヲ)に思いを寄せられる。しかし実之介は実は女性であることを隠して生きて来たというオチが付くので正確には同性愛ではないのだが、観客は終盤まで男性に好かれていると騙される仕掛けが面白い。また岡田がタイトルロールを演じたサイモン・ゴドウィン演出の「ハムレット」(2019年)は、親友ホレイシオとの友情が濃密でスキンシップも多い。BLではないがブロマンス要素のある演出であった。

 いずれの作品においても、舞台上の岡田は息を飲むほどに美しい。人間は美しいものを見たいという願望を常に持つ生き物であり、美しいものが儚く壊れていく様に強く惹かれる。岡田将生の倒錯舞台は、観るものの本能を揺さぶるのだ。しっかりとした演技力と有無を言わさない美を併せ持つ唯一無二の俳優を、1番美しい時期に退廃的に使いたいという演出家が多いのもうなづける。岡田が、20代半ばという儚さがギリギリ残る年齢で、これらの役を演じてくれたことを、一ファンとして感謝したい。

 


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