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学校でゲーム? クラーク国際がeスポーツを教育に取り入れる理由

クラーク記念国際高等学校では2018年から教育にeスポーツを取り入れている。eスポーツをどのように授業に取り入れ、生徒たちにどんな成長をもたらしているのか? 同コース顧問の笹原圭一郎教諭、コーチのYuki先生、Arthur先生、そして1年生たちに聞いた。

日本トップレベルのプロコーチから直接指導を受けられる

「おはようございます!」
元気よく挨拶をしながら、CLARK NEXT Tokyo (東京・板橋)eスポーツコースの1年生たちが教室に集まってきた。友達と冗談を言い合いながら、パソコンのセッティグを始める。

「雰囲気いいね。だいぶん挨拶できるようになってきた。入学した頃は顔も見てくれなかったんですよ」と、同コースでコーチを務めるYuki先生とArthur先生が目を細める。
Yuki先生はeスポーツの元プロ選手で、Arthur先生はプロチームのマネージャーや、さまざまなeスポーツイベントを企画、運営してきた経歴をもつ。クラークのeスポーツコースでは、こうした日本トップレベルのコーチたちから毎日ゲームの指導を受けられる。

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学生を対象としたコーチとしてのキャリアが豊富なArthur先生(左)。サッカーや野球など他のスポーツのコーチング方法も学び、授業に取り入れている。Yuki先生(右)はLJL(リーグ・オブ・レジェンドのジャパンリーグ)元プロ選手で、論理的な戦略づくりを得意とする

〝好き〟にとことん打ち込める最先端キャンパス

eスポーツとは、対戦型オンラインゲームをスポーツとして捉える際の名称で、格闘ものやパズル、野球やサッカーといったスポーツなどさまざまな種類の種目がある。国内外にプロリーグが存在し、競技人口は1億人以上。観戦を楽しむ人は4億人以上にものぼるという。さらに、2024年のパリ五輪では正式種目として採用が検討されているなど、近年、「スポーツ」として広く認知されるようになってきた。

こうした広がりを受けて、全国でeスポーツに取り組む高校が増えている。クラークでは2018年、秋葉原ITキャンパス(現・CLARK NEXT Akihabara)にスポーツコース・eスポーツ専攻を設置。以来、全国のキャンパスにeスポーツ部を発足させるなど、学校教育にeスポーツを積極的に取り入れている。

2021年4月には新しいキャンパス、CLARK NEXT Tokyoが誕生。秋葉原にあったeスポーツ専攻をeスポーツコースとして発展させた。CLARK NEXT Tokyoでは「好きは、最強。」をコンセプトにしている。高性能ゲーミングコンピュータ、eスポーツアリーナ、プロ仕様のチェアなど、最先端の設備を使ってeスポーツにとことん打ち込める環境だ。

教室はわいわいがやがや。仲間がいるから学校が楽しい

生徒たちは国語、数学、英語、地理歴史、理科といった一般的な科目を個別最適型学習で学んだ後、「リーグ・オブ・レジェンド」というゲームを実践的に学ぶ。リーグ・オブ・レジェンドとは、世界で1億人以上がプレイする人気ゲーム。5人1人組で互いの陣地を攻め合い、先に敵陣のタワーを破壊した方の勝利。チームスポーツの要素が強く、取り組んでいる学校も多い。

「中学まではフォートナイトをやっていたけど、クラークの体験授業でリーグ・オブ・レジェンドをやってどハマりしました。仲間と戦略を練って相手チームと駆け引きするのがおもしろい!」と話すのは、1年生でコース長の爲谷奨煌(ためやしゅうご)さん。プロ出身のコーチに指導を受けてもっと強くなりたいと思い、クラークを選んだ。

同じく1年生の長澤成(ながさわじょう)さんは「CLARK NEXT Tokyoのeスポーツコース1期生として、額縁が飾られるような歴史をつくりたい」とおどけてみせた。
「額縁ってなんだよ」と爲谷さんにつっこまれると、「うーん……。STAGE:0(ステージゼロ。毎夏に開催される高校生のeスポーツ全国大会)で優勝して額縁入りの写真を飾られたい!」
その場の空気がいっぺんに明るくなった。

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爲谷さん(左)の目標は「先輩たちからジャングルのポジションを奪うこと」。長澤さん(右)は「卒業したらチューターになって後輩たちに教えたい」

笑い声が絶えない教室を見渡すと、ゲームに夢中=内向的で友達が少ないのでは?という先入観がくつがえされる。
「もともと彼らは明るいんです」と話すのは、eスポーツコースの顧問を務める笹原圭一郎教諭だ。

「どこでその明るさを出せていたかというと、インターネット上。ネット上では明るいけれど、学校では暗い。家だとゲームが楽しいけれど、学校に行くのは面倒くさいという子たちがいます。それが本来は逆であってほしい。学校に楽しく来てほしいんです。家に帰ったら、早く学校に行きたいなと思える学校にしたい。それで、彼らが夢中になれるゲームを学校の中に持ち込みました。彼らがいままでオンライン上で一緒にゲームをしていた仲間たちと、この学校にいる仲間たちは同じ。だから、自分をさらけ出せるし、お互いを認め合っている

まずはコミュニケーションを学ぶ。人として成長するチャンス

同コースの生徒たちの中には、中学時代に不登校だったり、引きこもりがちだったという生徒もいる。学校に行きたいけれど朝起きられない、友達がいないから学校に行きたくない……。それぞれに悩みを抱えていたが、ここには仲間がいる。

爲谷さんは「友達の輪に入れなくて、学校で寝てばかりいた」と中学時代を振り返る。「でも、クラークには共通の話題がある友達がいて楽しい。自分から率先して話しかけて、新しい友達がたくさんできました」

互いにゲームが好きな仲間だから、楽しくゲームの話ができる。尊敬しあっている仲間だから、否定されたり、傷つくようなことを言われないと安心できる。自分はそのままでいいんだと思えて、自信につながる。そうやって生徒たちの自己肯定感が高まっていると笹原先生は語る。

「一人じゃなくて仲間と一緒に取り組んでいくなかで毎日学校に来るようになるし、ゲーム以外にもいろいろなことに前向きに挑戦できる。ただ好きだからゲームをやらせるのではなくて、ゲームを教育のツールだと考えています」

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eスポーツ顧問の笹原圭一郎先生。「生徒に自信をつけさせるために、eスポーツをやり続けられる環境を整えることが私の仕事です」

その想いはコーチ陣も同じだ。
「何よりもコミュニケーションと人付き合いを学んでほしい。ハートが弱かったり、コミュニケーションに問題がある生徒もいる。でも、それはゲーム業界にいた自分からするとめずらしくないし、気持ちはわかる。先生ではあるけれど彼らのサイドにいるから大丈夫だよと言っています。みんなが話の輪に入れる楽しい雰囲気をつくりたい」と、Arthur先生は話す。

まずはクラスでしっかりと自己紹介をして、生徒一人ひとりの性格を把握する。生徒の様子をつぶさに観察しながら段階的に課題を与えて、クリアすると思いっきりほめる。そうやって楽しい授業をつくるが、時には本気で怒る。

Yuki先生がうなずきながら続ける。
「中学の時はゲームにハマっていることを隠していた生徒もいる。でも、クラークでは違う。ゲームは楽しいことだし、プロから学んだり、真剣にやることで人として成長するチャンスなんだよと伝えています」

これからの時代を生きていく力を身につける

現状、授業で扱うゲームはリーグ・オブ・レジェンドのみ。(※)「チーム内のコミュニケーションと戦略が問われるゲームだからです」と笹原先生は説明する。
※部活動としてフォートナイトや、ウイニングイレブンなども取り入れている

「リーグ・オブ・レジェンドはゲームの進行状況によって毎試合展開が変わってきます。『今回は誰を中心にゲームをつくるか』『相手チームのエースプレイヤーの特性はこうだからどうやって対策するか』など、チームでどんな戦略を立てるかが勝敗を分けます。さらに、試合展開が変化していくなかで『次は次は次は』と常に考え続けていくことが重要なんです」

次に起きるシチュエーションを想像して、「この状況ならこのパターン」「こうなったら別のパターン」というように、自分たちが取り得る選択肢を増やすために、日頃から知識を培う。こうした練習は、生徒たちがやがて社会人として先行きの不透明な時代を生きるために必要な〝課題解決力〟のトレーニングにもなる。

相手チームに勝つための最適解を考えるなかで、「論理的な思考スキルが身につきます」と話すのはYuki先生だ。

「このゲームは運要素が少ない分、ロジカルに考えないといけない。たとえば、なにか目標があって、それを達成するためにはどういうステップを踏まないといけないかというように、逆算して考えられるようになります。いいことでも悪いことでも、何かが起きた時にそれを理由づけて考えられるし、人に伝える時も感情だけで話すのではなくて、理屈で説明できるようになる。こういったスキルはゲーム以外でも活きてくると思います」

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eスポーツコース1年生の授業風景

「依存症」「ゲームしかできないのか」と言われないための努力

一方で、ゲーム依存症を心配する保護者の声はないのだろうか。
「保護者の方には必ず学校説明会に来ていただいて、お話をさせていただいています。クラークに入学するご家庭の方は子ども達が夢中になれるものを応援してあげたいという方が多く、基本的にeスポーツに前向きです。なかには、学校でeスポーツを学ぶことを不安にも思っている方もいますが、その場合は保護者の信頼を勝ち取るようにと子どもたちに教えています。保護者の方が『ごはんだよ』と呼びかけたり、『ちょっと話をしようよ』とおっしゃっているのに無視してゲームを続けていたら、それは依存症と言われてもしかたがたない。ゲームに打ち込みたいなら、やるべきことはやって、信じてもらうための努力をしないといけないと伝えています」(笹原先生)

学校内でも、信頼してもらえるようにふるまいなさいと教えている。授業中に寝ていたり、テストで赤点を取ると周囲から「eスポーツコースはゲームしかできないのか」と思われてしまうからだ。

「いま、このコースに在籍している生徒たちは、高校としてeスポーツを取り入れたばかりの時期に飛び込んできたチャレンジャー。何をやっても『eスポーツだから』と言われるけれど、逆に君たちがプラスの印象になる行動をすれば、eスポーツを学校でやる意味があると証明できるんだよと口すっぱく言っています」

挨拶や片付け、時間厳守の徹底はもちろん、先輩として後輩にどう接するべきなのか、チームメイトや他の誰かのために自分ができることはなにかということまで考えさせる。こうした笹原先生の方針は、自身がサッカーに打ち込んできた経験に基づいているという。

「サッカーを頑張ってリフティングがうまくなっても、実社会で役立つことはあまりありません。でも、社会に出るとスポーツをやってきたことをプラスに感じる瞬間はあります。生徒たちには、eスポーツを通して自分たちの価値を高める行動を身につけてもらいたいです」

仲間と切磋琢磨して練習に励むなかで、コミュニケーションやマナー、社会性を学ぶeスポーツコースの生徒たち。その様子は他のスポーツと変わらない。

取材・文/大室みどり

8月12日(木)から高校eスポーツの祭典「STAGE:0(ステージゼロ)」が始まります!Yuki先生、Arthur先生が指導するCLARK NEXT Akihabaraの生徒たちが決勝トーナメントに登場!大会の模様はライブ配信される予定です。

■STAGE:0(ステージゼロ) 全国高校対抗eスポーツ大会 公式サイト
■クラーク記念国際高等学校 eスポーツ特設サイト

■コース・専攻でeスポーツを取り入れているキャンパス
札幌大通キャンパス千葉キャンパスCLARK NEXT TokyoCLARK NEXT Akihabara横浜キャンパス神戸三宮キャンパス熊本キャンパス

■部活動や選択授業で取り入れているキャンパス
旭川キャンパス深川キャンパス札幌白石キャンパス仙台キャンパスさいたまキャンパス所沢キャンパスクラークスマート千葉柏キャンパス東京キャンパスクラークスマート横浜横浜青葉キャンパス厚木キャンパス静岡キャンパス浜松キャンパス岐阜駅前キャンパス京都キャンパス三田キャンパス広島キャンパス鹿児島キャンパス

■eスポーツを取り入れている連携校

専修学校クラーク高等学院 大阪梅田校専修学校クラーク高等学院 天王寺校




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