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アリスとジューダス・プリースト その2

僕たちのバンドは、その第一歩を踏み出した。
アコースティックギターとボーカルが僕と裕、
ドラムには野球部のオサム、
そしてエレキギターにイケメンの黒川だ。
4人の興奮は見た目にわかるほどで、
休み時間や放課後にはいつも肩を寄せ合い、
顔を近づけて、ずっとバンドのことを話し合っていた。
当然レパートリーは「アリス」だった。
また、ギターの黒川のたっての希望で、
「甲斐バンド」もレパートリーに加えられた。

何度も言うが、僕たちが住んでいたのは、
とにかく何もない田舎町だった。
その当時の田舎というのは、
情報がワンテンポもツーテンポも遅れていた。
(僕の田舎だけかもしれないが・・・。)
それは都会から離れているという
地理的な原因かもしれない。
あるいはテレビの民放チャンネルが
2つしか入らなかったということも
その原因なのかもしれない。
とにかくそこは、
「田舎は後れている」の標本のような場所で、
僕たちは、知りたいことを自分で調べるしかなく、
それはド田舎の中学生にとって、
あまりにも難しいことだった。
そして、きっとそれが理由だったと思うのだが、
僕たちのバンドにはベースギターがいなかった。
音楽雑誌やレコードジャケットからの情報だけでは、
エレキギターとベースギターの違いを認識できず、
僕たちにはその存在がいかに大切なのかすら
理解できていなかったのだ。
若気の至りとはいえ、なんとも恥ずかしい話である。
ともあれ、僕たちのバンドは始動したのだ。
そのことが重要なことであり、
それ以上でもそれ以下でもなかった。

さて、バンドといえば、練習場所の確保が問題である。
くどいようだが、
僕の住んでいた町は「ド」が付くほどの田舎だ。
都会のように練習スタジオがあるわけもなく、
ある程度大きな音をだすバンドの練習など、
そうそうできる場所があるわけではないと
誰もが思っていた。
しかし、ここは田舎。
ちょっと町中から離れれば
住宅が密集しているわけもなく、
少しくらい大きな音を出しても、隣近所に迷惑をかけるわけではないのだ。
(実際はちょっと迷惑だったらしい)
そこで目を付けたのが納屋。
農家の人が農機具とかを置いておく倉庫である。
幸い友達の多くは農家であった。
友達に相談すると、
「別に悪いことをするわけでもない」ということで、
練習場所に借りることができる納屋が見つかった。
その後は、練習スタジオ「納屋」から
ライブハウス「納屋」へと発展し、
僕たちの中学生バンドは納屋を拠点に活動していった。

中学2年生の後半になると、部活が忙しいからと、
バンドからドラムのオサムが抜け、
これからの活動に暗雲が立ち込めていた。
何とかしなきゃいけないと思った僕たちは、
ある日、バントミーティングを行うことになった。
場所は黒川の家である。
そして僕たちは、
黒川の膨大なレコードコレクションを目の前にして、
彼の数か月にわたる計画を知ることになるのだった。

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