書評⑤世界インフレと戦争~恒久戦時経済への道~

P108~126までの要約です。寸暇を惜しんで読んでてもこの本は面白い。

賃金を抑制を選択した日本

金融化すると株主の力が強くなり、株主利益の最大化のため労働者の人件費が削られる。金融化はアメリカから始まった。
日本もアメリカの金融化を模倣するような制度の導入が行われた。
1997年商法改正 ストックオプションの導入
2001年商法改正 新株予約権の導入
2001年商法改正 自社株買いが目的にかかわず取得・保有が可能
2003年商法改正 取締役会の決定で自社株買いを実施することが可能
2003年商法改正 社外取締役制度導入、外資による日本企業の買収が容  
          易となる
2005年会社法制定 株式交換が外資に解禁
その結果、日本企業の外国人持株比率が2006年には全体の4分の1(1990年代半ばは1割)と増え、株主利益の最大化ために企業へ圧力をかけ、人件費を抑圧することとなった。
また、旧来の日本企業統治の企業は外国人株主の影響が強い企業と比較して賃金が高い研究結果もある。
更に、2000年代以降の派遣労働の原則解禁、確定拠出年金の導入による企業の従業員の年金に関する責任の解放で人件費の削減がより一層可能となった。労働経済白書においても、株主重視と非正規雇用の増大によって、賃金は上がらなくなったと指摘している。
2010年代でも安倍政権により、NISAの導入、GPIFのポートフォリオの国内及び海外の株式比率の増加、機関投資家などのへ規律としてのスチュアードシップコード、企業に対するガバナンスの規律であるコーポレートガバナンスコードが策定されるなど、金融化・株主重視を進めた。
加えて、生産年齢人口の減少は、賃金の上昇要因となるが、女性活躍社会で女性の就労を増やしや人生百年時代で高齢者の就労を増やすといった生産年齢人口の増加をし、挙句の果てに外国人の単純労働者の受け入れを解禁した。つまり、賃金の抑制を選択したのである。

なぜデフレ政策ばかり推進されのか

なぜ、このような状況が起きるのかというと、インフレは貨幣価値を減少させ、デフレは貨幣価値を上昇させる。インフレは労働者にとってメリットだが、資本家にとっては自らの資産を目減りさせるため不利となる。そのため
資本家はデフレを促進する施策すなわち人件費などの削減などを好む。資本家は政治権力と結びつきやすいので、基本的にデフレを促進する新自由的な政策がとられやすい土壌がある。

新自由主義orケインズ主義

1970年代は、ケインズ主義的な需要管理政策の失敗ではなく、原油価格の高騰が原因のコストプッシュインフレであるが、ケインズ主義の凋落と新自由主義の勃興を招いた。
2008年のリーマンショック以降、金融危機の頻発、格差の拡大、長期停滞の原因が新自由主義にあることが明らかとなり、理論の変更が迫られているが、2022年のウクライナ戦争に端を発するコストプッシュインフレによって、再び新自由主義が復権するのか、ケインズ主義が隆盛するのか、歴史はどちらを選択するのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?