見出し画像

ライトノベルの賞に応募する(24)

一覧はこちら↓

 夕食の後、自由時間ということだったが、何をしていいかわからなかった。勉強道具はないし、ピアノを弾くのも目立ってしまう。外に出てはいけないと言われたからサッカーをするわけにもいかない。お風呂も一人で入るように指定された。8時15分から30分まで。着替えを入れてわずか15分。食事を作ることも、あと片付けをすることも、洗濯することもない。手持無沙汰だった。家に居れば今頃家じゅうを回って、何かをしている頃だ。
「うるせー!」
「馬鹿!」
「死ね!」
 そういう単語が当たり前に聞こえてくる。学校で聞いたことないわけじゃなかったけど、学校で聞くより回数がずっと多い。ほかに言葉を知らないんじゃないか? 僕はそういうことをずっと言ってる男の子たちを遠巻きに見ていた。
「お前名前は?」
 同じくらいの男の子に声を掛けられた。
「シュウです。…大森シュウ。」
「ふーん。」
「昨日からだよな? 何で来たの?」
「っえ? それは話しちゃいけないって聞いたけど…。」
「かんけーねーよ。で、何で来たの?」
「…昨日の夜、父親が母親に暴力をして…。」
「ふーん。それだけ?」
「っえ? まぁ…。」
「へー。じゃあお前が殴られたわけじゃないんだ?」
「っう、うん。」
「ふーん。」
 いけないと言われていたことを破ったのが、なんだか重く感じている。
「じゃあすぐ帰れんな。」
「っえ? ほんとに?」
「まぁ、それだけだったら、すぐ帰れんじゃね?」
「そう思う?」
「それだけだったら、まぁ。」
 聞かれている一方だと、なんだか嫌だった。
「君は?」
「俺? 俺も父親の暴力。俺の場合こういう所に来るの2回目だけど。」
「っえ? そうなの?」
「うん。前のところは汚くって…、大部屋だったし。ここはできたばっかでキレイだし、個室なのがいいよな。」
「っ…。妹と一緒なんだ。」
「へー、妹いんの? だるっ。」
「…。」
 僕は、何も言えなかった。洗礼を受けた気がした。先制攻撃だ。
「お前サッカー上手いじゃん。」
「…。」
「なんで、今日一緒にやんなかったの?」
「っえ? なんでって言われても…。」
 相手のペースで会話が進むのが気に食わなかったけれど、何を話すのが適切なのかよくわからなかった。まずは静かに観察して、相手の情報を伺わなければ。
「君もサッカーするの?」
「えっ? うん。普通に。…まぁほかにやることもないし。」
「いつから、ここにいるの?」
「俺? 俺、2週間位かな?」
 何を聞いてよくて、何を聞いちゃいけないかがよく分からなかった。
「何年生?」
「俺? 俺6年。お前は?」
「…5年。」
「ふーん。学校行けねーし、正直飽きてきたよ。」
「ずっと学校行ってないの?」
「そうだぜ? 当たり前だろ? ここから出られるのなんて、出ていく時くらいじゃね?」
「…学校行けないんだ…。」
 初めて知る情報だった。
「お前、知らなかったの?」
「…うん。」
「庭だって広いわけじゃないし、夜は出ちゃいけないし…。規則規則でかったりーよ。」
「…。そうだね。」
 否定はしない。その方がトラブルが起きない。
「俺の場合2度目だし、帰れねーのかもな…。」
「一人っ子なんでしょ? なんで二回も…。」
「俺一人っ子じゃねーよ? 下に3人いるわ。でも俺だけボコられるから、俺だけここに連れて来られた。」
「…。」
「学校で先生にあざがばれて、学校からそのままよ。」
「…そうなんだ…。」
「ここに居たら、とりあえずボコられることはないし、飯も不味くないし、ちゃんと自分の分あるし…。学校行けねーのがつまんない位で、別に悪いところじゃないぜ? 春休み潰れたけど、家に居たらどうせボコられるし。」
「そうなんだ…。」
「明日、サッカー一緒にやろうぜ? メンバー増えた方が楽しいし。」
「っうん。」
「俺、太田ハジメ。一人目だから、ハジメって、俺の親ばかみたいだろ?」
「…っうん…。」
 同意しずらかった。
「名前なんて記号だし、別に何でもいいんだけど…。」
「…。」
「まあ、そんな構えたり。お高くとまってんなよ。仲良くしようぜ?」
「うん。」
「シュウだっけ?」
「うん。大森シュウ。」
「シュウって呼んでいい?」
「うん。」
「俺、一個上だけど、ハジメでいいよ。」
「うん。よろしく…。」
「おいハジメ! 大富豪すんぞ!」
 テーブルから声が掛る。
「やるー! お前もやる?」
 ハジメは、僕もトランプに誘ってくれた。
「僕、ルールよくわかんないけど…。」
「教えるよ。すぐ覚えっから。大丈夫だって。」
 ハジメはそのメンバーに僕の事紹介してくれた。小五で、父親の暴力、名前と、明日サッカーを一緒にすること。
 僕は、大富豪というゲームを初めてやった。最下位になると一番強いカードを2枚勝者に渡さなければならず、僕は負け続けた。八切とかイレブンバックとか細かいルールがあって、飲み込むまでに時間がかかった。革命が起きると、一番弱いはずの3が強くなるし、何回か僕はほとんどカードを捨てることができず、一人だけ何枚もカードが残ったままゲームが終った。
「バーカ!」
 と、ハジメに何度も言われた。悔しかったけれど、ルールを間違わずにやるだけで必死だった。
 ハジメのおかげで、なんとなくそのグループに打ち解けることができた。乱暴なんだか、親切なんだかよく分からなかった。お風呂の時間で順番に抜けて、僕のお風呂の番になった。僕は一旦2階の部屋に戻って、タオルと下着、パジャマを持って、お風呂に入った。
 あっという間の一日だった。わずかな時間、湯舟に浸かりながら、そんなことをぼーっと思った。窓の外は真っ暗だった。でも昨日より少し、余裕があった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?