新規事業とは、バイアスと向き合い、直感を疑うこと(新規事業開発室・社内起業を考察する④ )
こんにちは!
私は株式会社A(エース) で執行役員を務めています。キャリアは偶然にも、10年間ずっと新規事業開発で、大きな企業から、起業Day1の企業まで、幅広い企業体で新規事業を行ってきました。
前回の投稿では「事業の"失敗"とはなんなのか」について考察しました。
今回は「新規事業とは、バイアスと向き合い、直感を疑うこと」というテーマで考察していきたいと思います。
新規事業は、バイアスと直感にまみれている
人には様々なバイアスが存在していて、それらは意思決定に大きな影響を与えることは、経済書でよく語られていると思います。
有名なのは「確証バイアス」「チャンピオンバイアス」とかですかね。
決して僕はバイアスの研究家ではないので、バイアスの種類や詳細を伝えることはできませんが、新規事業は「バイアスとの戦い」だと心から思っています。
バイアスと向き合って、直感に翻弄されず、最後の最後まで自分の論理を疑い、ギリギリの状態で意思判断を行っていくのが、新規事業だと思っています。
僕が新規事業において、特に気を付けているバイアスとしては、以下の通りです。
①自身の成功体験バイアス
②経験者からのアドバイスバイアス
③費やした時間と労力のバイアス
④好都合なユーザー像を作り出すバイアス
⑤シナジーのバイアス
それぞれが具体的にどんなものだったのか、経験談を交えつつ、紹介していこうと思います。
①自身の成功体験バイアス
どんなに小さな規模でも、事業を黒字化させると、特に責任者は自分の『自信』になっていくと思います。
自信は本当に重要だと思います。新規事業はどこかでアクセルを踏まないと、いつまで経っても進まないです。そのアクセルを踏むには、自信が重大な役割を果たします。
しかし、それが「過信」なのか「自信」なのかは、本当に常に向き合わなければならないなと思います。
特に「過信」になりやすいのが、一度成功体験のある業界から、近しい業界(もしくは同業界)での事業です。
僕の体験で言うと、以前にメディア事業を行っていたことがありました。そのメディア事業は「SEO」を軸に順調に成長していて、当時はSEOをハックしている実感がありました。
SEOをハックできていれば、どんなジャンルでもメディアは成功できると思っていたので、二つ目の事業を走らせました。
しかし、その二つ目の事業は鳴かず飛ばずでした。原因は以下の通りです。
①一つ目の事業時のSEOのアルゴリズムとは変化していて、トレンドを追えていなかった
②SEOよりも、リアルタイムニュースやSNS戦略が求められる業界の性質だった
③レッドオーシャンかつ、圧倒的なチャンピオンが既にいた
どんなに似ている業界であっても、全く異なる市場環境、全く異なるアルゴリズム、全く異なるセンターピン、全く異なる競合相手・・・それは「似ても似つかない事業」でした。
ちなみに、ここで一つ面白い研究を紹介します。
海外で、300人ほどの「経済専門家」を集めて、実験が行われました。実験内容は「経済・政治の未来を当てられるか否か」です。
この実験では「経済専門家達の予測よりも、ランダムな予測の方が当たっていた」という結果がでました。
「経験」から生まれる「直感」は、専門的な職業(会計士、消防士など)では価値があるみたいですが、ビジネスとなると通用しなくなる場面が増える模様です。
②経験者からのアドバイスバイアス
初めに誤解がないように伝えると、自分のために真摯にアドバイスをくれる方は本当に貴重です。私もそういった方々に、本当に何度も救われてきました。
気を付けなければならないのは、アドバイスをもらうことではなく、そのアドバイスだけで「全ての情報を得た気持ちになる」ことです。
特に、その業界で名を馳せたようなビジネスマンの方の言葉は、何よりも自分に充足感を与えてくれます。
しかし、私たちがビジネスをしていく相手は「ユーザー」です。ユーザーの意見よりも、ビジネスマンの意見が大切ということは、絶対にありません。
また、そのアドバイスをくれた人は「どんなビジネスで成功した人なのか」というのも、しっかりと考慮する必要があります。
ビジネスは、多岐にわたる要素で構成されていて、とても一括りにはできません。ユーザー心理に憑依することがうまい人、マネジメントがうまい人、営業がうまい人・・・など。
頂いたアドバイスには最大の感謝と敬意を払いつつ、ビジネスのコアとなる土台の情報はしっかりと自分自身で集めて、その上で融合させるのが良いと思います。
③費やした時間と労力のバイアス
このバイアスと向き合うのはめちゃめちゃ大変です。どんなシーンでこのバイアスが降りかかってくるかと言うと、具体的には以下のようなシーンです。
①しこたま準備をしてきた事業において、スタート直前で「クリティカルな
落とし穴」に気づいたとき
②M&Aで事業を買収するとき
特に①は地獄です。準備を手伝ってくれた方、一緒に熱い思いで進んでくれた方、既に投資してきたお金、費やしてきた時間。それを真っさらにするのは、まじできっついです。
ちなみに、留意点としては、事業のスタート直前はネガティブな情報に「引っ張られやすい」時期です。
未来へのプレッシャーから弱気になり、軽微な落とし穴でも、クリティカルに感じてしまいます。
本当にその落とし穴はクリティカルなのか、クリティカルだとしても改善策はないのか、ギリギリまで向き合う必要があります。
ちなみに、これが起こりやすいのは「開発期間」が必要な事業です。例えばSaaSの場合、開発に3ヵ月~半年は最低でもかかると思うのですが、完成間近に「あっ」と気づいてしまうことです。
②に関しても、自分が費やしてきた時間や労力の心理が働きやすいです。せっかく用意周到に調べてきた買収対象の事業に、他社の方がほんの少し大きな金額を乗せてきたときに、起こりやすいと思っています。
「せっかくあれだけ調べたのだから・・・」と、あまり合理的ではないロジックで金額が上がってしまいます。オークションとは、そういう心理を利用して、金額を釣り上げていくものです。
とは言えど、弱腰すぎると「機会損失」になってしまうのも事実です。その買収に敗北したときに「あんな高い金額、理にかなっていない」と自分たちを納得させるのは簡単です。
スタートアップにとっては「機会損失」こそが悪だと私は思っています。
④好都合なユーザー像を作りだすバイアス
これは有名なバイアスですが、人は「自分に都合のよい情報」を記憶しやすいです。
特に気を付けなければいけないのは、ユーザーアンケートだと思います。
例えば、高級車のユーザーに対して「この車が値下がりしたら、あなたは嬉しいですか?」というアンケートを行ったら、ほとんどの人が「嬉しい」と答えるでしょう。
しかし、その減額は、ブランディングの毀損に直結するかもしれません。
そういった表面上のアンケートを元に、私たちは都合のよいユーザー解釈ストーリーを自分の頭の中で作ってしまいがちです。
僕は以前、悩み相談サービスに携わっていたことがありました。そのサービスでユーザーに「何を求めているか」と聞くと、十中八九で「悩みを解決してほしい」でした。
しかし、ユーザーの行動を見てみると「悩みを解決してほしい」がコアな欲求ではないことが分かったのです。
ユーザーは、先生からどんなに正論を言われても、自分に都合の悪い情報は取り入れませんでした。例えば「いま不倫しているのですが、どうしたらよいでしょうか」という相談に対して「不倫なんて絶対にダメだよ」と正論を伝えることです。
正論を言われた人は、その場では「そうですよね、不倫はやめます」と言うのですが、その後の行動を追跡すると、結局他の先生に相談をしにいくのでした。
ユーザーが求めていたのは「味方」でした。不倫という世間的に批判されやすいトピックは、身近な人に相談することはできません。
⑤シナジーのバイアス
シナジーという言葉は、魔法の言葉です。この言葉があれば、どんなことも成功する気がしますよね。
マーケティングが強い会社なら、衰退傾向にあるブランドでも、自身のマーケティング力で再成長させられる気がします。
しかし、マーケティングと言っても、これもまた一括りにはできません。デジタルマーケが強いのか、マスマーケが強いのか、はたまたジャンル特化型が強いのか。
マーケティングの根本的な考え方は、どんな手法であっても通ずるものがあるとは思います。しかし「シナジー」という言葉だけで、盲目的に事業発進するのは危険です。
私の経験談で言うと、直近で「SNSマーケティングのSaaS」を立ち上げました。そもそも会社で「SNSマーケティング」を行っていたので、「SNSマーケティングのSaaS」はシナジーがあると思っていました。
しかし、蓋をあけてみると、ターゲットが割と異なっていたのです。SNSマーケティングはメーカーさんが主なユーザーなのですが、SaaSの方は初期では代理店さんが主なユーザーでした。
SNSマーケティングでは「売上」が求められていたのですが、SaaSでは「マーケティングの効率化」が求められていたのです。
さて、本日はこの辺にします!よかったら、ぜひフォローをお願いいたします。そして、A(エース)では、新規事業開発・SNSマーケティング・SaaS・D2C開発と、全方位的に人材を募集しています。もしご興味がございましたら、気軽にDMしてください!
A(エース)
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