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『遺伝子が語る 免疫学夜話』

『遺伝子が語る 免疫学夜話』
橋本求 晶文社 2023

最近読んですごく面白かった本がこちら。

この本の著者、橋本求氏は大阪公立大学医学部膠原病内科の教授で、自己免疫疾患を専門としています。


免疫とは、体の外部から侵入してきた細菌やウイルスなどを攻撃し、体を守る仕組みのことをいいます。

例えば、インフルエンザウイルスに感染、発症すると、高熱が出て倦怠感や関節痛、咳や鼻水が出たりして非常にしんどいですが、これらの症状は、インフルエンザウイルスを排除しようとする免疫の働きによるものです。

免疫は外部から侵入してきた異物に対して発動するシステムですが、ときとして自分の組織に対して免疫システムが発動することがあります。
これを「自己免疫」といいます。

「自己免疫疾患」とは、自己免疫により自分の組織が攻撃され、損傷してしまう状態のことをいいます。標的となった組織では強い炎症反応が起こり、損傷を受けます。

関節リウマチや全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、バセドウ病、クローン病など、さまざまな病気が知られています。

インフルエンザウイルスに感染しても、免疫の仕組みによってウイルスが体から排除されれば症状はおさまっていきますが、
自己免疫疾患の場合は自分の組織が攻撃対象なので、「攻撃が止まらない」状態になります。

つまり、自己免疫疾患の患者さんの体は非常に大きなダメージを受け続けることになります。

以前は、免疫学者たちは「このような自己免疫疾患は人間にとってデメリットが大きすぎる病気なので、進化の過程で残り続けるのはおかしい」と考えていたそうです。

しかし、現実に自己免疫疾患は存在し、多くの人が苦しんでいます。

さらに、自己免疫疾患と同じく、免疫系の異常としてアレルギーを持つ人も急増しています。
なぜ、自己免疫疾患やアレルギーは存在するのか?

本書では、近年になって得られた新しい知見を紹介しつつ、その謎に迫っていきます。

本書の最初の方にあったこの一文がわかりやすかったので引用します。

自己免疫疾患やアレルギーというのは、人類が何万年もの年月を様々なエピデミック(地域における感染爆発)を乗り越えながら生き延びてきたことと、切ってもきれない関係にある「宿業の病」である、という姿です。

『遺伝子が語る 免疫学夜話』より

ネタバレになってしまいますので詳細は書きませんが、

本書の前半では、バイオインフォマティクスという手法を用いて、遺伝子配列と病気のなりやすさの関係を解析することで分かってきた、感染症と自己免疫疾患の関係について述べています。

さらに、「幼い頃に非衛生的な環境で育つことで免疫系が発達し、大人になってからアレルギーや自己免疫疾患を発症しにくくなる」という「衛生仮説」について言及し、自己免疫疾患と環境の関係について論じます。

後半では、生物の進化と免疫システムの発達について述べ、そこから、現代の多くの人が悩むアレルギーについて、アレルギーと寄生虫感染の関係や、アレルギーが存在する意義について話が展開されていきます。

個人的には、獲得免疫の起源について、獲得免疫を持つ生き物と持たない生き物の体の構造の違いについての話が面白かったです。


免疫学というと、かなり複雑でややこしい話が多い印象がありましたが、本書はどの内容も非常にわかりやすく表現してあり、他の免疫学の本とは一味違う印象でした。

まだ教科書にも定説として載っていないような比較的新しい学説を載せていたり、衛生仮説やリーキーガットなど否定的な見方をする研究者も一定数いるような内容にも触れていて、筆者の柔軟な考え方も良かったです。

養老孟司さんも「読むとやめられなくなる」とおっしゃっているように、私も本当に面白くてあっという間に読んでしまいました。

免疫学に興味がある方はもちろん、免疫学に苦手意識のある方も是非。

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